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診療案内[get_image]
診療内容

ステントグラフト

大動脈瘤のステントグラフト治療について

 今までは大動脈瘤の治療方法として、人工血管置換術が一般的でした。胸部下行大動脈瘤手術では、左胸を大きく切開し人工心肺装置を使いながら大動脈瘤を切除し人工血管に置換する手術が行われてきましたが、侵襲度が大きく肺合併症や脊髄麻痺などの合併症のリスクがありました。
大動脈疾患:大動脈瘤のページはこちら


より低侵襲な大動脈瘤の治療 〜ステントグラフト治療〜

 当院ではより低侵襲な胸部大動脈瘤治療を目指し、2007年5月からステントグラフト治療を開始いたしました。鼠径部の小切開のみで手術を行うことが可能で、手術時間は1〜2時間程度で術後の回復も早く、早期退院が可能となっています。呼吸器疾患、脳梗塞、心疾患など手術を受けるにはリスクが高いという理由で、従来の手術を受けることができなかった患者さんに対して積極的に治療を行っています。これまで真性胸部大動脈瘤だけでなく、胸腹部大動脈瘤、大動脈解離のエントリー閉鎖などにステントグラフト治療を行っております。また腹部大動脈瘤に対しましても、2008年7月よりステントグラフト治療を開始し現在のところ成績は良好です。
しかしすべての大動脈瘤に対してステントグラフト治療が可能であるというわけではなく、大動脈瘤の形態や場所がステントグラフト治療に適さないことがあります。そのような場合はリスク評価を行い従来の手術方法をお勧めしています。

ステントグラフト治療に有効なハイブリッド型手術室の導入

2010年5月には、血管造影装置を備えたハイブリッド型手術室を導入しステントグラフト手術でその威力を発揮しています。
ハイブリッド型手術室のページはこちら


胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤のステントグラフト治療実績

胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療

 2019年は胸部大動脈瘤25症例に対してステントグラフト治療を行いました。企業性デバイス(Gore cTAG, Zenith TX2, Relay, Valiant)を症例にあわせて使い分けています。初期成功率は100%でした。

胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療後のCT画像

遠位弓部大動脈瘤に対する頸部分枝再建[image]胸腹部大動脈瘤に対する弓部置換および腹部分枝再建[image]

【CT画像1:左】遠位弓部大動脈瘤に対する頸部分枝再建
(両側鎖骨下動脈〜左頸動脈バイパス)を伴ったステントグラフト治療症例(84歳男性)
【CT画像2:右】胸腹部大動脈瘤に対する弓部置換および腹部分枝再建
(両側腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈)を伴ったステントグラフト治療症例(72歳男性)



腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療

2019年は腹部大動脈瘤45症例に対してステントグラフト治療を行いました。企業性デバイス(Gore Excluder, Endurant, AFX, Aorfix, Zenith)を症例にあわせて使い分けています。初期成功率は100%でした。


腹部大動脈症例[image]

【CT画像3】ゼニスステントグラフトを使用したステントグラフト治療症例(89歳女性)



胸腹部大動脈瘤の新たな治療~胸腹部動脈瘤分枝型ステントグラフト~

従来の胸部大動脈瘤用ステントグラフトならびに腹部大動脈瘤用のステントグラフトでは治療できなかった部分の胸腹部動脈瘤に対しても治療できるようになりました。 従来のステントグラフトは血管内に新たにステントグラフトと呼ばれる人工血管で作った「筒」のようなものを動脈瘤内に置いて、その中にだけ血流を通すことによって動脈瘤に瘤への圧力が軽減されることを目的としておりました。そのために腎臓や腸などへの重要な血流が動脈瘤と絡んでいる場合は従来のステントグラフト治療は行うことが出来ませんでした。最近になりあらかじめそのような患者さんの動脈瘤の形態と重要臓器の分枝血管の状況を把握してその形に合わせてオーダーメードで分枝型ステントグラフトを作成することにより、従来はステントグラフトが行えなかった患者さんにも安全に行えるようになりました。このような胸腹部動脈瘤は胸部ならびに腹部を大きく切り開いて人工血管置換術を施行するしか方法はなく、そのような大きな手術を耐えることが難しいと予測されていた高齢者や状態が悪い人にも積極的に治療を行える可能性がある画期的な手術方式です。

しかしながらまだ最先端の治療方法であり、本邦ではまだ未認証手術品です。臨床研究の一環として必要性が求められた手術加療が難しい患者さんに限定して使用を行っています。十分に手術による危険性と手術から得られる利益を十分に検討して、利益が十分に上回ると考えられた症例に対して入念に準備して分枝型ステントグラフト術を施行しています。

上腸間膜動脈、両側腎動脈が絡んだ動脈瘤症例[image]
【CT画像4】上腸間膜動脈、両側腎動脈が絡んだ動脈瘤症例(82歳男性)

計測スケッチ
オーダーメードで分枝血管に合わせて穴を開けて分枝用の小さなステントを留置

分枝型ステントグラフト治療後[image]
【CT画像5-7】分枝型ステントグラフト治療後


より低侵襲な治療を目指して

ステントグラフト治療は従来の手術に比べると、体への負担が少ないですが、100%安全というわけではありません。先にも述べましたが、ステントグラフト治療を受けていただく患者さんは、呼吸器疾患、脳梗塞、心疾患、腎機能障害などの既往があり、リスクが高くなります。そのような場合も合併症なく手術を受けていただけるよう、詳細な術前検査を施行し、リスクを正しく評価し、十分な対策をもとに治療に取り組んでおります。 その一環として、下記のような取り組みを行っております。

ⅰ)呼吸機能障害のある場合 呼吸機能障害のある患者さんは、当院のリハビリテーション科と共に術前から呼吸リハビリテーションの実施しております。在宅酸素を行っているような、重症呼吸不全のある患者さんの手術にも取り組んでおります。

リハビリの様子

リハビリ中の写真。呼吸機能が悪い場合は、手術前から呼吸リハビリも行っています。

ⅱ)腎機能障害のある場合 ステントグラフト治療は一般的に手術時、手術後の検査に造影剤の使用が必要となりますが、造影剤は腎臓への負担となります。腎機能障害がある場合には、手術を行う時の造影剤を腎機能にやさしい、二酸化炭素造影での手術を行っています。

術中の二酸化炭素造影と通常の造影剤の比較

造影剤比較

(左)二酸化炭素造影を使用した症例   (右)通常の造影剤使用した症例

二酸化炭素造影でも通常の造影剤と遜色のない評価が可能です。特に腎機能障害のある場合に二酸化炭素造影を使用し、手術中の造影剤を10cc程度の最小限に抑えて行っています。また、術後の検査も臨床治験として、ソナゾイドという腎機能にやさしい造影エコーも行い、エンドリークという造影剤の漏れがまったくないことを確認しています。

ステントグラフト治療後の造影CTと造影エコー像

治療後

左が造影CTで右が造影エコー画像。CTでもエコーでもエンドリークを認めていません。

ⅲ)脳血管狭搾や狭心症のある場合 動脈瘤の原因は動脈硬化です。動脈硬化は動脈瘤がある部分のみに起きるわけではなく、全身の動脈に影響をもたらします。そのため、脳梗塞や脳血管の狭搾、さらには狭心症と全身の血管に起因する併存症を認める場合が多くあります。そのような場合も、MRIやCT検査で狭搾の状態を調べ、通常の手術では手術前に休薬する抗血小板剤の内服も継続したまま手術を行っています。 ⅳ)創部痛の軽減 一般的に腹部ステントグラフト手術では、両側鼠径部にそれぞれ約3cm程度の皮膚を切開して、手術を行っています。大腿部の血管の性状にも左右されますが、積極的に血管閉鎖デバイスを使用して、切開を行うことなく『キズのない手術』と術後の創部痛の軽減にも努めています。

エンドリークへの対応

ステントグラフト治療の特有の問題点として、エンドリーク(造影剤が瘤内に漏れ)があります。ステントグラフト治療は動脈瘤に圧力がかからないよう、ステントグラフトで内張りをするという血管内治療です。つまり、従来の手術方法と違い動脈瘤が体内に残存します。
多くの場合、ステントグラフト治療で動脈瘤に内張りをすることで、動脈瘤への血流が止り、動脈瘤は小さくなっていきます。しかし、まれにエンドリークという、動脈瘤への血流が残ってしまい、ステントグラフト治療後も動脈瘤が大きくなることがあります。
そもそも、エンドリークには下図のように大きくⅠ~Ⅳの4つの分類がありますが、この4つの分類の中でもタイプⅡに分類される、動脈瘤から出ていた小さな血管から動脈瘤内に血流が入り込むエンドリークが一番多くなります。

エンドリークの分類大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改定版)

当科では、ステントグラフト治療後も定期的にCT画像を撮像し、動脈瘤の経過を確認しています。エンドリークによる、ステントグラフト治療後も動脈瘤が拡大してくる場合は、カテーテルでの再治療も行っていいます。下の写真は、治療症例です。

(カテーテルを肋間動脈まで進めています。塞栓物質が注入されている所です)

この患者さんは、4年前に胸部ステントグラフト内挿術を施行したが、その後も動脈瘤径の拡大があり、経過観察をされていました。ステント留置部分の肋間動脈という小さな血管からタイプⅡのエンドリークを認めました。治療は肋間動脈につながる、細かい血管にカテーテルを進めて、塞栓物質で肋間動脈を閉塞させる血管内治療を施行しました。治療後は瘤径の拡大なく経過しています。

術後の創部写真

創部写真

(左)術後の右鼡径部の写真。通常は両側鼡径部にこのような3cm弱の創部で施行

(右)血管閉鎖デバイスを使用した創部。術後1週間でほぼ創部はわかりません。


 胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤ステントグラフト症例数の推移(診療実績ページへ)

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主任部長から患者のみなさまへ

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