座談会出席者

- 左より
- 大原謙一郎 理事長
- 富田 秀男 事務長

- 右より
- 福岡 敏雄 医師教育研修部長
総合診療科主任部長
- 黒瀬 正子 看護部長
富田 新中期計画の重要課題である「人材確保と育成」は、病院運営の要です。昨年は創立85周年ということで、大原理事長にミッションステイトメントとして「私たちの使命と目指すべき病院像」についてお話をしていただきました。本日は、それを具現化するために、人づくりをどうすればいいのかをお話しいただきたいと思います。
福岡 研修医について言いますと、当院が研修医をひきつける上での一番の強みは、専門医集団がすべての分野で揃っていて、なおかつ地域の医療機関からも信頼され、診断や治療の難しい患者さんが送られてくるということです。そういう臨床業務をそのまま教育のリソースに変えるようなシステムを作ることで、かなりいい教育システムができるのではないかと思い、この2年半やってきました。
大原 いいドクターに育っていただくための仕組みを作ることは、いい研修医に来ていただくこととニアリーイコールですからね。いろいろ工夫をして、ご苦労も多いでしょうね。
「ヒドゥンカリキュラム」が豊かな病院に
福岡 私がこの病院に来ていいなと思ったことは、病院全体が若いドクターがたくさん来るようになってよかったと感じているということです。若いドクターに集ってもらうことだけでも、十分、病院に対してよいインパクトがあります。
大原 いいドクター、いい指導者がいるから若い元気なドクターが来る。元気なドクターが来るから病院全体が活発になる、ということですね。 また、若いドクターはナースに育てられる、ということもありますでしょう(笑い)。
福岡 ええ。逆に、ナースも若いドクターとのやり取りの中で育つ、という面もあります。私も以前、循環器内科におりまして、前の看護部長の江尻さんやナースたちと、病棟の中でああでもない、こうでもないとやっていました。
大原 病院の外でも?
福岡 もちろんです(笑い)。だから、名古屋大学にいたときも「僕の医者としてのふるさとは倉敷だよ」とよく言っていました。
大原 ありがとうございます。先生のように、いつか倉敷に戻ってきたいな、と思ってくださる先生が1人でも多いことは、すばらしい財産です。
福岡 実際に、多くの歴史ある研修病院では、人が循環することで、その病院が持っているマインドを具現化し、さらにモダンなものに作り変えていく、ということを繰り返しているような気がします。虎ノ門しかり、聖路加しかりです。
大原 当院に戻っていただくためには何が必要かというと、今おっしゃったマインドが非常に大切ですね。中央病院にいたらいろんなことが学べる、自分も成長できるということもありますが、それに劣らず、自分は中央病院のあり方に共感する、という点が非常に大きいでしょう。
福岡 最近の医学教育や成人教育では「ヒドゥンカリキュラム」ということが言われまして、明らかに目に見えるカリキュラムだけではなくて、我々のちょっとした振る舞いや言葉などが、ものすごく同僚や部下に影響を与えている。組織文化という言葉に置き換えられるかもしませんが、そういうものを意識して管理していかなくてはいけないということが盛んに言われています。
大原 「ヒドゥンカリキュラム」が豊かな病院でありたいですね。
福岡 ただ最近、急速に医師の数が増えていますので、これまで諸先輩方が倉敷中央病院の中で培ってきた、組織文化といいますか「ヒドゥンカリキュラム」のようなものが、末梢まで通じにくい大きな集団になってしまったのではないかな、という危機感を感じることは時々あります。
ラダーは自己の立ち位置を知るツール
富田 数が多くなった、組織が大きくなったという意味では、看護部門も同じですね。今年も150名が入職しました。 これからのチーム医療の要になるのは、やはり患者さんとの接点が一番多い看護師さんです。人材の育成ツールとして、クリニカルラダー制度をとっておられますが。
黒瀬 ジェネラリストとしての看護師のラダーはTからWまであります。Wはスペシャリスト領域になると思います。急性期の当院では、優秀なジェネラリストに力を発揮してもらわないといけないので、ラダーの階層はすごく意識しています。 新3棟に向けて人を育てていかなければいけない時期で、ラダーUやVの人たちが実践力をつけ、急性期の看護を担えるようになることが必要です。新人が増えて、今はラダーVの者が3割弱です。もう少しラダーの高いナースを育てなければならないと考えています。一方でエキスパート、スペシャリストを育てていくことで、看護の質の底上げをしていきたいと思っています。 修士課程で専門看護師を取得した者が複数人(小児、母性、急性・重症)になり、現在、勉強中の者もいます。認定看護師も皮膚・排泄ケア、がん性疼痛看護、集中ケア、新生児集中ケア、医療安全と多くなりました。最近、透析看護と緩和ケアの認定試験に合格しています。認定看護師は現場で実践する姿を見せる役割がありますので、病院横断的に教育が広がっていけば、もっとラダーが上がっていくかなと期待しています。 また、新人が増えましたので、看護管理室の方に新採用者専任の看護師長を配置し、病棟を支えていくという体制をとっています。
富田 ラダーについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
黒瀬 クリニカルラダーは、自分の成果責任や成果を生み出していくために必要な能力、臨床実践力がどれくらいかということを、看護師長や上席看護師と一緒にみていくものです。技術や知識ではこういうところが足りないとか、あるいは能力・行動特性では、セルフコントロールがうまくできない、相手と共感的にかかわることができないなど、自分の今の立つ位置を見極め、達成目標を明確にすることができます。 ラダーが高いから優秀だというのではなくて、プロセスの中で努力していくことができるのか、目標管理と合わせて、看護師長や教育担当の看護師と一緒に見ていくことで、確認ができるということです。
富田 「見える化」ですね。
大原 そこで大切なのが、先ほど福岡先生が言われた「ヒドゥンカリキュラム」ならぬ「ヒドゥンラダー」ですね。看護師としての風格というか、信頼というか、それは決して、スキルだけではない。しかし、病室にフッと入って来たら、患者さんがほっとするような看護師さんは素晴らしいですね。このことを、絶対忘れないようにしなければ。
患者さんに興味を持つ
福岡 初期研修の人たちとディスカッションしていて最近、分かってきたことですが、いい問診というのは、結局その目の前の患者さんに興味を持って聞いているかどうかということです。医療人として話をするときに、「何でこの人、今日来たんだろう」「どうしてこんなにしんどそうな顔をしているんだろう」って。 大学での面接の仕方の指導というのは、きちんと自己紹介をしたか、目と目を合わせて話をしたかなど、表層的です。しかし、そのもうひとつ下にある、「患者さんに興味を持って聞いているか?」「患者さんのことを一生懸命考えながら聞いているか?」ということが、案外、一番キモになるところだという気がしてきました。
大原 私も、患者としてはかなりのベテランです(笑い)。何度も入院したことがあるからよく分かりますが、医学的興味はどのドクターも持っておられます。それを超えた、人間的興味を持って接していただけるかどうかということで、患者の気持ちもずいぶん変わります。
福岡 とても多くの患者さんが一度に外来に来たとき、一人ひとりに興味を持つということは難しいかもしれませんが、ここというときに、それができるかどうかということが差になります。
黒瀬 患者さんに関心を向けられる看護師は、その瞬間にすごいエネルギーを注いでいるというのではなくて、ごく自然にスーッと患者さんに向き合うことができ、患者さんの方でも、自然に応えてくださるのではないかと思います。対人感受性が高いということだと思います。
福岡 その方が、案外スーッと病気そのものに迫れたりしますね。
黒瀬 看護師のスキルは、その部分が失われたら、存在価値がなくなるので、基礎教育段階からしっかり鍛えています。
自分自身を育てる楽しさを知る
福岡 後期研修でうちの病院に来る医師が非常に多いのですが、ぜひ「自分を育てられる医師」になって欲しいと思っています。プロフェッショナルとして自分を育て続けるためには、自分に何ができるか、何が足りないか、何を身に付けなければならないかを、現場で判断しながら、身につける努力をし続けなければなりません。 自分自身を育てることは、実はすごく楽しいですよね。それを感じられるようなチャンスが、もっと増えるようにしたいと思っています。
大原 自己実現ですね。すべての職種の方に言えることですが、自分なりの自己実現を大事にするということと、患者さんの満足度が一致すればするほど幸せですよね。
福岡 やっていることに矛盾がなくなりますね。 そして、真の専門医はその分野において優れた能力を発揮するだけではなく、患者に求められる医療を提供するために、自分たち以外の専門医・医療職と協力して、互いの専門能力を最高に引き出すチームを形成することが大切です。このことが「地域医療への貢献」にもつながります。
多職種の専門能力を引き出すカンファレンス
大原 そのためにも、ドクターなり、ナースなり、コメディカルなりが、勉強やディスカッション、コミュニケーションなどの機会を持てるような仕組みを作ってあげることが、人材育成の上では、いろんなことを教えることと同じくらい意味があると思います。
福岡 最近は、看護師さんもカンファレンスに参加するチャンスが結構、増えてきていますね。
黒瀬 ナースの方から積極的にお願いしています。例えばターミナルの患者さんのカンファレンスは、お互い背負い込んでしまうとしんどくなるのはドクターもナースも同じです。そういう時は緩和ケアカンファレンスを行い、残念ながらお見送りをしてしまった患者さんにはデスカンファレンスを行って、お互いに認めあっていきます。 退院支援カンファレンスでしたら、地域の方に入っていただいて行うようになってきています。
大原 カンファレンスに、地域の方も入られるのですか?
黒瀬 そうですね、在宅へ帰られる場合はケアマネさんですとか、場合によっては学校の先生に入ってもらうこともあります。そういう場合は、メディカル・ソーシャルワーカーさんに依頼をしたり、我々から直接お願いさせていただいたりしています。そうしたカンファレンスは、非常に前向きなものになりますね。
大原 学校の先生方とのディスカッションは、自分の見方とは別の見方で考えられるので、非常に勉強になりますでしょう。
富田 カンファレンスの話が出ましたが、薬剤師さん、栄養士さんもカンファレンスに入られていますね?
黒瀬 そうですね、緩和ケアカンファレンスでは薬剤師さんに入っていただきます。NST(※注)では栄養士さんも中心になっていろんな工夫や提案をしてくださるので、私たちの要望も言いやすくなります。
福岡 私が参加しているICUの朝のカンファレンスには、必ず薬剤師の方が1人来てくれます。彼らは薬のプロですので、我々とは比べものにならない情報量、しかもアップデートされた情報を持っています。患者さんに安全で有効な判断を行う上で、とても重要だと感じています。 NSTの方も週1回、来て、いろんな意味で全人医療が行われています。
黒瀬 福岡先生の言われた「薬剤師は薬のプロです」とか「このことは看護が一番なんですよ」とか、お互いの専門性を認め合えるカンファレンスをしてもらえると、すごく元気が出ます。
富田 そのあたりが、理事長がおっしゃっている「連携するプロ集団」ということになってくると思いますが・・・
黒瀬 そうです。やはり医師は医療のチームのリーダーですので、リーダーがどういう思いでそれぞれの仕事を見てくれているのかが分かると元気が出ます。意見をぶつけ合うのは、とても勉強になりますし、楽しいです。
大原 コミュニケーション能力が大切になりますね。的確な日本語を使って自分の思いを正しく伝えるためには案外、工夫と気配りが必要ですね。
福岡 僕たち医療者の言葉は、とてもインパクトがあります。だから絶対に病状に関する冗談は言ってはいけないし、慎重に言葉を選んで話さないといけないですね。患者さんはしっかりアンテナを張って聞いているので、ちょっとしたしぐさや言葉じりにも敏感です。常にリスクを意識して、緊張感をもって話すようにしてほしいと思います。
自己実現をサポートする設備
富田 ところで、自己実現を実感してもらうためには、どうすればいいのでしょう。
福岡 ここ2年くらいで電子教科書や電子ジャーナルを整備していただいて、現場で疑問をもったら、世界の最新の情報にアクセスできる環境ができました。医師だけでなくて、リハビリや薬剤師の方など、誰でも利用できます。2年前でしたか、聖路加国際病院の図書センターに見学に行きましたが、予算を比べてもうちの方がかなり上でした。先日、向こうのチーフレジデントが見学に来られましたが、当院の情報整備レベルは聖路加とほとんど変わらない、と言われました。 電子カルテもこれから新しいものを導入するので、医療の質や学習の質を保証するようなシステムが整備されると思います。
大原 「倉敷」という土地に伴う課題を克服するために、私たちは知的環境の充実に力を入れています。新3棟でも、かなり工夫しています。
富田 新3棟といいますと、シミュレーションセンターも計画しています。
黒瀬 シミュレーションの機器はいろいろ買っていただいて、ドクターもナースも使っていますが、中央化されていないですね。
福岡 院内に分散しているシミュレーションの機器を一括管理して、24時間利用できるようにするだけでも、かなり教育効果は上がるように感じます。
黒瀬 図書室も24時間開けていただいているので、看護師も夜勤の帰りに寄って利用しています。学生の応募理由の一つに、当院は教育制度がいいということがあげられています。ラダーがあり、自分で自分を育てていくための教育がちゃんとできるというところですね。 先生方と一緒にシミュレーションセンターが使えたり、先生方に講義をしていただけると、とてもいいと思います。
福岡 シミュレーションセンターを利用して、地域の開業医の先生方に胃瘻のチューブの挿入の仕方などを練習していただくこともできますので、地域連携、地域貢献にも役立ちます。
富田 薬剤部の方でも、薬剤師は昔のように調剤をしているだけでなく、どんどん臨床に出ています。栄養士や多くのコメディカルの人たちも、患者指導やドクター、ナースとのカンファレンスを行っています。今までは、どちらかとういとクローズドな環境にいた人たちが、どんどん表に出るようになりました。コミュニケーション能力など、全病院的な教育システムを検討すべき時機に入っていると思います。
大原 コメディカルのスタッフの皆さんも、ある意味で自己実現の幅と深みが、非常に広くなってきているのでしょうね。
国際交流はアジアがおもしろい
富田 国際交流についてはどうでしょう。新中期計画に入っていますし、若い方たちには魅力だと思いますが・・・
福岡 私がここに赴任した年の春、たまたま、ある診療科のシニアから海外出張の相談を受けました。当時はまだシニアの海外出張の規程がなかったのですが、1年足らずで作っていただいて、シニアも、この病院の研究であれば海外に行けるようになりました。たぶん、毎年3〜4人は行っていると思います。 外国に行くと、いろんな意味で刺激を受けます。また、年に1回海外から講師をお呼びするようにしていますので、これも刺激になっています。
大原 そうですか
福岡 今後は姉妹病院を作るとか、いろんな職種のスタッフが、継続的に交流できるようになればいいですね。
富田 こちらから出すだけでなく、受け入れるということも、大いに刺激になりますね。出すのは1人ですが、受け入れると、その周りの多くの人が影響を受けます。
福岡 「姉妹病院」というとすぐアメリカを思い浮かべますが、逆に韓国とか台湾の方が、1000床、2000床の巨大な病院があって、その周りをサテライト病院が囲んでいて、案外、当院の状況に似ていたりします。
富田 韓国は財閥系が大規模な病院を経営していますね。
福岡 メンタリティも似ていますしね。
富田 いろいろと有益なお話をいただきましたが、そろそろまとめに入りたいと思います。
すべての基本は人間愛
大原 若いドクターにとって一番いいお手本は先輩ドクターなので、先輩のドクター方が、一段でも二段でも高くなるように、という気持ちを持つことが大切です。 今日は「ヒドゥン」という言葉がよく出てきましたが、これは、中央病院のみんなが共通に持っている志だと思います。院是の心、院長先生の方針の心でもありますが、一言でいえば人間愛です。 先ほど、「どんなことをする時も、相手に興味を持っているかどうかが基本だよ」という話がありましたが、これこそが人間愛の基本ですね。それがうちの病院を貫く理想でもあるし、うちに来てくれる人を育てるための一つの基本です。私たち自身、それをいつも忘れないようにしないといけません。人間愛というのは、中央病院だけでなく、美術館もそうですし、私たちの姉妹事業すべてに通じるものだと思いますよ。
福岡 大原記念ホールにある「皆春」という額は、後藤新平(※注)先生が書かれたんですね。彼は私が以前勤めていた名古屋大学の前身である名古屋医学校の最初の学長です。亡くなる直前に「お金を残すやつは下だ。仕事を残すやつは中だ。人を残すやつが上だ」という言葉を残しました。人材育成は、自分の人生を2倍にも3倍にもできる楽しい仕事でもあります。これも一つの縁だと思いますので、まだまだ頑張ってみようと思っています。
黒瀬 この病院はもともと看護のことをとても大事に考えて、創立時から養成所を作って看護師を育ててきました。大学や他の看護学校の学生が来ますと、ここほど丁寧に指導されるところはない、と評価をしてくれます。それは、私たちの後輩は私たちが育てる、という風土が培われているためかなと思います。
富田 以前の会社で長いこと人事を担当してきましたので、その経験をこちらでも活かしていきたと思っています。ドクターについては、福岡先生が非常にいいものを作っていらっしゃる。看護部はラダーを作って上手く運営されています。 コメディカルがこれからの課題です。チーム医療となりますと、薬剤師、CE、医療秘書、事務も含めまして全体の底上げが必要です。育成の場や、見習うべきツールには事欠かない感じがしますので、メーカーの人事での私の経験がささやかでも活かせるのであれば、仕組み作りのお役に立ちたいと思います。
大原 お願いします。それと、職員の健康管理も忘れないでお願いします。
(※注)
| NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム) |
基本的医療のひとつである栄養管理を、症例個々や各疾患治療に応じて適切に実施するため、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、リハビリ技士など多職種で構成された治療チーム。 |
| 後藤新平(1857年、現岩手県出身) |
明治・大正・昭和初期の官僚、政治家。医師として出発し、台湾総督府民生局長、南満州鉄道総裁、内務・外務・逓信の各大臣、東京市長等を歴任。関東大震災後、東京の都市復興計画を立案した。彼の計画・構想はその規模があまりに大きなことから「大風呂敷」とあだなされた。 |
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