緩和医療における放射線治療(前編)

緩和医療における放射線治療(前編)
緩和治療における放射線治療(前編)

がん治療の三大治療法は「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」ですが、放射線治療は根治目的(がんを治す)だけでなく症状を緩和させる目的にも使用されています。緩和ケアと言うと、終末期に行われるケア(ターミナルケア)を想像される方も多いと思いますが、がん治療中に緩和ケアを行うことで、患者さんの生活の質の向上を目指すことも可能です。
このページでは、2024年7月25日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で当院放射線治療科主任部長の板坂聡先生が講演された内容の中から、放射線治療が緩和医療で果たす役割や、放射線治療の概要などについて紹介します。

緩和ケアとは?

緩和ケアという言葉を聞いたことがある方も多いと思います。緩和ケアとは何を指すのか検索してみますと、

「がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。緩和ケアは、がんに伴う心と体のつらさを和らげます。」(がん情報サービス)

「がん患者さんは、がん自体の症状のほかに、痛み、倦怠感などのさまざまな身体的な症状や、落ち込み、悲しみなどの精神的な苦痛を経験します。「緩和ケア」は、がんと診断されたときから行う、身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケアです。」(緩和ケア.net)

さらにWHOでは以下のようにまとめられています。

この中で特に赤字の箇所、「痛みやその他のつらい症状を和らげる」や「QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある」、「病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療」といったところは、放射線治療が関わります。

放射線治療

放射線治療の特徴として「局所治療」「機能温存」「形態温存」の3つのキーワードが挙げられます。

局所治療;
手術と同じように、放射線を当てた場所に効果が出ます。逆に言えば、放射線を当てなければ効果も副作用も出ません。また、手術と違って体にメスを入れないため、一般に手術と比べると体の負担が少ないという特徴があります。

機能温存;
がんを切除しないため、臓器が持つ機能を温存することができます。特に頭頸部(首まわり)にある腫瘍や、食道にできたがん、こういったがんでは重要な要素になります。

形態温存;
外見上の形態を温存します。特に乳がんや頭頸部のがんに関しては、非常に大切なことになります。

体の負担が少なく、臓器の機能や見た目にあまり大きな変化を及ぼさないという意味で、放射線治療は緩和医療に適した治療法といえます。

根治照射と緩和照射

がんの根治を目指すのか、症状の緩和に努めるのか、最初に治療目標を設定しますが、同じ放射線を使った治療であるため完全に別のものではなく、両者には連続性があります。

根治照射
手術や抗がん剤などと組み合わせて、がんをしっかり治そうという治療であり、ある程度の副作用も許容します。放射線をたくさん当てる必要があるので、治療期間も1か月半~2か月と、一般に長くなります。

緩和照射
がんによる種々の症状を和らげるために用いられます。痛みや麻痺の改善、出血を止める、あるいは狭窄改善と言って気道であれば呼吸が楽になる、食道であれば食事の通過がよくなることなどを目指します。症状緩和が目的ですから、治療期間も短期でかつ副作用も軽度にとどまるようにします。基本的に1、2週間以内に治療は終わり、できるだけ速やかな症状の改善を目指します。

緩和照射の中には、QOLの維持や生存期間の延長も目指して行う治療があります。例えば、症状はないが骨転移がたまたま見つかり将来的に起こりうる骨折や麻痺を予防する目的に治療する、薬物療法の効果が出にくいことも多い脳転移に対して放射線治療を行うといったケースです。このような場合では症状緩和を目標とした治療より多くの放射線を当てて、転移病変のコントロールを目標とします。

緩和医療での放射線治療の役割のまとめ
・痛みやその他のつらい症状を和らげることができる。
・患者さんのQOLを高める。症状を和らげるだけではなく、場合によっては治療の経過にも良い影響を及ぼす可能性があります。
・生存期間の延長を目指して行われる治療では定位照射(ピンポイント照射)なども用いられます。
といった役割があります。

オリゴ転移とは?
オリゴは“少数”という意味で、数が少ないものをオリゴと定義します。同じがんの転移でも、個数がたくさんあるものと、数個しかなく少ない場合では、がんの振る舞いが違うと考えられます。個数が少なければ、そこをしっかり治療すると生存期間をより伸ばせるのではないかという試みがなされています。
今までも肺や肝臓にできた転移は、個数が少なければ手術で取ることがありましたが、定位放射線治療(ピンポイント照射)を用いることで、手術で取るのが難しい脳転移や骨転移などにもしっかりと治療ができます。がんは転移がみられると根治が難しいのですが、オリゴ転移に対しては薬物療法の進歩もあり、積極的な治療が取り組まれるようになっています。

放射線治療の目標は、がんの種類や患者さんの状況次第で変わります。がん治療を継続中の方で、途中出現したつらい症状を放射線治療で速やかに改善し、がん治療がストップしないようにサポートすることもしばしばあります。がん治療はさまざまな病気の段階で可能な限り苦痛を少なく、日常生活をできるだけ差し障りがなく過ごせるようにすることを目標にしています

倉敷中央病院の放射線治療の実績

下記は2014年と2023年の実績となります。肺癌、乳癌、前立腺癌が主体の泌尿器腫瘍、血液腫瘍や消化器腫瘍が多く、疾患の割合は大きくは変わっていません。

治療患者数(2回治療をした人は2名として集計)は、2014年の724名から2023年は812名と増えています。

この中で脳転移や骨転移に対する緩和照射は、この約10年で大きく増えています。割合でいうと脳転移が9.9%から13.2%、骨転移では14.1からら20.9%となっており、今後も放射線治療のなかで緩和照射の占める割合の増加が予想されます。その一つの背景としては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、薬剤の開発が進み、転移があっても長期生存が可能な患者さんが増えてきていることも考えられます。

倉敷中央病院での放射線治療の流れ

外来診察
主治医の先生より事前に放射線治療科の医師に相談をうけてから、放射線治療科を受診いただきます。患者さんの症状や画像の情報などにもとづいて治療の方針を決めていきます。

放射線治療
放射線治療計画用のCT検査を最初に行います。実際に放射線治療を受けるときと同じ体勢で撮影したCT画像を用い、コンピューター上で治療計画を作成します。「腫瘍にどのように放射線を当てるか」「正常臓器にできるだけ当てないためにはどうするか」などを工夫して治療の準備を行います。
放射線治療は毎回、同じ体勢になる必要があり、体に直接印を書いたり、固定用の器具を作成したりします。通常の放射線治療で息止めの必要はありません。

準備ができたら実際の放射線治療に進みますが、下記のような機器を使用します。

この装置はリニアックといって、治療用のエックス線が出ます。体の中の当てたい場所の位置を画像で確認した上で、しっかりと狙い撃ちをしていく機能があります。

後編では骨転移と脳転移に対する放射線治療について解説します。

板坂 聡
倉敷中央病院 放射線治療科 主任部長
専門領域
放射線治療(消化器癌、血液腫瘍)、RI治療
専門医等の資格
●日本医学放射線学会研修指導者
●日本がん治療認定医機構がん治療認定医
●日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医
●日本専門医機構認定放射線科専門医

(2024年9月11日公開)

YouTube倉敷中央病院公式チャンネル

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