初発のループス腸炎に対し
免疫抑制剤の併用は必要か?

初発のループス腸炎に対し  免疫抑制剤の併用は必要か?
【症例】
20代女性  生来健康
夜間に急激な腹痛を自覚し前医ERに緊急入院。39℃を超える高熱とCTにて著明な腸管拡張を認めたことから細菌性腸炎として抗菌薬治療を開始されたが改善なく、入院時に行った抗核抗体が陽性であり当院に依頼あり転院。
意識は清明で神経学的な異常所見はなし。よくよく聞いてみると軟口蓋に口内炎ができたりしたことがある。
検査データ:CRP:0.17mg/dl, WBC:13800, C3:90 mg/dl(基準値86-160), C4:5 mg/dl(基準値11-34), ANA:2560倍(Homo+Speckled), dsDNA抗体:180 IU/ml, 腎機能は正常で尿蛋白はなし

イメージ画像

Ann Rheum Dis 2006;65:1537?1538. より引用抜粋

 

 

<担当医のアタマノナカ>
本症例は、高熱+抗菌薬不応の経過、急性発症の腹痛と炎症所見と乖離する著明な腸管拡張+腹水貯留、低補体血症、特異抗体陽性からSLEと診断できる。軟口蓋の口内炎ができたエピソードもSLEらしい経過だ。(SLICC分類基準では腸炎を漿膜炎としてカウントすれば4項目該当で基準を満たす。ACR/EULARのSLE分類基準(2019)では腸炎は点数化できないがそれでも13点(≧10点)で基準を満たす) CT像でも有名な”target sign”が見られる。(実はこれ自体はループス腸炎に特異的というわけではないけど。。)

 

<指導医からのコメント>
ループス腸炎って他のSLEの病態に比較してステロイドはよく効く印象がありますが、再燃などはどうなんでしょうね?ステロイド単剤でよいでしょうか?

【入院後経過】

mPSLパルス療法を3日間投与後、ステロイド大量療法(1mg/kg)を開始したところ、パルス終了時点でようやく腹痛も改善(転院時は麻薬性鎮痛薬が必要なほどだったが独歩可能に)。その後も腹痛症状の再燃はなく、ステロイドは10mg/1~2週ペースで減量してHCQ併用を開始し退院となった。

CQ:初発のループス腸炎に対し免疫抑制剤の併用は必要か?

SLEの腸管病変としてループス腸炎は有名であるが、論文上の記載としてはLupus mesenteric vasculitis, Lupus enteritis, peritonitis(serositis)とさまざまな記載が見られる(病理学的には腸間膜の小血管炎だとされているためmesenteric vasculitisが一番メジャーな表現のよう(Nat Rev Rheum 2009;5:273-81))。実は過去の剖検例を見るとSLE患者の60-70%でループス腸炎の所見があったという報告もあり、どうやらその10%くらいしか症状としては自覚されないようだ(World J Gastroenterol 2010;16: 2971-77)。

治療に関しては、2019年のEULAR recommendationの(Fig.1)を参照すると、mesenteric vasculitisはsevereに分類されており、1st lineの治療としてステロイド(po/iv)+ HCQ + MMFまたはCYCが推奨されている(Ann Rheum Dis 2019;78:736-45)が、以前のEULARでは中枢神経ループス、ループス腎炎など臓器別に推奨がなされていたのに対し、2019年の推奨では包括的な推奨へと変わっているため個々のエビデンスレベルについては注意が必要だ

実際、ループス腸炎はSLE全体の0.2%~9.7%(アジアでは2.2%9.7%という2報)と国によって報告のばらつきも大きいものの比較的稀な症状といえる(Nat Rev Rheum 2009;5:273-81)。
ほとんどの症例においてステロイド(パルス療法含む)が有効であることから、免疫抑制剤の併用に対する効果を見た質の高い研究は見つからなかった

ループス腸炎150例(自験例7+文献)をreviewした報告では、免疫抑制剤の併用をしていたのは11例のみであり、腸管壊死をきたしている重症例、再燃例、他の重症臓器病変などには免疫抑制剤の併用を行っていた(Orphanet Journal of Rare Diseases 2013;8:67)。使用している薬剤としてはMMF,CYC,RTXなど。
ただし、再燃は稀ではなく約20%では再燃している。

再燃について、ループス腸炎97例を再燃群(n=18)、非再燃群として比較した観察研究によると、発症時の腸管壁肥厚が8mm以上の場合に再燃リスク上昇と関連が見られている(HR 7.3(95%CI:1.7-30.7)
※この研究に組み入れられた患者の初発例は半数で、70%がCYCの治療を受けており、その多くは他の重要臓器病変を伴っていたことには注意)。(Semin Arthritis Rheum 2014;43:759-66)

 

結論
  • ループス腸炎そのもののステロイド反応性は良いことが多い
  • ただし超重症例や難治例、再発例にはCYC, MMF, RTXなどが考慮される
  • 再燃は稀ではないため、再燃予防としての免疫抑制療法はありかもしれない

 

担当:WKK
略語表記
mPSL: メチルプレドニゾロン
HCQ: ヒドロキシクロロキン
MMF: メコフェノール酸モフェチル
CYC: シクロフォスファミド
※実際の症例をmodifyした架空症例を題材にしています
※保険適用外の検査や治療に関する記載が一部ある可能性がありますが、これらを推奨するものではありません

 

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