倉敷と北海道、二刀流研修を語る!
倉敷と北海道、二刀流研修を語る!

先進的に医療の広域化に取り組む北海道の札幌医大と、
バックアップ体制を整えて特徴的な研修を希望する
倉中の希望が一致

今回広域連携プログラム導入が厚生労働省側から提示されたとき、得られる経験値を考えると、北海道くらい遠方なら、当院と異なる医療の特徴が浮き彫りになると考えました。当院と上手く連携して研修医のバックアップ体制を組む重要性を考えたとき、辻先生なら当院の希望にかなう面白い医療機関を紹介いただけると期待して相談しました。

私自身、倉中での日々が今の自分を作ったという思いがあります。今回の制度開始以前から札幌医大で医療の広域化に取り組んでいます。特に関心を持っているのはメイヨ―クリニックの医療の広域展開。教育のコンテンツとしても面白いなと思っていましたから、国から広域化の話があったのはまさに「渡りに船」。すぐに思い浮かんだ連携先は「倉敷中央病院」でした。

今回手を挙げてくれた江差や紋別は、岡山ではあまり知られていませんが、どんなところですか?

都市圏は2040年に高齢化のピークが予測されていますが、北海道は2025年に七大都市圏で最初に高齢化のピークを迎えました。この地で展開される医療政策には日本の問題が凝縮されているので、研修を通して今後の医療の方向性が見て取れると思います。2地域に共通する点は、比較的チャレンジングな取り組みをしていること。北海道には変化を嫌う保守的な地域もありますが、この2地域は違います。ぜひ「日本の新しい医療モデルを作る」という気概を感じていただきたいです。今まさに病院統合の話がたくさん出ているのですが、私たちは総務省と「医療圏の広域化とセットである」と話しています。今回のプログラムのような人的リソースの共有は、国も注目しているようです。
北の大地で待つ、無限大の伸びしろ

江差では一般内科外来やウォークインの患者さんの簡単な外科的処置含めたファーストタッチや入院患者の主治医など中小病院の内科専攻医1年目で経験する役割を任せてもらえそうですね。

総合診療やプライマリ・ケア、救急を組み合わせた先進的なプログラムを考えています。「倉敷から若い先生が来るなら」と、中堅医師が教育体制の整備を進めています。防災都市を掲げる紋別は、災害医療教育推進を目指しています。講師として、倉中の後輩である稲葉 基高先生(NGOピースウィンズ・ジャパン )が特任教授を引き受けてくれました。南海トラフで電源喪失したら、開腹手術ができる技術が求められる。それも念頭に置いています。紋別病院の曽ヶ端院長は「地域住民に向き合う、地に足の着いた医療を大切にする。その実現には人の力が必要。そのために新しいことに挑戦する」と仰っています。今まで苦労されてきた方の覚悟を、強く感じています。

コンパクトではあるけれどもさまざまな取り組みをしている病院で、医療資源が限られる中でも目標に向かってやり遂げようとする中で気づくことは、一人ひとりたくさんあるんじゃないかと期待しています。

北海道に研修医を迎えたら「どんな医師になりたいか」をじっくり話し合ってゴールを設定し、そこに向けてのステップを一緒に考えます。「とにかく全部診る」よりも何かを深く習得できるように「心エコーの技術を誰よりも高める」など、ポイントを絞って取り組めるようにします。もし外科志望なら「一定機会の開腹手術など、広域プログラム期間中に経験するといいね」と話します。集中治療に取り組みたいなら、集中治療を経た患者さんが地域に戻り生活されているのを見る経験ができると良い。それを踏まえて「じゃあ訪問診療にも行ける研修にしてみましょうか」と提案します。我々はあのエリアを全部リソースと考えて、皆さんが思い描く未来に近づける研修となるよう、調整したいと考えています。

逆に、北海道でこれから医療をやろうという人が、倉敷を足場に1年半研修して、それでまた北海道に戻って、半年間地元の、いろいろな意味で工夫している地域で医療を提供するというのもいいと思います。自分の足場がはっきりして、その結果北海道に戻られるのは、我々としても嬉しいこと。長期的に必ず地域の役に立つので、そういう視点も持ってこのプログラムは動かしたいなとは思っています。
医療の多様性を経験する大きなチャンス

経験を困難ととらえるか成長の機会ととらえるか、人によって違うと思います。地域の方と話をして、社会とつながってください。リソースの限られた地域で暮らされている方が不幸な顔をされているかといえばそうではない。生きることの大切さはリソースが違っても変わらないと思うのです。そして、倉敷に帰ったら、倉敷と江差・紋別の医療を比較して、違う点、同じ点を見つけてほしい。それが今後の医師人生に役立ち、成長につながります。ぜひ未知の世界へ飛び込んでほしい。
私自身、いろんな地域に行くことで自分の経験を違う角度で振り返ることができ、それが学びになりました。ブータン訪問の際のことです。日本から医師が来ると聞きつけ、標高7,000m級の山々から住民が3日ぐらいかけて歩いてきました。絶食できておらず胃の中は食べ物でいっぱい。「これでは早期胃がんは発見できない」と現地の医師に訴えると「早期胃がんは教科書には載っていたが、幻だ」と言います。見つからないから存在しない、と考えているようでした。何とか食べ物をかきわけて早期胃がんを見つけ、患者さんを助けられたとき、とても感謝されました。根治可能なステージで発見される症例は少ないそうです。「なるほど、前処置をして喉の麻酔をかけて行う日本の胃カメラ検査は、早期胃がんの発見を追求し発展してきたのだ」と、自分が取り組んできた医療を違う側面から見つめることができました。
その場に立って初めてわかることもある。研修医の皆さんの未来はゴールが見えないことの連続だと思います。でも、未知の世界に挑戦してそこから学び取る力が、これから必要になってきます。若い先生方も未知の世界へ飛び込むことで、倉敷でされていることの意味が別の角度からわかるんじゃないかなと思っています。
アメリカの厚生労働局長は総合診療が専門の方で、多様な地域を見ている人が大きな組織作りに加わっているのは国にとって強みだと感じています。日本でも、広域プログラムで大都市、田舎を経験した人が、そういった役割を担ってくれるかもしれないと期待しています。

これからは、地域の大きな仕組みまで気の回るような人の方が、大きなチャンスを描けるかもしれない。広域プログラムに行くことを前向きにとらえ、自分自身の幅を広げるぐらいの気持ちで若手がチャレンジしてくれたら嬉しいです。

皆さんご存じないですが、暖かくないと雪は降りません。札幌、岩見沢の真ん中くらいまでは雪が降るんですが、それより北になると乾燥しすぎて雪が降らない。
病院は市の中心のインフラですから、雪かきなどは心配しなくても大丈夫です。家のなかは北海道のほうが温かいです。半袖短パンでビール飲んでアイスクリームを食べてます。
紋別では通勤用にスノーブーツ、厚手のダウンは必須です。冬だと流氷が見られます。ときにはアザラシが乗ってきたりします。
江差は寒さはぼちぼちですが風が強いです。台風並みの日もあります。僕が行ったときに信号が倒れて、現地の人が「今日はちょっと風が強いね」なんて話していました。でも、倉敷と違って雪が降っても関係なく患者さんは来院されます。
北海道の人特有の雰囲気というのはやはりあります。シャイな人が多いのですが、仲良くなったらびっくりするくらい胸襟を開いてくださいます。そういう人柄の違いもあって、最初寂しくなるかもしれないので、そうなったら遠慮なく私に相談してほしいなと思います。