心臓血管外科専門修練医 植木 力
心臓血管外科は急速な発展を遂げていますが、やはり医学全体の中でも比較的歴史が浅い分野です。それだけにまだ結論の出ていない臨床上の問題点も多く、臨床研究の重要度が高い分野と言えます。そういった背景から倉敷中央病院心臓血管外科では学会活動に積極的に取り組んでおり、私自身も主任部長の小宮先生の指導のもと後期研修・専門修練医の4年間に全国学会16回、地方学会・研究会など7回の発表に加え、国際学会での発表の機会も得ることができました。
今回参加してきたSTSは胸部外科の分野では有数の学会で演題の採択率も低いため(adult cardiacの分野では口頭発表は42題)、目標というよりは憧れのような存在でした。ところが今回初めて演題を投稿したところ、oral presentationとして採択され、発表の機会を与えられました。良い研究ができたという手ごたえはありましたが、やはり実際に採択されると非常に嬉しく、そのときの気持ちは忘れられません。
今回の研究テーマは急性B型大動脈解離に対して保存的加療を行った群で、将来大動脈関連の合併症を起こす危険因子を調べるというものです。このテーマ自体は古くから検討されていますが、近年当院でも積極的に取り組んでいるステントグラフト治療が大動脈解離に対しても適応されるようになった現代では、「ステントグラフト治療をどういった患者さんに適応するか」という臨床上の課題ともリンクしているため、再度注目される研究テーマです。準備段階では200人分以上のCTをひとつひとつ確認して所見を記録するという地道な作業が続きましたが、やり遂げれば必ず有意義な結果が出ると信じてなんとか研究を完成させました。発表が決まってからは指導医の坂口先生に助けてもらいながらスライド・原稿作り、事前に学会誌に提出する論文執筆などを行いました。
学会はLos Angelesで行なわれましたが、穏やかな気候で過ごしやすい上に想像以上に食事がおいしいところで学会以外の時間も楽しく過ごせました。(ステーキ、シーフード、ブラジル料理などを堪能しました。)昨年倉敷中央病院からの研究をSTSで発表した渡邊先生も現在勤務している施設から演題を出しており、発表の雰囲気などを教えてもらったりして不安が軽減されました。発表前日は繰り返しpresentationの練習をし、予想される質問に対する答えも暗記するまで繰り返し練習しました。
発表会場では日本から参加されている著名な先生方からも「おめでとう、発表頑張って。」と声を掛けて頂きました。またDr. Bavariaをはじめとした大動脈外科の大家も大動脈のセッションということで会場にこられており、非常に緊張しましたが、自分にできる準備はやりきったので開き直って発表に臨みました。発表自体はあっという間に終わり、不安だった質疑応答も一部坂口先生に助けられながらも何とか終えることができました。予想外のことを質問されたときに上手く理解できなかった部分があった点は残念でしたが、発表を終えて大きな達成感がありました。
その後はいろいろなセッションを聴きに行き、学会を満喫しました。欧米で行なわれている研究は大規模なデータベースなどの非常に多くの症例での検討や新しいデバイスについての報告などがあり勉強になりましたが、同時に必ずしも日本の心臓血管外科治療の水準が劣っている訳ではないことも実感しました。
直前の1ヶ月は睡眠時間も削って手術などの日常業務の合間に準備を進めており、相当な負荷になりましたが、これからは同じ程度の負荷であれば乗り越えることが出来るという自信がつきました。このような経験ができたのも主任部長の小宮先生、指導して下さった坂口先生をはじめとする指導医の先生方のおかげだと思います。また倉敷中央病院自体も旅費の支給などがあり、海外での発表を積極的に支援してもらえる環境であったことにも感謝しています。
これからも臨床の現場での問題点の解決につながるような研究を行ない、さらにそれを普段の診療にフィードバックできるように努力していきたいと思います。