膵臓がんは、かつては発見した時点で進行していることが多く、治療が困難な病気とされてきました。しかし、現在では医療技術の進歩により、早期に発見して適切な治療計画を立てることで、完治を目指せる「治る病気」へと変化しています。2026年1月20日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、外科主任部長の増井俊彦先生が「膵臓がんと向き合う ~負担の少ない手術と最新のお薬について~」と題して講演した内容から、前編では膵臓がんの概要や診断方法、初期に現れる症状などについて紹介します。
膵臓の役割と二つの機能
膵臓は胃の後ろ側、お腹の深い位置にある臓器で、大きく分けて二つの重要な役割を担います。
・外分泌機能:食べたものの消化を助ける「膵液(消化酵素)」を作り、十二指腸へ送り出す。
・内分泌機能:血糖値をコントロールする「インスリン」などのホルモンを血液中に分泌する。

膵臓がんと膵神経内分泌腫瘍
膵臓から発生する腫瘍は、どちらの機能を持つ細胞から発生するかによって性質が異なります。膵臓の腫瘍の大半は、消化液を運ぶ膵管の細胞から発生する「膵臓がん」です。一方、ホルモンを出す細胞から発生するものは「膵神経内分泌腫瘍」です。いずれも他の臓器へ転移する悪性腫瘍ですが、その「悪さ(悪性度)」の度合いには大きな違いがあります。
膵臓がんは非常に進行が早く攻撃的な性質を持ちますが、神経内分泌腫瘍は比較的ゆっくりと進行する場合が多く、治療戦略が大きく異なります。画像診断で腫瘍が見つかった際には、病理組織検査によってこれらを正確に見極めることが、適切な治療を選択するうえで極めて重要です。
神経内分泌腫瘍
神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Tumor;NET)は、10万人あたり約3.5人が発症する稀少疾患で、世界的には徐々に増加していると報告されています。主に消化管や膵臓、肺にみられますが、子宮頸部や前立腺、胆管など全身のさまざまな臓器から発生する可能性があります。なかには、ホルモンを過剰に産生する「機能性腫瘍」と呼ばれるタイプもあり、消化性潰瘍、低血糖、下痢など、多彩な症状を引き起こします。
腫瘍の性質は非常に穏やかなものから、急速に大きくなり転移する悪性度の高いものまで幅広いことも特徴です。まれに遺伝性のタイプがみられることもあります。
このように病態が多様で、診療には複数の専門分野が関わる必要があります。倉敷中央病院では、腫瘍内科や消化器内科、外科に加え、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科、内分泌内科、遺伝診療部など、多くの診療科が連携し、患者さん一人ひとりに合わせた治療に取り組んでいます。
膵臓がんの現状と早期発見の大切さ
日本における膵臓がんの罹患者数は年間約4万人にのぼり、部位別のがん罹患数では男女ともに第6位となっています。膵臓がんは高齢化に伴って患者数が増えているがんの一つで、60代では2,000人に1人、70代では1,000人に1人が発症するというデータもあり、今後ますます注意が必要な疾患といえます。

膵臓がんの予後は厳しいというイメージが強いですが、ステージによって生存率は大きく異なります。
近年の統計データによると、膵臓がん全体の5年生存割合は約10%前後ですが、「ステージ0」の超早期で発見された場合の生存割合は86%に達します。また「ステージ1」であっても44%となっており、早い段階で病気を見つけ、適切な治療を行うことが完治への鍵となります。こうした数値は医療技術の進歩に伴い、今後さらに変化していく可能性があります。

なぜ早期発見が難しいのか?
膵臓がんの早期発見を阻む最大の要因は、初期に痛みや出血といった自覚症状がほとんど出ない特性にあります。膵臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり進行するまで症状が現れにくいです。また、一般的な検診における以下の課題も発見を難しくしています。
• 腫瘍マーカーの限界:代表的な血液検査(CA19-9)では、ステージ1の早期がんの場合、半数の50%弱しか異常値を示さない。
• 検査の死角:膵臓は「地下1階」に例えられるほどお腹の深い位置にあるため、腹部エコー検査では胃の中のガスなどに邪魔され、全体を観察することが困難なケースがある。
診断技術の進化
このような「見つけにくさ」を克服するため、精度の高い診断技術が導入されています。
・超音波内視鏡(EUS):胃の中から膵臓を観察し、1cm以下の非常に小さな病変も詳細に捉えることができます。

・MRI検査(MRCP):造影剤を使用せずに「膵管」を詳細に描き出し、わずかな太さの変化からがんの予兆を察知します。
・新しい血液マーカー(APOA2):2024年に保険適用となった検査項目です。従来の検査に組み合わせることで、超早期(ステージ0~ⅠA)の検出率が従来の約41%から約66%へ向上することが期待されています。
体が発する初期サインとリスクチェック
注意深く観察することで気づける「初期サイン」として、以下の症状が挙げられます。

また、自分自身が膵臓がんになりやすい要因を持っているか、以下のリストに該当する項目があるかを知っておくことも重要です。
膵がんリスクチェックリスト
✓ たばこを吸う、お酒をよく飲む、肥満である
✓ 糖尿病、慢性膵炎、膵嚢胞(すいのうほう)がある
✓ 親や兄弟に2人以上の膵臓がん患者がいる(家族性膵がん)※特に家族歴がある方は、発症リスクが6倍以上に上昇することが判明しており、定期的な画像検査を受けることが推奨されています
中編では、手術について解説します。中編の内容はこちらから!
倉敷中央病院広報室のYouTubeチャンネルでは、2026年1月20日に増井先生が「膵臓がん」をテーマに解説した市民公開講座の動画を公開しています。WEBページに収まらなかった内容もありますので、下記のリンクバナーをクリックしてぜひご覧ください。
このページの内容は令和8年1月20日時点で正確な情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状・推奨される治療などは、個人差がありますので、ご自身への適応に関しては必ずお近くの医療機関、もしくは、かかりつけ医にお問い合わせください。

倉敷中央病院 外科主任部長
専門領域
肝胆膵外科
専門医等の資格
●日本外科学会専門医、指導医
●日本消化器外科学会専門医、指導医
●日本がん治療認定医機構がん治療認定医
●日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
●日本肝臓学会専門医
●日本膵臓学会認定指導医
●日本肝胆膵外科学会/日本内視鏡外科学会ロボット支援手術プロクター
●日本内視鏡外科学会技術認定医
●da Vinci Certificate
(2026年2月6日公開)
