膠原病(特にSLE)で血小板減少を呈する病態の鑑別のポイントは?

膠原病(特にSLE)で血小板減少を呈する病態の鑑別のポイントは?

【症例】

40代 男性
30代の初めにループス腎炎(classⅢ)、中枢神経障害、白血球減少、抗dsDNA抗体陽性、抗PT抗体とLAC陽性からSLE + APSと診断され治療歴があり外来で少量のステロイドで経過を見ていた。直前の外来では元気そうだったが4日前から食欲低下が出現しその後悪寒を伴う発熱があった。日光を避けて自宅療養していたが症状が悪化し救急外来に来院され、著明な血小板減少があったため緊急入院となった。
直前の内服歴:プレドニゾロン5mg/日、PPI、天然型ビタミンD、アスピリン

【入院時診察所見】

来院時は解熱しており血圧:126/68mmHg、脈拍97/分、低酸素なし。顔面と両前腕に紅斑を認める。

【入院時検査結果】

<血液> WBC:1700 (好中球82%、リンパ球13%)、Hb:11.3mg/dl(正球性)、Plt: 3.1×104、末梢血塗抹で破砕赤血球なしCRP:3.88mg/dlAST/ALT: 367/112 IU/lLDH: 1579 IU/lCr:1.8mg/dlCK 2992 IU/lフェリチン2400ng/ml、ハプトグロビン: 40mg/dl、FDP:6.8μg/ml、Dダイマー:1.5μg/ml
<尿検査> 尿蛋白:1+尿潜血:2+(沈渣:1-4/HPF)β2MG/Cr:448μg/gCrNAG/Cr: 16.3IU/gCr

 

<担当医のアタマノナカ>

血小板減少の鑑別が頭の中でグルグルしてしまって、何から検査していったらいいかわかりません!助けて~!

 

<指導医からのコメント>
SLE患者さんの血小板減少を見た時、薬剤性や感染症はまず除外すべきですが、SLEに関連する病態としては4つあります。①自己抗体ができてしまって脾臓で破壊される、②溶血が起きて血小板が消費されてしまう、③活性化したマクロファージがどんどん貪食する、④そもそも骨髄が攻撃されて作られない、です。
これらを想定して検査結果が何を意味しているのか考えていくと少し整理しやすいかもです。実際には病態がオーバーラップしている可能性などもありそんなに簡単ではないですけどね(^^;)。

CQ:膠原病(特にSLE)で血小板減少を呈する病態の鑑別のポイントは?

ITP TMA HPS (MAS) 無巨核球性
血小板減少症
(後天性)
DIC
微小血栓
(中枢神経, 腎臓)
発熱 ±
(原因による?)
貧血 ±
(鉄欠乏や
AIHAの合併は
時にあり)
溶血性
(ハプトグロビン
低下)
産生障害 ±
(鉄欠乏が多い)
白血球
(好中球)
↑ or →※1 ※2 ↑ or → or ↓
(全部あり)
末梢血塗抹 np 破砕赤血球 np np Np
LDH
凝固時間 延長
PT※3 延長
APTT※3 延長
線溶系マーカー → or ↑ → or ↑
骨髄の巨核球 → or ↑※4 血球貪食+
その他
参考になる
検査など
抗GP2bⅢa抗体
(エリスポット法)
ADAMTS13↓
(※低下しない
ことも多い)
血清フェリチン↑ 血中トロンボポエチン↑ フィブリノゲン↓

※1 SLEに伴うTMAではそんなにWBC増加が目立たないという報告もある(Thromb Res.2014;134:1020-7)
※2 AOSDに伴うMASではWBCは高い
※3 MASやTMAにDICを合併する事も少なくないため注意が必要
※4 ITPでも1/3の症例は骨髄の巨核球が減少していると言われているため、あまりあてにはできない
< visual dermatology 2017 Vol 16 No.8. p801 を参考に作図>

ITP (免疫性血小板減少性紫斑症):

国際的には“I”はidiopathicではなく”immune”のIと認識されているが、様々な事情から(?)本邦ではidiopathicのまま使用されている(難病申請の際など)。”purpura (紫斑) ”は認めないこともあるため非常にややこしい名前になってしまっている。厚生労働省の診断基準をはじめこれまで多数の診断基準が提唱されているが、その診断精度は高くないと言われており診断のgold standardがないため意外と診断は難しく除外診断になる。さらに膠原病に合併するITPは2次性になるため、ますますその診断は他の鑑別も考慮して慎重にしていかなければならないというジレンマがある。ITPに脾腫は普通ないか軽度である、というの話もある(Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2018;2018:561-567)が、これは1次性のITPの話で、残念ながらSLEや成人スティル病を初めとした血小板減少をきたしやすい膠原病で脾腫は高頻度で見られる。
ちなみにPAIgGは有名だが特異度が低いため、値が低ければ少し可能性は下がる(感度は約90%と言われている)くらいに思っておいたほうがよい。血小板膜の糖蛋白に対する自己抗体を産生するB細胞を検出するエリスポット法があり、感度特異度ともに高かったという報告がある (日内会誌2009;98:1580-85)。2021年7月時点でSRLに外注で依頼可能である(※ただし高額で保険適用外)。

TMA (thrombotic microangiopaty: 血栓性微小血管症)

TTPやHUSを含む包括的な概念として提唱されている。膠原病関連では強皮症、SLEが多い。ADAMTS13の著減例はTTPと考える。病態仮説としてはADAMTS13に対する自己抗体説(TTP)、血小板上にある糖蛋白への自己抗体説などがある。SLEではAIHAとの鑑別のため間接coombs陰性かどうかを確認するとよい(ただし陽性でもAIHA合併の可能性もあり否定は難しい)。

HPS (血球貪食症候群) /MAS (マクロファージ活性化症候群) / HLH

海外ではHLHとしてreviewや研究報告がされることが多いが、病態的にはこの3つはかなりオーバーラップしていると考えられる。下図のように様々なサイトカインが”嵐のように”血中を巡りマクロファージが異常に活性化した状態だと考えられている。

Annu Rev Med.2015;66:145–159

成人スティル病(AOSD)ではIL-1,IL-6,IL-18が病態に深く関わっている事や臨床的にも非常に高い炎症反応血清フェリチンの上昇や肝酵素上昇(これはマクロファージの活性化を反映していると思われる)からMASという病態と合致するのは想像しやすい。
一方、SLEで何故MASが起こるのかはまだ分っていないが、SLE患者では主に樹状細胞を通じてCD8+T細胞が活性化していることやIFNαが増加していることなどからマクロファージを活性化する可能性がある。ただその活性化の程度はM-CSFや血清フェリチン、IL-18なども比較すると明らかにAOSDよりも低い(J Rheumatol 2010;37:967-73 + 自験例より)。SLE-MASの症例では抗dsDNA抗体と血清フェリチン値が逆相関していたという報告(Lupus 2015;24:659-68)もあることから、自己炎症的要素と自己免疫的要素のどちらが優勢かによってMASの発症のしやすさは変わってくるのかもしれない(推測)。

無巨核球性血小板減少症

ITPと臨床症状や特徴は極めて類似しているが、骨髄検査で巨核球が著しく減少している事が特徴。トロンボポエチン受容体に対する自己抗体が高率に陽性となると言われている(Rheumatology (Oxford) 2006;45:851-4)が、商業用に測定はできない。かなりレアな病態でありほとんどcase reportでの報告にはなるが、ステロイドへの反応はあまりよくないという報告もあり(Rheumatology (Oxford) 2006;45:851-4)、シクロスポリンアザチオプリンシクロフォスファミドリツキシマブなどの有効例の報告があり何らかの免疫異常が骨髄での巨核球減少に関連していると思われる。

【経過】

入院同日に骨髄穿刺を行ったところマクロファージの血球貪食像が見られた。全身の異常に比してCRPが低く凝固系に異常がないことSLEらしい皮疹が出現していたことLDHとフェリチンの著増と末梢血での溶血所見がないことからSLEに伴う血球貪食症候群(マクロファージ活性化症候群)と判断しステロイドパルス療法+ステロイド大量療法+シクロスポリンを開始した。治療開始後より速やかに血小板は増加傾向となり解熱し皮疹も消失した。尿所見異常やCKの異常高値も徐々に改善、消退した。

 

結論
  • 膠原病患者の血小板減少のタイプは4つに分けて考えるべし。
    (抗体による破壊,溶血,貪食,骨髄での産生低下)
  • 薬剤性や感染症はまず除外(できるだけ)
  • 具体的にはITP, TMA, HPS, 無巨核球性血小板減少症(後天性), DICがメインの鑑別になる
  • ただし異なる病態がオーバーラップしている可能性も同時に考慮が必要でありしばしば鑑別は困難

 

担当:WKK
略語表記
AOSD: 成人スティル病
IFNα: インターフェロンα
ITP: 免疫性血小板減少性紫斑症 / 特発性血小板減少性紫斑病
HPS: 血球貪食症候群
HLH (hemophagocytic lymphohistiocytosis) : 血球貪食性リンパ組織球症
MAS: マクロファージ活性化症候群
TMA (thrombotic microangiopaty): 血栓性微小血管症
LAC: ループスアンチコアグラント
β2MG: β2ミクログロブリン
NAG: N-アセチルグルコサミニダーゼ
※実際の症例をmodifyした架空症例を題材にしています
※保険適用外の検査や治療に関する記載が一部ある可能性がありますが、これらを推奨するものではありません

 

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