インフルエンザは冬に流行するウイルス感染症で、急な高熱や強い倦怠感が特徴です。重症化すると肺炎などの重い症状を引き起こすことがあり、注意が必要です。このページでは、2025年12月4日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、当院呼吸器内科主任部長の石田直副院長が「本当は怖い インフルエンザの話」と題して講演した内容から、ワクチンや感染対策の重要性などについて紹介します。
予防のポイント:ワクチンと肺炎対策
インフルエンザワクチン接種は、高齢者の重症化や死亡のリスクを減らす効果が報告されています。
ワクチンの有効率が60%とされる場合、これは「未接種者に比べて罹患のリスクが60%減少した」という相対効果を示します。ただし、全体で見た罹患率の差(絶対効果)は小さいため、国や地域単位で評価することが大切です。
また、加齢に伴い免疫応答が低下する「免疫老化」により、高齢者ではワクチンの効果が低下することがあります。特にA(H3N2)型インフルエンザでは、この傾向が顕著です。
高齢者向けの高用量ワクチン
高齢者での効果減弱に対応するため、標準用量の4倍の抗原を含む高用量インフルエンザワクチンが海外で導入され、日本でも2026年から定期接種に加わる予定です。この高用量ワクチンについて、海外の臨床試験では、標準用量と比較して副反応(局所の腫れや痛みなど)が同程度だったと報告されています。
肺炎球菌ワクチンで二次性肺炎を防ぐ
インフルエンザによる重症化、死亡の原因として最も多いのは肺炎です。インフルエンザウイルスに感染すると、気道上皮の線毛細胞が剥離・脱落し、異物や細菌を排出する機能が低下します。その結果、細菌が気道上皮に付着しやすくなり、肺へ侵入して二次性細菌性肺炎を引き起こします。 原因菌で最も多いのが肺炎球菌です。この肺炎球菌が血液や髄液などに侵入した場合、「侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)」となり、予後が悪化します。インフルエンザの先行感染がある場合、致死率は15.3%から28.3%に跳ね上がることが報告されています。また、鼻腔における肺炎球菌の保菌率が高いのは、実は小児です。したがって、お孫さんから祖父母へ感染が伝播することがあります。
二次性肺炎の脅威に対抗するため、インフルエンザワクチンに加えて、肺炎球菌ワクチンとの併用が有効だと報告されています。肺炎球菌ワクチンを接種することで、肺炎の発症率や死亡のリスクを抑える効果が示されており、特に以下の患者が接種対象とされています。

日常でできる感染対策
インフルエンザ対策の3本柱の最後は、飛沫感染対策を中心とした感染対策です。
咳エチケット
インフルエンザは主に飛沫感染で広がり、咳やくしゃみによるしぶきは1~2m飛びます。 咳エチケットでは、咳やくしゃみをする際はティッシュで口や鼻を覆うこと、ティッシュがない場合は手ではなく服の袖でカバーすることが推奨されています。また、かぜやインフルエンザに罹ったときは、マスクを着用しましょう。

正しい手洗い
石鹸と流水による手洗いは、感染対策の基本です。 正しい手洗いは、石鹸と流水で20秒以上手を擦り洗いすることが推奨されています。これは「ハッピーバースデー」の歌を2回歌うか、「もしもしカメよ」を1回歌う間に相当します。 石鹸と流水が利用できない場合は、アルコール濃度60%以上の手指消毒剤を使用しましょう。
このページの内容は令和7年12月4日時点で正確な情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状・推奨される治療などは、個人差がありますので、ご自身への適応に関しては必ずお近くの医療機関、もしくは、かかりつけ医にお問い合わせください。

倉敷中央病院 副院長 兼 呼吸器内科主任部長
日本感染症学会インフルエンザ委員会委員長
専門領域
呼吸器一般、呼吸器感染症
専門医等の資格
●日本内科学会総合内科専門医、指導医
●日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、指導医
●日本呼吸器学会専門医、指導医
●日本感染症学会専門医、指導医
●日本アレルギー学会専門医
●米国胸部医会フェロー
●インフェクションコントロールドクター
●日本化学療法学会抗菌薬指導医、臨床試験指導者
●日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症指導医
(2025年12月12日公開)