夏にも多い、脳卒中
厚生労働省の令和元年(2019年)人口動態統計によると、脳卒中で亡くなるかたは悪性新生物(がん)、心疾患、老衰に次いで4番目に多く、寝たきりとなる原因の1位です。脳卒中は冬場に多いと思われるかもしれませんが、2020年の当院脳卒中入院患者数(図1)をみますと、夏場でも脳梗塞が多いことがわかります。急性期脳梗塞のカテーテル治療では7、8月に件数が多くなっています(図2)。夏は大量の汗をかくなど脱水症状になりやすい時期。また、熱を発散させるために血管が拡張して血圧が低下しやすくなります。血液中の水分が不足して「ドロドロ血」になると血の塊ができやすくなり、これが脳血管を詰まらせ、脳梗塞を発症します。
脳梗塞の前兆、危険な「一過性脳虚血発作」
一過性脳虚血発作は、軽い症状と見過ごしてはいけません。脳梗塞と同様の症状が短時間(通常は30分以内)起こります。自然に消失しますが、本格的な脳梗塞の前触れなのです。発作後3か月以内に6人に1人が脳梗塞を発症し、その半数はに48時間以内の発症です。下のような症状があらわれたら、すぐに専門的病院を受診してください。
脳卒中の治療
当院では、脳卒中のタイプごとに治療を行います(表1)。
【表1】専門的病院における入院治療 | |
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脳 梗 塞 | 詰まった血栓を溶かしたり除去する治療 (血栓溶解療法、カテーテル治療) |
梗塞巣を広げないようにする治療 (抗血小板療法、抗凝固療法等) |
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脳 出 血 | 血圧管理、血腫除去術 |
くも膜下出血 | 再出血予防、 クリッピング手術、カテーテル治療 |
脳卒中専門病棟で治療を受けると、死亡率が低下し、自立して自宅に退院できる可能性が高くなります。血栓溶解療法とカテーテル治療は時間制限があるので、発症から治療までの時間が重要です。血栓溶解療法は4.5時間以内、カテーテル治療は24時間以内とされています。rt-PA(アルテプラーゼ)による血栓溶解療法(図3)脳梗塞の最新の治療法で、後遺症のない人が1.5倍に増えました。しかし、治療時間を踏まえると3.5時間以内に病院に到着する必要があります。カテーテル治療(図4)通常、右足のつけねにある血管からカテーテルを挿入して、血栓を絡め取り、吸引します。
危険因子を減らすことが大事!
脂質異常、血糖が高い、血圧が高いといった危険因子が重なるほど、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)や脳梗塞を起こす危険性が高まることが明らかになりました。メタボリックシンドロームのかたは要注意です。ご自身の体調や生活習慣を見直してみましょう。人間ドックや健康診断を定期受診するのもおすすめです。服薬中のかたは自己判断で中止せず、必ず医師に相談しましょう。そしてこの夏、脳梗塞にならないために、適切に水分補給を行って脱水症状を防ぎましょう。
脳神経外科・脳卒中科 医長
●日本脳神経外科学会専門医
●日本脳卒中学会専門医、指導医
●日本脳神経血管内治療学会専門医、指導医
●日本神経内視鏡学会技術認定医