水道管は長期間使うとだんだん劣化して破裂することがあります。最近のニュースで、水道管の破裂をご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。血管も同じで、動脈硬化が進んで破裂したり中が詰まったりすると、大動脈解離や心筋梗塞、脳梗塞など怖い病気を引き起こします。
このページでは、2025年2月25日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、当院心臓血管外科の小宮達彦主任部長が「血管を守る」と題して講演した内容から、後半部分の血管を守るための生活習慣の改善などについて紹介します。
動脈硬化の要因
動脈硬化の3大原因は高血圧、糖尿病、高脂血症で、これらの背景には肥満や運動不足、ストレス、喫煙、加齢、塩分や脂肪の過剰摂取、アルコールの飲み過ぎといった、いわゆる生活習慣病が深く関わっています。皆さん、その重要性を理解していても、実践するのは容易ではありません。私が思う生活習慣の改善について、ご紹介します。
肥満と運動
昔の人々、例えば明治時代までは狩りや農業など、食べ物を得るためには常に体を動かす必要があり、移動手段も徒歩が中心でした。しかし現代は、デスクワークの増加や自動車の普及により、体を動かす機会が大幅に減少しています。さらに食べ物は容易に入手でき、食欲が旺盛だと肥満が増加傾向となります。昔は動脈硬化は稀でしたが、現代では患者数が増加していることが指摘されています。
肥満は血管にとって大きな負担で、内臓脂肪として蓄積されます。この内臓脂肪は、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の根源で、重大な合併症を引き起こす原因となります。お腹周りの状態は特に重要です。
血管を守るためには、適度な運動が不可欠です。昔の人は労働によって自然と運動していましたが、現代は意識的に運動を取り入れなければなりません。高齢者の場合は、動脈硬化予防だけでなく、骨や筋肉の維持のためにも運動が重要です。厚生労働省の調査によると、週2回以上、30分以上の運動習慣がある人は一部に限られていますが、高齢者には比較的運動習慣のある人が多い傾向にあります。
運動には、有酸素運動と無酸素運動があります。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、軽登山、サイクリング、エアロビクスなど)は、脂肪や糖質をエネルギーとして消費するため、内臓脂肪を減らすのに効果的です。一方、無酸素運動(筋トレ、短距離走など)は主に糖質をエネルギーとして使う、より負荷の高い運動です。500kcalの運動で約70gの脂肪を減らすことができます。例えば、ランニング約8.3km、ウォーキング約2〜2.8時間、クロール1時間などが目安となります。運動をする際は、無理のない範囲で、散歩や軽い体操から始めるのも良いでしょう。楽しく運動を継続することが重要で、景色を楽しんだり、仲間と一緒に行ったりすることも効果的です。運動がストレスにならないように、自分自身に合った方法を見つけましょう。
食生活
食生活も血管の健康を大きく左右します。塩分の摂りすぎは高血圧の主要な原因となるため、食塩摂取量の目標値(日本では8g未満、アメリカでは6g未満)を意識し、減塩を心がける必要があります。病院食は塩分制限をしていますので、物足りないと感じた方は、普段の塩分量が多い可能性があります。食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑える効果があり、糖尿病予防にも重要です。野菜の摂取目標量は1日350gとされていますが、実際の摂取量は不足傾向にあるため、積極的に摂るように心がけましょう。
単純糖質(菓子、ジュース、果物など)は血糖値を急激に上げるため、間食としての摂取は特に注意が必要です。デザートとして食後に適量を摂る分には、血糖値の上昇は緩やかになると考えられています。脂肪の種類にも注意が必要で、各種加工食品、加工油脂に含まれるショートニングはできるだけ摂取を控えてください。肉や乳製品は不飽和脂肪酸が多く摂りすぎないように注意しましょう。
赤ワイン、オリーブオイル、全粒穀物、魚を中心としたイタリア料理に代表される地中海食は、心臓病予防になることが学術的に証明されています。さらに肉、魚、乳製品をまったく使わず野菜食中心のビーガン食は、すでに動脈硬化の進んだ患者さんに有効であることが分かっていますが、日本人にはなかなか難しいと思います。
日本には和食という素晴らしい文化があります。自然の恵みを活かした食材、バランスの取れた栄養(一汁三菜)、旬の食材の使用など、血管を守る上で優れた食文化です。食事は、ゆっくりと味わいながら摂ることが大切です。天然の魚や健康な肉、野菜を積極的に摂り、加工食品やファーストフードは控えめにしましょう。炭水化物もできれば控えめに、私も食事の最後に摂るようにしています。甘いものも、できるだけ食事の後のデザートとして楽しみ、間食は避けるようにしましょう。少量のアルコールは食事の友として許容される場合もあります。
そのほか、禁煙は血管を守る上で非常に重要で、ストレスを軽減することも心身の健康維持に不可欠です。
Take Home Message
ミドルエイジの方(50〜60歳代)は、今後の健康寿命を考えると、特に食生活(炭水化物、塩分、脂肪の摂取に注意)と運動習慣に気をつけ、定期的な有酸素運動とストレス軽減を心がけ、標準体重を維持することが重要だと考えています。少しでも異常を感じたら、早めに専門医に相談しましょう。
高齢の方は、「長生きできた」という喜びを大切にしつつ、過度な制約を設けるのではなく、食事を楽しむことを基本とし、無理のない範囲で運動や趣味活動などを楽しみ、心身ともに健康で豊かな生活を送ることが大切です。頭を使うこと(知的活動)も健康維持に繋がります。
血管を守るために、日々の生活習慣全体を見直し、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、適切なストレス管理の実践を心がけてはいかがでしょうか?
倉敷中央病院広報室のYouTubeチャンネルでは、このページで紹介している市民講座の模様を動画で公開しています。下記のリンクバナーをクリックしてぜひご覧ください。

倉敷中央病院 心臓血管外科 主任部長
専門領域
心臓血管外科(虚血性心疾患、弁膜症、大血管、先天性心疾患)
専門医等の資格
●日本外科学会専門医、指導医
●日本胸部外科学会指導医
●心臓血管外科専門医認定機構 心臓血管外科専門医、修練指導者
●臨床修練指導医
(2025年5月9日公開)