難治性筋炎に対する有効な治療法は?

難治性筋炎に対する有効な治療法は?

【症例】
60代 男性
現病歴:
入院2年半前より固形物の飲み込みづらさ、両側大腿、両側上肢の挙上困難を自覚した。入院2年前よりペットボトルの蓋の開け閉めのしづらさを自覚した。入院1年半前に近医の血液検査でCK 3369 U/L、抗核抗体陽性 (×80倍 Homo/Speckled) を認めた。プレドニゾロン (PSL) 45㎎/日で寛解導入療法を開始し、メトトレキサート (MTX) 、タクロリムス (TAC) の併用を開始した(以降の治療経過は経過表の通りである)。 プレドニゾロン減量中にCK上昇と筋力低下があり20㎎/日程度からプレドニゾロンの減量が困難であった。入院6か月前より階段を上るのが難しくなった。また床から立ち上がる際に手すりを持たないと立ち上がれなくなった。

入院時血液検査:
WBC 7400/μL、CRP 0.08 mg/dL、AST(GOT) 36 U/L、ALT(GPT) 36 U/L、LD 357 U/LCK(CPK) 804 U/L、KL-6 207 U/mL、ALD 8.4 U/L、TSH 1.00 μIU/mL、F-T4 0.98 ng/dL、F-T3 2.55 pg/mL、IgG 768 mg/dL、IgA 144.5 mg/dL、IgM 51.3 mg/dL、C3 105.4 mg/dL、C4 26.4 mg/dL、補体価 65.1ミオグロビン 121.3 ng/mL
各種抗体:
抗核抗体 160倍(Homo×40 Spekled×160)、抗SS-A抗体 陰性、ANCA 陰性、RF 陰性、抗CCP抗体 陰性、dsDNA 陰性、DNA(RIA) 陰性、抗RNP抗体 陰性、抗Sm抗体 陰性、抗SS-A抗体 26.6 U/mL、抗SS-B 陰性、抗Scl-70抗体 陰性、抗RNA-PⅢ抗体 陰性、抗MDA5抗体 陰性、抗TIF1-γ抗体 陰性、抗Mi2抗体 陰性、抗Ku抗体 陰性、抗PM-Scl 100抗体 陰性、抗PM-Scl75抗体 陰性、抗SRP抗体±抗PL-7抗体 陽性、抗PL-12抗体 陰性、抗OJ抗体 陰性、抗EJ抗体 陰性、抗Ro52抗体 陰性、ANCA 陰性
画像所見:
HRCT:間質性肺炎を疑う所見なし。

 

<担当医のアタマノナカ>
いろいろな薬がもう使われているのに全然,効果が出ていないなぁ。MTXは増やしても効果なさそうだったから治療強化するとしたらTACを増やしてみるとかぐらいとか?

 

<指導医からのコメント>
TACを増量するのも選択肢の一つだね.ただそれで効果が出なかったときの手も考えておこう

【入院後経過】

自覚症状が月単位で増悪している経過で、CK高値でありPSL18㎎より減量が難しい状態であった。PSLを30㎎/日に増量の上、血中濃度を計測しながらTAC増量を行った。 CKはいったん低下傾向を示したがその後下がり止まったためIVIgを追加した。

CQ:難治性筋炎に対する治療薬の候補は何があるか?

「難治性筋炎」は研究により若干定義が異なるが、「糖質コルチコイドに加えて少なくとも1剤または2剤の免疫抑制剤を併用しても治療効果が不十分な筋炎」と定義されていることが多い。
難治性筋炎の治療の選択肢としてミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブ、TNF阻害薬、アバタセプト、アナキンラが挙げられる。
(Rheumatology International 2020;40:191–205.)
(Ann Rheum Dis 2018;77:55–62.

CQ2:上記の治療薬は難治性筋炎の筋症状にどのくらい効果が期待できるのか?

①ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
17例の難治性の炎症性筋炎 (皮膚筋炎11例、多発性筋炎3例、抗ARS抗体症候群2例、筋無症候性皮膚筋炎1例) に対してミコフェノール酸モフェチルによる治療(MMFの投与量の中間値は2g/日)を行ったケースシリーズでは17例中14例でPSLの減量に成功した。また17例のうち筋病変を有していた12例のうちPSL減量に成功したのは9例であった。
Advances in Rheumatology 2018;58:34

②リツキシマブ(RTX)
治療抵抗性の多発性筋炎、皮膚筋炎、若年の皮膚筋炎を含む200例に対してRTX投与(体表面積≦1.5m2:575mg/m2、体表面積≧1.5 m2:750mg/m2を2回) を行ったRCT (RIM試験) では、プライマリエンドポイントは達成できなかったものの、40週時点で約8割が「国際筋炎評価・臨床研究グループ(IMACS)の改善の定義」(DOI)を達成した。Arthritis Rheum 2013 Feb;65:314-24.
炎症性筋疾患と診断された26例(多発性筋炎15例、皮膚筋炎9例を含む)に対してRTX投与を行った単群の観察研究(後ろ向き)では、RTX治療により6か月後のCKの減少と筋力の改善が得られ、26例のうち20例でステロイドの内服量を減らすことができた。Reumatismo, 2018;70:78-84

③TNF阻害薬(インフリキシマブ:IFX)
難治性筋炎13例に対して(多発性筋炎5例,皮膚筋炎4例,封入体筋炎4例)IFX投与(5㎎/kgを4回/14w)した研究では全例でMMTの改善は得られなかった。Ann Rheum Dis 2008;67:1670–1677.
いっぽう、 難治性筋炎12例(多発性筋炎11例,皮膚筋炎1例)を対象にIFX投与を行った研究では5㎎/kg(4回/14w)投与により12例中計4例の疾患活動性が改善した。(Semin Arthritis Rheum. 2018;47:858-864.

④アバタセプト(ABT)
難治性筋炎20例(多発性筋炎11例, 皮膚筋炎9例)に対してDrug Early群と3か月後に開始したDrug Late群を比較した試験で,3ヶ月時点ではDrug early群のほうがDrug Late群に比較してImprovement scoreが優位に高かった. 治療開始後6か月後時点では全体のほぼ半数の患者で改善が得られた.治療を行った症例のMMT-8,筋病変の疾患活動性の平均値は治療終了時には治療開始前と比較して有意に改善していた.治療に反応した患者でメトトレキサート(MTX)を使用していた患者は75%であったのに対し, 治療に反応しなかった患者でMTXを使用していた患者は36%であった.(Ann Rheum Dis 2018;77:55–62.

⑤アナキンラ
プレドニゾロンとアザチオプリンまたはメトトレキサートの併用治療を行っても難治性の経過を示した炎症性筋疾患の患者15例(多発性筋炎6例、皮膚筋炎4例)に対してアナキンラの投与を12か月行ったところ、7例でIMACSの改善の定義(DOI)を達成した。Ann Rheum Dis 2014;73:913-20.

CQ3:筋炎の自己抗体のプロファイルは上記の治療薬の効果と関係するか。

RTXの効果をみたRCT(RIM試験)の事後解析で、筋炎195例(成人の多発性筋炎75例、成人の皮膚筋炎72例、および若年性皮膚筋炎48例)で治療効果が得られるまでの時間に関して38個の予測変数について単変量分析を行った結果、抗ARS(主に抗Jo-1)抗体陽性、抗Mi-2陽性は、筋炎の改善と強く関連していた。(Arthritis Rheumatol 2014;66:740-9.

RTXの効果について抗ARS抗体陰性患者(27例)と抗ARS抗体陽性患者(16例)で比較した後ろ向き研究では、ARS陽性群の79%とARS陰性群の67%で病状の改善がみられたが、有意なステロイド減量効果が得られたのはARS陽性群のみであった。(Rheumatology 2019;58:1214-1220

 

結論
  • G難治性筋炎に対する質の高い研究はまだ少ないものの、RTXは抗ARS抗体陽性例に特に有効性が期待されている。
  • RTX以外にアバタセプト、ミコフェノール酸モフェチル、TNF阻害薬、アナキンラなども炎症性筋疾患の筋病変に対する有効性が示唆されている。
担当:KY
略語表記
PSL:プレドニゾロン
MTX:メトトレキサート
TAC:タクロリムス
AZA:アザチオプリン
IVIg:免疫グロブリン大量療法
MMF:ミコフェノール酸モフェチル
RTX:リツキシマブ
IFX:インフリキシマブ
ABT:アバタセプト
※実際の症例をmodifyした架空症例を題材にしています
※保険適用外の検査や治療に関する記載が一部ある可能性がありますが、これらを推奨するものではありません

 

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