多様なキャリアプランを描ける当院の「可能性」-サブスペ世代が見据える未来図

多様なキャリアプランを描ける当院の「可能性」
~サブスペ世代が見据える未来図~

私は2006年12月に当院に着任し、故 馬場清先生から医師教育研修部長を引き継ぎました。臨床研修10周年の節目には、馬場先生と1・2期生を招いて「研修の次のステージ」を座談会で議論しました。今日は、サブスペ領域の充実に向けて皆さんと意見交換できればと思います

初期研修で積んでおきたい経験

私は2024年6月に福岡先生から医師教育研修部を引き継ぎました。初期臨床研修の必修化1期生で、当初から救急志望。救急外来は患者さんと接する時間は限られるので、その後の転帰までイメージできるように、内科全般・ER・地域医療・集中治療の4分野を意識して経験を積みました。2010年に当院へ着任しています。

私は2013年に初期研修を開始しました。地域医療を支えたい、何でも診られる医師になりたいと思って当院を選びました。指導医に恵まれて、J1では「明日のICは任せるから、患者説明の準備をしておいて」「輸液の外液と維持液の違いは?」といったかたちで宿題をいただき、翌日答え合わせするパターンが多かったです。J2では「この患者さんは主治医と思って進めて」と、フルマネジメントを任せてもらえたので、シニアになったときに抵抗はありませんでした。

上野先生は「教えられ上手」でもありますね。主治医としての意思決定力を早期に養うには、短時間の指導と翌日の振り返りを標準化できると良さそうです。

私は初期研修の時は病理志望でした。でも当院は診療科が充実していて、「病理と対極の外科も見ておくといいよ」と勧められてローテート。視野が広がりました。

当院の初期研修は自由度が高いのが魅力。ただ、「自分次第で忙しくも暇にもできる」側面はあります。

だからこそ、専攻医研修に集中するために「初期の過ごし方」が大事。入院受け、オーダ、カルテ記載、栄養・輸液の基本、抗菌薬の定型運用、退院・転院支援の要件などを、2年で土台として身につけられる仕組みを整えたいですね。

ERの受け入れでは、救急搬送が重なるとつい全部指示しがちで、そこは反省点です。症例多発・ベッド逼迫のときでも、研修医に「短時間でも考える余白」を残して、振り返り・答え合わせの機会を作るようにしたいです。

私が着任するまで救急研修は1年目はノート片手に救急診療を見学して日記を書き、2年目で救急担当…という運用でした。日記では力は尽きません。まず朝夕に、研修医のカルテ記載を前に診療を振り返り指導しました。「研修医を指導して経験させれば救急患者を診られる」と病院側に訴え少しずつ任せる範囲を広げました。これからは、若手が外来を早めに経験し入院前評価から退院後フォローまで担う体制が必要になるでしょう。

当院の専門研修

私は他院での初期研修と子育てが重なって夜勤経験が少なく、救急科や産婦人科に興味があっても周囲からは「無理」と言われました。でも当院救急科を見学した際に「夜勤は皆でカバーできる」と背中を押され当院で研修を開始、救急科専門医まで取得できました。
今は子どもも成長し、準夜勤や後輩指導にも携わっています。救急は8時間シフト内で完結することが多くオンコールもないので、働き方改革の時間外減のデメリットはあまり感じません。むしろ内科志望の方が「同じ経験ができるなら」と救急へ進むケースが増えている印象。集中治療科も働きやすい。一次~三次まで症例が多彩でバックアップも万全。ER型を考えている人にとって、当院はかなり有名な研修先だと思います。怒鳴る人もいない(笑)、フィードバックももらえる。教える立場になることで自分も強制的に学べて、良い環境だと感じています。

2018年開始の専門医制度に先立ち、2013年に「なるべく多くの基本領域で基幹施設を目指す」と決めて準備を始めました。2014年には11プログラムで基幹施設のめどが立ったけど、制度の開始が遅れました。それでも各診療科の協力で一時期は19領域中14領域で基幹施設になり、今では大学病院以外では最大規模となり院内外から研修を受け入れられる体制を整えることができました。

専攻医1年目の間に、例えばがんの場合だと、がんの診断~治療~ターミナルケアまでを主治医として継続経験できるよう工夫が必要だと思います。内科は専攻医2年目に丸1年外部研修へ出るため、1年目終わりに主治医の機会が持ちにくい。外で機会がなくて3年目で初めて主治医になるケースもあり得ます。内視鏡など手技もあるので、後から知識が足りない…にならないよう、外来・病棟・手術の三位一体で患者全体像を把握する教育が、将来の自立性に直結すると感じています。

確かにそこは「もやもや」する部分だと思う。アメリカのレジデントは超長時間労働で有名だったけど、患者安全やバーンアウトの問題もあって労働時間を制限した。それでも研修の質や医師の能力に大きな差は出なかったということになっている。でも、制限がある今の世代でも患者ケアをしっかり経験して学びや気づきを得られるよう、病院や診療科で工夫が必要だと思う。どうしたらいい?

学びたいと言ってくれれば「今は主治医を担当できないけれど、こんな転帰が予想され、必要な配慮はこれ」と説明します。ただ、環境に慣れて「一人前を目指す意識」が薄れたように見えることもあります。不明点は指導医に聞いて終わってしまい、ガイドラインに当たって治療方針を考え、翌日に答え合わせするような時間が取れない。強制力が無くなったなか、熱心な研修医は伸び、受け身の方は経験値が下がっているように感じることがあります。

当院の症例数は桁違い。内科専門医研修2年目で700床クラスや地域の病院を経験しましたが、夜間救急の呼出しや患者数は、特に冬場はまったく違う。「数の力」で鍛えられる。たくさん診る中で都度調べて、足りないところが見えてくる。そんな研修でした。

外科の院外研修は半年。手術が少ない慢性期病院が多く、物足りなさはありますが、転院先となる病院を知り、限られた医療資源で診療する経験は得られました。外科は複数人で手術に入るので、指導医が専攻医のキャラクターを把握して、消極的な専攻医には課題、熱心な専攻医には挑戦機会をくれます。ダビンチ手術を経験したい若手は多いですが、カメラ・剥離・縫合など全操作を自力で行うには習熟が必要ですし、触覚が感じられないまま「これ以上引っぱると危険」な場面を経験することもありますが、常に指導医が見守っています。直視・腹腔鏡の使い分けも含めて、与えられたチャンスを生かして経験を積める環境です。

外部での半年、1年を含めて、研修全体をひとつの学習体験として統合するのもプロとしての成長力だと思います。当院の初期研修の広域連携プログラムの研修先である紋別病院は半径数10kmに医師がそこしかいない。そこで急性虫垂炎の直視下緊急手術をする状況も発生する。そこにいる研修医は今までない経験ができると思う。齋藤先生のようにチャンスを生かして内面化したは強みだね。

サブスペ世代が目指す未来

サブスペシャルティで経験を積むメリット、みんなは実感していますか?

外科専門医取得後に da Vinci Certificate を取りました。私の専門である肝胆膵領域ではロボット手術はまだ黎明期で、若手が担当する機会は少ないですが、いつ機会が回ってきても良いように備えています。指導医にも恵まれていて、学会でランチョンセミナーの演者を務めるような先生が身近にいて、日々の過ごし方を目の当たりにでき、とても勉強になります。手術は開腹・腹腔鏡・ダビンチを一通り経験でき、向き不向きが見えてくる。どんな手術でもロボットが最適とは限らず、直視下手術が良い場合、腹腔鏡が適する場合もある。狭い部位はダビンチが優位。ロボットのない病院も多い中で、この使い分けまでできるのは恵まれていると感じます。

がん治療への知識を深めようと腫瘍内科を学び始めた頃は院内の環境が十分ではありませんでしたが、さまざまな支援を受けて当院でがん薬物療法専門医を取得できました。現在は腫瘍内科も開設されて勉強環境が整っています。腫瘍内科は、消化器や乳腺などベースとなる専門を持った上で腫瘍内科をやる形が良いと感じています。

構造的心疾患治療を含むインターベンション領域に取り組み、分化が進む循環器の中で自分の強みを確立中です。全分野を網羅するのは非現実的なので、各分野のスペシャリストがいる当院の環境を生かして「ここをやっておくと強みになる」と意識しながら経験を積んでいます。手技には挑戦と結果の歴史があり、上級医に追いつくにはそこを深く学ぶ必要があると感じています。

診療科が揃っていて多様な分野の人材がいるのは重要ですね。例えば心臓血管外科と循環器内科の両方があることで、片方だけより視野が広がる。多様性は大きなアドバンテージです。

消化器内科は消化管・肝臓・胆膵の3分野に分かれますが、今の研修は消化管と胆膵の内視鏡中心で、肝臓はエコーもできず治療経験も積みにくい。全国的に肝臓内科志望が減っているのは課題だと感じています。

臨床研究の支援

先日、同級生と会った時に「単一施設なの に研究プロトコールがかなりしっかり組まれていた」と当院の若手医師の発表を褒められました。臨床研究の相談窓口や統計家との接点がもう少し明確だと良いなと感じています

当院のER型研修は一次から三次まで症例の多彩さと診療科横断的バックアップが魅力。私は救急科専門医一本でサブスペ研修には進みませんでしたが、救急受診する多数の患者さんのデータを集めて分析し、発表できればと考えています。

シニアレジデントの頃から視野が開け、臨床研究を通じたガイドライン整備や医療の質向上に興味が湧きました。大学院で研究に取り組み、2025年春に復帰後は臨床研究と診療の両輪で過ごしています。最終的には医療の全体的な質向上につなげたいです。

当院は単一施設としてサンプル数が多いので、学会の演題もシンポジウムなど上位での採択を狙えると思います。

以前は私も院内の研究プロトコールに関するワークショップやセミナーを担当していました。身近にアウトカム設定やタイムフレーム設定など、気軽に学べる講座や eラーニングの整備などができたらなと思うね。

働き方改革と教育の再設計

消化器内科は緊急入院が多く、臨床医として最も成長できる場面です。しかし働き方改革が進む中、夕方以降の入院指導には時間的制約があり、意欲ある若手がチャンスを逃しかねないというジレンマがあります 。価値観が多様化する今こそ「患者本位の医療」という軸を再確認し、適切な労務管理のもとで個々の向上心にどう応えていくか、その教育設計のバランスが問われています。

私たちは「適切な労働時間の管理」と「良質な患者ケア」を対立させるのではなく、両立させるべきだと考えています。患者さんのために必要な時間は「隠すべき時間外」ではなく、病院が正当に認めるべき価値ある時間です。「時間外=悪」という一律の捉え方ではなく、必要な研鑽が適切に評価される体制を整えたいですね。

当院に限った話ではありませんが、10年前と比較して、学術集会に参加する若手医師が大幅に減ったことも気になっています。学会発表や聴講は医師のスキルアップやキャリア形成に重要であり、良質な患者ケアにも直結します。
研究活動に意欲的な若手の場合、 若手が「臨床7~8割、研究2~3割」といった形で、柔軟に時間を使える運用が理想です 。私自身、育児中であり限られた時間の中で研究を継続していますが、ライフステージに応じた柔軟なサポートが、将来の専門医育成には不可欠だと感じます。

過度な抑制によって、若手が本来得られるはずの成長機会を失う「機会損失」は防がなければなりません 。法令やルールを厳守した上で、自己研鑽と業務の線引きを明確にし、部門や個人の状況に合わせた工夫で、価値あるキャリアアップを支援していきます。

医師としての多様な未来が描ける病院に

当院には多様なキャリアの「可能性」があります。初期で土台を作り、専攻で深め、サブスペで強みを磨き、臨床研究で還元する。働き方改革の中でも「患者本位」を軸に、柔軟に学びをデザインしてきました。

座談会では、初期研修からサブスペ領域に至るまで、皆さんが真摯に患者さんと向き合う姿を頼もしく感じました。当院での経験はもちろん、連携施設や協力病院での研修も含め、全ての学びを一つの「学習体験」として統合していく力が、真のプロフェッショナルへの成長に繋がります。

指導医の皆さんに改めてお願いしたいのは、多忙な診療の中でも若手に「考える余白」「任せる課題」を与えてほしいということです。単なる手技の伝承に留まらず、診断から治療、そして看取りまでを主治医として完結させる経験を、どうデザインしていくか。それが彼らの成長の鍵となります。若手の向上心に応え、価値あるキャリアアップを支援することは、病院全体の医療の質向上に直結します。働き方のルールを守りつつ、いかにして「一人前を目指す意識」を育むか。これは私たち指導者層への大きな宿題でもあります。患者さんのために学びたいという熱意を、組織全体でバックアップし、多様な医師が輝ける病院を共に創っていきたいと心から願っています。