インフルエンザは冬に流行するウイルス感染症で、急な高熱や強い倦怠感が特徴です。重症化すると肺炎などの重い症状を引き起こすことがあり、注意が必要です。このページでは、2025年12月4日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、当院呼吸器内科主任部長の石田直副院長が「本当は怖い インフルエンザの話」と題して講演した内容から、重症化リスクや早期治療の重要性などについて紹介します。
インフルエンザの感染状況
インフルエンザウイルスにはA~D型があり、A型は世界的大流行を、B型は世界的または地域的な流行を引き起こします。
過去10年間(2015年〜2025年)の国内のインフルエンザ定点当たり報告数を見ると、インフルエンザは通常、年明けにピークを迎える傾向にあります。しかし、2024年〜2025年シーズンは年末から急増し、定点当たり報告数が67という過去にない記録を出しました。これは、コロナ禍の間、感染者数が少なく集団免疫が低下していたことが原因と考えられています。
今シーズンは、去年のH1N1パンデミック型ではなく、H3N2型が主体で、立ち上がりが非常に早く、既に警報レベルに達しています。
重症化リスク:高齢者と全身への影響
インフルエンザは多くの場合は自然に治りますが、一部は重症化し、急性脳症や二次性肺炎などを発症することがあります。
特に重症化リスクが高いとされているのが、
• 65歳以上の高齢者
• 5歳未満(特に2歳未満)の幼児
• 慢性的な肺疾患(気管支喘息を含む)、心血管疾患、肝疾患、腎疾患、血液疾患、神経疾患、糖尿病などの代謝性疾患
• 免疫抑制治療を受けている人
• 妊婦および出産後2週以内の産褥婦
• BMI 30以上の肥満者
• 療養施設の入居者
などです。
インフルエンザによる入院患者の主要な基礎疾患としては、慢性呼吸器疾患(肺気腫や喘息など)、慢性心疾患、糖尿病などが多く挙げられますが、基礎疾患のない健康な人でも一定数で重症化して入院するケースがあります。2015~2025年の当院インフルエンザ入院患者年齢分布を見ると、60歳以上から患者数が急増し、死亡率が占める割合も多くなります。気を付けなければならないのが、40歳台の方でも、重症化すると亡くなられる場合があることです。体調に不安を感じた際は、我慢せずになるべく早く医療機関を受診することが大切です。

軽症にとどまらない全身への影響(ドミノ現象)
インフルエンザは呼吸器感染症にとどまらず、特に高齢者では主要な臓器に大きな障害をもたらす可能性があります。インフルエンザが引き金となって、合併症が次々と起こる「ドミノ現象」が知られており、肺炎、心筋炎、心不全、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の悪化などが挙げられます。中でも、インフルエンザに罹患すると、脳卒中のリスクは8倍、急性心筋梗塞のリスクは10倍に増加することが報告されています。

早期診断、早期治療の重要性
インフルエンザ対策の3本柱は、「抗インフルエンザ薬」「ワクチン」「感染対策」です。抗インフルエンザ薬(タミフル、イナビル、ラピアクタ、ゾフルーザなど)は、体内で増殖したウイルス量を速やかに減少させ、次のような効果が期待されます。
• 症状の緩和(解熱までの期間が約1-2日短縮)
• 罹病期間の短縮
• 合併症の防止(入院リスクを63%減少(Dobson J et al., Lancet 2015; 385: 1729-37))
• 周囲への感染拡大抑制
重要ポイントは、発症後2日(48時間)以内の投与開始が望ましいことです。実際に、2日以内の早期投与と、それ以降に開始した場合では、早期投与の生存率が高かったことが示されています。

また、2009年に新型インフルエンザのパンデミックが発生した際、日本の人口10万対死亡率は0.15と低く、特に妊婦の死亡はゼロだったことが報告されています。これは、当時の日本国内の妊婦患者のほぼ9割が、発症後2日以内に抗ウイルス薬を投与されており、早期受診・早期治療を実現できたことが要因の一つと考えられています。インフルエンザの患者が重症化するかどうかを病初期に判断することは困難なため、日本感染症学会では、抗インフルエンザ薬を適切に選択し、早期に使用することを推奨しています。
後編では、ワクチンや感染対策について解説します。後編の内容はこちらから!
このページの内容は令和7年12月4日時点で正確な情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状・推奨される治療などは、個人差がありますので、ご自身への適応に関しては必ずお近くの医療機関、もしくは、かかりつけ医にお問い合わせください。

倉敷中央病院 副院長 兼 呼吸器内科主任部長
日本感染症学会インフルエンザ委員会委員長
専門領域
呼吸器一般、呼吸器感染症
専門医等の資格
●日本内科学会総合内科専門医、指導医
●日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、指導医
●日本呼吸器学会専門医、指導医
●日本感染症学会専門医、指導医
●日本アレルギー学会専門医
●米国胸部医会フェロー
●インフェクションコントロールドクター
●日本化学療法学会抗菌薬指導医、臨床試験指導者
●日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症指導医
(2025年12月12日公開)