日本の平均寿命と健康寿命の間にある約10年の差は、介護や支援が必要になる可能性のある時間を意味します。この差を縮めるために重要なのが、無症状のうちから体の変化を知り、備える「予防医療」です。
2026年5月21日に開催した倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」では、当院付属予防医療プラザの和田憲和所長が「未来をつくる予防医療 ~予防の第一歩は今の自分を知ること」と題して講演を行いました。その講演内容から、後編では、空腹時血糖では見逃される「血糖値スパイク」やオプション検査を使った病気の見える化などについて紹介します。
見えない病気の「見える化」
通常の健康診断で調べられる範囲には限界があります。人間ドックの基本項目には、腹部超音波検査や眼底検査など、全身の状態を幅広く確認できる検査が含まれています。さらにオプション検査を追加することで、無症状の段階で疾患が発見される場合もあります。
肺CT検査(オプション検査): 胸部X線写真ではとらえられない肺がんの発見

腹部超音波検査(人間ドックの基本検査項目に含む): 自覚症状のない段階で、脂肪肝や膵臓がん、腎がんなどを検出

眼底検査(人間ドックの基本検査項目に含む): 自覚症状のない段階で、緑内障や血管の変化を確認

「自分は元気だから大丈夫」という主観ではなく、客観的なデータによって「今の自分を正しく知る」ことこそが、予防の第一歩となります。
見逃されやすい「血糖値スパイク」とは
通常の健診(空腹時血糖)では正常と判定されても、食後の短時間だけ血糖値が急上昇する「血糖値スパイク(食後高血糖)」が隠れていることがあります。血糖値スパイクは、右図のように食後に血糖値が急上昇し、その後急降下する状態で、自覚症状はほとんどありませんが、「食後の強い眠気やだるさ」が現れる可能性があります。放置すると、血管にダメージが加わり、動脈硬化を進める要因の一つと考えられています。
炭水化物を最後に食べる「カーボラスト」
血糖値スパイクの対策として有効なのが「カーボラスト」です。ポイントは「炭水化物を後にすること」です。野菜(食物繊維)やたんぱく質、脂質などを先に食べ、最後に炭水化物を摂ることで血糖値の急上昇を抑えることができます。
厳密な順番ではなく「意識すること」が重要です。また、ゆっくり食べることも有効です。
血糖値は「見える化」できる
血糖値スパイクの見逃されやすいリスクを捉えるため、予防医療プラザでは2026年6月から、オプション検査に「持続血糖測定器(CGM:血糖値の変動を連続的に測定する機器)」を導入します。
500円玉ほどのセンサーを皮膚に貼り、最大10日間、24時間の血糖変動をモニタリングします。スマートフォンでいつでも血糖値を確認できます。食生活や運動が、実際の数値としてどのように反映されているかをリアルタイムで知ることで、具体的で効果的な生活改善につながります。
骨粗しょう症は「自覚症状なく進む」病気
骨粗しょう症は、骨の密度が低下し、骨折しやすくなる病気です。特に背骨や大腿骨の骨折は、寝たきりや介護状態のきっかけになることもあります。
問題は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。実際に下の画像のように、検査によってはじめて骨密度の低下が明らかになるケースも少なくありません。

骨密度は検査で「見える化」できる
骨の状態は、DEXA法(骨密度測定)によって数値として正確に評価できます。
若年成人比80%以上:正常
70〜79%:骨量減少
70%未満:骨粗しょう症
骨密度は見た目や自覚では分からないため、検査による客観的な評価が重要です。
骨粗しょう症の背景にある「ビタミンD不足」
栄養素の不足にも注意が必要です。骨密度の低下に大きく関わるのが、ビタミンD不足です。ビタミンDは、腸からのカルシウム吸収を助け、骨の形成を支える重要な栄養素です。不足すると骨密度が低下し、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。さらに、日本人の約9割以上がビタミンD不足とも言われており、非常に身近な問題です。
ビタミンD不足がもたらす影響
ビタミンDは骨の健康だけでなく、免疫機能にも深く関わっています。不足すると骨密度が低下して骨粗鬆症や骨折のリスクが高まるほか、感染症や将来的ながんのリスクとの関連も指摘されています。
対策としては、1日15〜30分程度の日光浴(手や顔に日光を当てる程度でOK)や、サケ・サバ・イワシなどの魚、きのこ、卵を積極的に摂ることが推奨されます。
食事や日光だけで十分な量を確保することが難しい場合も多いため、サプリメントの活用も有効な選択肢となります。

※骨塩定量(DEXA法による骨密度測定)とビタミンD血中濃度は当施設でもオプション検査として実施できます。
自由診療の人間ドックは「将来への投資」
ここで重要になるのが、医療の2つの側面です。
・保険診療:自覚症状または他覚的な異常があり、病気が疑われてから検査・診断・治療を行う医療
・自由診療(人間ドックなど):自覚症状の有無にかかわらず、病気になる前にリスクを把握し、早い段階で異常を見つけるための医療
治療が中心の保険診療に対し、人間ドックは主に「予防」の役割を担います。
自由診療の人間ドックは「将来の自分への投資」となります。病気が進行してから治療を始めれば、多額の医療費がかかるだけでなく、仕事や家庭生活を制限せざるを得ないなど、生活の質(QOL)が低下します。一方、定期的なドックでリスクを早期に摘み取れば、長期的には医療費の負担軽減につながる可能性があり、「自分らしく生きる時間」を守ることができます。
予防医療は特別なものではありません。
• 知る
• 気づく
• 変える
という積み重ねが、将来の健康をつくります。まずは自分の体の状態を正しく知ることから始めてみましょう。その一歩が、健康寿命を延ばすことにつながります。
前編では、平均寿命と健康寿命の差や健診結果を活用することの重要性などについて紹介しています。
このページの内容は令和8年5月21日時点の情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状、治療法などは個人差がありますので、ご自身への適応については必ずお近くの医療機関、または、かかりつけ医にご相談ください。
予防医療プラザの詳細は下記のバナーよりご確認ください。
和田 憲和倉敷中央病院附属予防医療プラザ所長
専門領域
人間ドック
専門医等の資格
●日本人間ドック・予防医療学会人間ドック健診専門医、指導医
●日本内科学会認定内科医、総合内科専門医
●日本腎臓学会腎臓専門医
●日本透析医学会透析専門医
●日本医師会認定産業医
●日本医師会認定スポーツ医
(2026年6月15日公開)
