松七五三 晋
VOICE
倉敷中央病院 救急科
松七五三 晋
世界水準の診療方針を
身につけられる
充実した学びの支援

「重症外傷患者さんを救える外科医に」

2014年に医師としての第一歩を踏み出しました。初期研修医時代の救急当直で重症外傷患者を救命できなかった苦い経験から「外傷外科医になりたい」という思いが芽生えました。外傷外科への想いは年々募り、2017年に当院で開催されたJATECコースに参加しました。そこで内野隼材先生(当時、救急科在籍)にお会いして、南アフリカで1年間外傷外科の研修を積まれた経験を伺いました。「自分もスキル・診療能力向上を目指して海外研修をしたい」と心が決まりました。
外科研修修了後の2019年に当院に異動、2021年に南アフリカのChris Hani Baragwanath Academic Hospital(以下、CHBAH)で1か月間の見学を行ったのち、今回2024年4月から2025年3月までの1年間、同院で外傷外科研修を行いました。海外での外傷外科研修を実現させるために2017年からキャリアプランを立ててきたので、念願叶って南アフリカの地に立てたときは少し安堵したことを覚えています。
外傷患者とひたすら向き合い、研鑽を積む
研修先のCHBAHは職員数6,760人、病床数3,200床、敷地面積が700,000㎡(当院の約8倍)の公立病院で、世界で7番目の規模です。外傷手術件数は1日平均4件、1か月約120件(当院は年間約40~50件)。医療費は公費負担のため薬剤、CT検査など医療資源がかなり制限されています。外傷外科の研修先として世界的にも有名で、海外から多くの外科医、救急医が研修に訪れています。
現地では外科の初期研修医の立場から研修を開始しました。最初の3か月間は手術に入ることはほぼなく、救急外来で1日に20~30人の重症外傷患者の初期診療にあたりました。続く6か月間は外科の後期研修医として手術にも入り、最後の3か月間は指導医として当直チームの最高責任者を務めました。
1年間で約80回の当直を行い、約210件の手術に参加することができました。銃創や刺創の手術など、日本ではあまり経験できない外傷手術も多く執刀することができました。
家族と離れ、単身渡った南アフリカ。心に残っているのは、チームから認められた瞬間です。指導医になったとき、他の指導医たちから私の名前とConsultant(指導医)の文字が刺繍されたスクラブを渡されました。これまでにCHBAHで指導医と認められた日本人医師はおらず、他国の研修医を含めても5人ほどだと聞きました。これは本当に嬉しかったですし、自信になりました。多くの学びと経験を積むことができた一年でした。

一旦離れて見えてきた「倉中」
倉敷中央病院救急外傷外科チームは世界水準の外傷診療を提供することを目指しています。実際にCHBAHの外傷診療方針は当院で学んできたものと大きく変わらず、日々の診療で世界水準の考え方が身についていたと感じました。他国から研修に来ている外傷外科医と話していても同様に感じました。
また、CHBAHでは外傷患者が多いにも関わらず他科やコメディカルは外傷診療に協力的ではなく、当院のように他科やコメディカル一丸となって外傷患者の治療にあたれる環境はありがたいと実感しました。
今回、当院在籍のまま海外研修を認めていただき、さまざまなサポートも受けられました。学びを支える体制が充実しているのは、当院の強みだと思います。

次の5年間で目指す未来

外科領域では、腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術の普及が進む一方、重症外傷診療を担える外科医が減少しています。重症外傷手術は緊急性が高く、一味違った技術と経験を必要とするため、外傷に精通した外科医の減少は患者さんの救命率に影響を与えてしまうかもしれません。
当院救急外傷外科チームは外傷外科、救急外科、外科的集中治療の3つの領域で世界水準の診療や研修を提供しています。切磋琢磨していく環境があり、海外研修を含めて色々な選択肢もあります。「外傷外科医になりたいけど、どうしたらいいかわからない」と、かつての私のような思いを抱いている医師に当院のことを知って、研修に来てもらいたい。それが今後5年間の大きな目標です。他施設から研修に来てくれた医師が、当院で学んだ世界水準の外傷外科診療を自院で実践していく。それが広い地域で外傷患者を助けることにつながっていく、と信じています。