国際学会発表
The Society of Thoracic Surgeons(STS) 48th Annual Meeting参加報告
開催地:Fort Lauderdale 会期:2012年1月30日-2月1日
STS体験記
心臓血管外科 渡邉 隼
「これって通ったってことですかね?」
指導医の先生にみてもらって駄目もとで挑戦したSTSから返信のメールがきた。あまりの英語力のなさと、まさか通ってないだろうという思いから、メールの内容が理解できず思わず指導医に相談した。
「やったやん、通ってるわ」
本当にうれしかった。今まで先輩たちが海外で発表している姿をいつもうらやましいなと思ってみていた自分にとっては本当に夢のような気持ちであった。しかし、その直後からやってくる発表に対する不安が一気に押し寄せてきた。倉敷中央病院心臓血管外科はレジデントに対する学会活動への指導が厚く、データベース等のシステムも充実している。かくいう私も5年間の間に全国学会17回、地方学会7回を経験させてもらっていた。国内での学会発表にいい意味でも悪い意味でも多少慣れてきたころであった。そんな自分にとってSTSで発表する、しかも口演という機会を得たことは、今振り返ってみて本当に貴重な経験であったと思う。学会に通ったその日から、主任部長との連日のスライドのやり取りが始まった。当施設では学会発表の前は主任部長、指導医が厳しく発表スライドをチェックしてくれる。今回は特に熱のこもった指導をしていただけたことを、本当にありがたく感じている。苦手な英語も練習しなくてはならず、臨床、手術以外の時間は耳にイヤホンを突っ込んですごした。またSTSでは発表時までに発表内容を論文として提出しなくてはならず、そちらの準備にもおわれた。連日主任部長と打合せを行い、主任部長からのQuestionに答えながら、論文作成を行い本当に忙しい日々であった。論文作成の際にはこれまでの論文作成指導をうけていただいたおかげで、FigureやTableなどの体裁の整え方などは多少身についていたことに助けられた。これもただただ指導医に感謝である。発表直前には秘書にSpellingをチェックしてもらい、スタッフみんなに予演会をしてもらった。いくら準備しても不安が消えることはなかったが、期待と不安に胸を一杯にして日本を出発した。
会場はFloridaのFort Lauderdaleというところで非常に気候のよいバカンスにもってこいのところであった。出発時から倉敷~岡山間の電車は事故でとまり、伊丹~羽田便も整備不良で1時間押しという波乱に満ちた出国となり、発表自体もうまくいくのか本当に心配になった。発表前日は部長とDinnerをとり、その後、部長の部屋で発表原稿の最終チェックをしていただいた。
そしていよいよ発表当日、刻一刻と時間が迫ってくる中、かつて倉敷で一緒に研修を積んだレジデントの仲間に出会い励まされた。本当に勇気がでた。発表会場には名だたる有名人が日本からも多数口演を聞きに来てくれていた。発表が始まってからはなぜか、気持ちが落ち着いていた。今持っている自分の精一杯の発表が出来たと思う。英語力はまだまだ足りず、質疑にも答えられない部分があったが、それが自分の現状であるということもよく理解できた。発表が終わってからは所属大学教授などからもねぎらいのお言葉を頂き、学会をフルに満喫できた。私自身はこの春で施設を移ることがきまっていたため、最後にお世話になった主任部長と海外学会を共に出来たことは本当に幸せであった。
海外学会に挑戦することは本当に大変なことであると感じたが、得るもの、感じることは非常に大きく、積極的に参加していくべきだと感じた。漠然と思い描いていた留学への夢も、確固たるものに変えてくれた。
倉敷中央病院では後期研修制度が充実しており、手技に関しては目標経験数を突破すれば次の手技へと進んでいくことができる。私も5年間でAAA術者22例、ASO術者29例、EVAR術者5例、ITA94本を採取することが出来た。そんな手術部門以外の学会活動もさかんで、希望すれば本当にすばらしい指導医が熱く指導してくれる。心臓血管外科医としての最初の5年間を倉敷中央病院で過ごせたことを今振り返って本当によかったと感じている。