心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があります。全身から心臓にかえってくる血液は、まず右心房に戻り、以後右心房→右心室→肺→左心房→左心室と流れて、大動脈から全身へと送られてゆきます。この一定の流れを維持し,逆流を防止するために、心臓の4つの部屋の出口には弁がついています。右心房、右心室、左心房、左心室の出口にはそれぞれ、三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁がついています。
これらの弁が様々な原因で逆流や狭窄が生じると心臓弁膜症となります。心臓の流れに異常が発生すると、心臓は大きくなったり、心臓の筋肉が厚くなったりして代償します。心臓には負担がかかっておりますので、心臓の筋肉が障害され徐々に心臓の機能が低下していきます。
心臓の代償機構がうまくはたらいているうちは、心臓弁膜症であっても心臓全体としてのポンプ能力は低下しませんから、症状も感じません。弁膜症の自覚症状は、心臓の代償機構が限界に達し、心不全を合併した時点ではじまります。肺に水がたまると、呼吸困難や息切れなどの症状が現われ、全身に水がたまると、下肢のむくみ、肝臓うっ血がおこります。
心臓弁膜症の治療には、
(1)弁をとりかえる手術「弁置換術」
(2)ご自分の弁を修復する「弁形成術」の2つがあります。
当院では僧帽弁閉鎖不全症(弁の逆流)に対しては積極的に形成術に取り組んでおり、90%以上の割合で形成術が可能です。逆流の再発も少なく成績は良好です。
大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症が増加しており、2019年の弁膜症手術数は185例でした。可能な限り自己弁を温存した術式を選択する様にしています。僧帽弁形成術はこの5年間に319例施行しました。変性疾患では、弁形成術成功率は99%です。また大動脈弁形成術を行う病院は日本ではまだ少ないですが、当院では積極的に取り組んでいます。2000年以降に539例の大動脈弁閉鎖不全症に対する手術中、265例(50%)の症例で自己弁温存術式を行ないました。大動脈基部病変に対しては、バルサルバ洞形態を維持したグラフト(Valsalva graft)を用いてreimplantation法を122例に行なっています。特に若い患者さんでは可能な限り、自己弁を温存する術式を第一選択と考えています。
弁膜症手術の手術成績は良好で、単独弁膜症手術過去5年間959例の手術死亡率は1.1%です。手術成績の安定により、早期に手術を行えば心機能の悪化を防ぎ、通常人と変わらない寿命が期待できます。65歳以上の高齢者の弁置換術では原則としてワーファリンが不要となる生体弁を使用しています。