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 レジデント広場−
 人工呼吸管理の第一人者 Marcelo Amato 先生をお招きして

    ― シニアレジデントの症例提示にアドバイス
Marcelo Amato 先生によるレクチャー

3月3日、ARDS(acute respiratory distress syndrome)の人工呼吸管理の第一人者であるMarcelo Amato先生をお招きし、レクチャーとケースカンファレンスをしていただきました。
Amato先生はブラジル サンパウロ大学の呼吸疾患研究所の教授です。集中治療医です。集中治療、特に重症呼吸不全患者に対する人工呼吸管理を行っていれば、彼の論文や総説は必ず読んだことがあるはずです。今回、無理をお願いして、広島での集中治療学会参加の途中に倉敷に立ち寄っていただきました。
彼とは何度かベッドサイドで患者を診て、装着されている人工呼吸器を見て話し合う機会がありました。最新の知見と自分自身の考えを明確に切り分けながらディスカッションしてくれます。最善と思われる治療法について合意を得るというプロセスがとても楽しいと感じられる人です。研究者であるだけではなく、臨床家であり教育者です。
今回は、午後の早い時間という、集まるのが難しい時間しか取れませんでしたが、単なるレクチャーではなくケースカンファレンスをお願いしました。

レクチャー:How to recruit injured lungs
ARDSの患者に対して、リクルートメント法が行われています。しかしながら、現在のところ臨床試験では生存や人工呼吸器装着期間短縮に関する優位性は示されていません。この点について、実施方法とどうして過去の臨床試験で優位性が示されていないことに対する私見、またAmato先生が実施している臨床研究の内容と進捗状況について、解説していただきました。
キーポイントは

  1. 障害肺を守るためにはdriving pressure(換気ごとに肺胞にかかる圧差)を小さく保つ必要がある
  2. リクルートメント実施やPEEPをかける方法としては、少しずつ上げるのではなく(incremental)、上げてから少しずつ下げる(decremental)方法をとるべきである
  3. 適正なPEEPを決める方法として、インピーダンスによる画像解析法があるが、臨床の現場では肺のコンプライアンスで判断するとよい
さらに、リクルートメントの方法などについても具体的に解説していただきました。

ケースカンファレンス
以下の2つの症例について、当院のシニアレジデントがプレゼンテーションし、それに対してコメントをいただきながらディスカッションを進めました。

  1. PCPS装着患者に対する適正な換気補助
  2. 片側肺炎に対する換気方法

2人のレジデントはいずれも英語でのプレゼンが初めてでしたが、会場からの質問やコメントにも助けられて、活発な討論が繰り広げられました。
内容としては、単に人工呼吸器設定にとどまらず、肺からのエアリークについてどう考えるか、PCPS・ECMO管理上の問題点とブラジルでの現状、排痰促進としての体位変換の効果とリスク、分離肺換気のリスクなど、広範なものになりました。

会場には、ジュニア・シニアレジデント、病院見学中の医学生、各診療科(心臓血管外科、循環器内科、呼吸器内科、麻酔科など)のスタッフなども集まりたいへん盛況でした。扱ったテーマがARDSという多くの診療科で出会いうる疾患・病態であることも幸いしたのでしょう。
これからも、医師教育研修部としてはこのような機会を設定して行きたいと思っています。

最後に、私のThank you メールに対するAmato先生からの返信を紹介します。

Dear Toshio,

Thanks for your kind message.
It was my pleasure.
I had a rich experience at your Hospital, with good discussions and a general feeling of special care: care for the young people starting our profession and care for the patients. As always, my trip to Japan was worth it. I hope we will have new opportunities to meet each other in the near future.

Warm regards,

Marcelo Amato

丁寧なメールをありがとう。
こちらこそ、君の病院での経験はすばらしかった。活発なディスカッションと、特別なケアをしたという充実感。そのケアの対象は、僕たちと同じプロフェッショナルになろうとしている若者たちと、患者さんだ。
いつも通り、今回の日本への旅行は価値があった。
近いうちに、また会う機会があればと思っているよ。

(医師教育研修部長 福岡敏雄)


症例提示 1

心臓血管外科 シニアレジデント 伊藤丈二

65歳の男性で、術後ARDSとなり、開胸下でV-A ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)を導入した1例を提示しました。この症例では、冠血流、脳血流、および脱血効率などを考慮し、また開心術後であったことから開胸下に直接右心房から脱血し、上行大動脈に送血しました。Full volumeで脱血し、肺動脈血流を可能な限り落とし、肺を"dry"にしました。体外循環中の換気に関しては、driving pressure、PEEPも低圧での管理を行いました。その後、ARDSから徐々に回復し、ECMO導入5日目に離脱しました。

この症例での疑問点として以下の2点を挙げました。
#1 このようなECMO中での至適な換気量、PEEPはどこか? ほとんど換気させなくてよいのか?
#2 肺組織の回復の観点から見た場合、肺動脈血流を最大限に落とすことが果たして本当に回復を早めたのか?血流を落としすぎることで肺組織の酸素化や、薬効などに支障は出ないのか?
それに対し、Amato先生は以下のように答えられました。
#1 肺胞でサーファクタントが生産されるためには、ある程度の換気されることが重要であり、無気肺を形成させない最低限の換気を保つことを優先させるべきである。術後のair leakも問題だがコントロールされていれば命の危険はない。肺胞開存・換気維持と、air leakの危険性とを天秤にかけながら判断することになる。
#2 ブラジルでは最近はV-V ECMOばかりなのであまりV-A ECMO経験がないが、肺の血流が低下すると圧傷害に対しても弱くなると考えられるので、まったく肺に血流がなくなるようなことは避けるべきだ。

疑問に対して明快にお答えいただき,有意義なcase discussionを行うことができました。たどたどしさ満点の英語でのプレゼンテーションでしたが、このような貴重な経験ができるのも倉敷中央病院ならではと、皆さんに感謝しています。


症例提示 2

呼吸器内科 シニアレジデント 興梠陽平

症例提示では呼吸器内科へ入院した重症肺炎患者さんを紹介しました。重症の肺炎によって胸部レントゲン写真上、左肺の透過性が高度に低下していましたが、右側の肺はほとんど正常に近い像でした。我々はこの症例で左肺への換気を改善させるため、Airway Pressure Release Ventilation (APRV)と分離肺換気という2つの方法を検討しました。そして、そのうちAPRVを採用したのですが、残念ながら左肺への換気を改善させることはできませんでした。カンファレンスでAmato先生にこの症例での呼吸管理のアドバイスを求めましたところ、先生は「分離肺換気は実施が難しくチューブトラブルなどで急変しやすいので、現在ICUで行うことはほとんどない」と話されました。また「本症例が喀痰の貯留のために気道が閉塞しているのであれば、体位ドレナージで喀痰排出を促すことも併用し、可及的に気道分泌物の吸引を行うべきだ。その時には極端な体位ではじめるのではなく、少し斜めにして45°に挙げてと、少しずつしたほうがよい」との意見もいただきました。

有名な先生の前での、しかも英語での発表ということで、準備の段階からとてもプレッシャーを感じていたのですが集中治療部・総合診療科の先生方からアドバイスをいただき、何とか準備をすることができました。当日は緊張していましたが、前半のレクチャーがとても面白く、また出席した当院のスタッフからの発言も活発だったので、緊張を忘れて話しやすい雰囲気の中、発表することができました。今回のカンファレンスでAmato先生からいただいた刺激を今後の研修の糧にしたいと思います。

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