体と同時に弱るもの~社会的フレイルという問題~

体と同時に弱るもの~社会的フレイルという問題~
体と同時に弱るもの~社会的フレイルという問題~
 
フレイルとは、加齢によって筋肉量や心身の活力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間に位置する「虚弱な状態」のことです。2026年6月4日に開催した倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」では、救急科の田村暢一朗部長が「体と同時に弱るもの~社会的フレイルという問題~」と題して講演を行いました。私たちは身体機能の維持に目が向きがちですが、先生ご自身の臨床経験も交えたフレイル予防のためのアドバイスを紹介します。
 

フレイルとは? ~要介護との関係~

ラテン語の「Fragilis」英語の「Frality」が語源です。「壊れやすい、脆い」という意味です。

「まだ壊れていないが、虚弱な状態」が、フレイルの言葉の定義です。「フレイル」は病名ではなく、介護、要介護状態になるまでの状態、身体の状態であるとご理解ください。
フレイルの特徴に、次の5項目があります。この5項目のうち1~2項目が該当すればプレフレイルで、3項目以上該当すればフレイルと言われています。

※クリックするとパンフレットPDFをご覧いただけます

健常な状態からフレイルになり、要介護となっていく中で、よく起こる病気が誤嚥性肺炎や脳梗塞、尿路感染、転倒による大腿骨骨折、頭部外傷などです。これらの病気・ケガで要介護状態に進む方もおられます。フレイルから要介護に進む割合を調べた研究1)によりますと、フレイルの方は2年間で大体17%ぐらいが要介護になります。健常者が要介護状態になる割合を1としたら、プレフレイルだと2.5倍、フレイルだと4.7倍の方が要介護状態になると言われています。

ピンピンコロリ、という言葉があります。皆さん「要介護状態にはなりたくない」とお思いでしょう。ですが、ある朝起きたら突然自立から全面介助になるわけではなくて、少しずつ年をとって支援が足されていく過程がフレイルであり、老いであろうと思います。超高齢社会が進むと、少しずつ支援が必要な人が増加します。そこに対応するために、国が提唱するのが「地域包括ケアシステム」です。真ん中に患者さんとお住まいがあって、体調が悪くなれば医療にかかります。退院後は、老人クラブ、自治会、ボランティアなどに参加しながら、必要に応じて医療・介護サービスを利用しながら自宅で暮らす生活を示しています。

要介護状態にならないようにするには?

頑張れば戻れる、というのがフレイルの状態です。「ロコモティブシンドロームを進行させないために体操で筋力を維持しましょう」「フレイルを予防しましょう」と聞かれた方もおられるでしょう。でも、フレイルというのは身体筋力だけの問題でしょうか?
フレイルには3つの要因があると言われています。日常生活を営むために必要な機能が低下する身体的フレイル、人と接する機会が減る・食生活のバランスが崩れるなどの社会的フレイル、うつや意欲の低下などの精神心理的フレイルです。

画像引用:一般社団法人医学会連合会発行啓発パンフレット「知っていますか?フレイルとロコモ 」

ここで、社会参加が少ない人はフレイルになりやすいのか?というデータをお示しします。イギリスとアメリカで社会的関与と孤独感と虚弱の進行および回復との関連性を調べた研究2)で、1~10の社会参加とフレイルの関係を調査しています。

  1. 家族、友人、近所の人と付き合いがある
  2. 仕事についている
  3. ボランティア活動をしている
  4. 誰かとカードゲームなどをしている
  5. 地域活動に参加している
  6. 旅行に行っている
  7. 本や新聞を読んでいる
  8. インターネット検索や手紙を書いている
  9. 公共の集まりに参加している
  10. レストランに行ったり、映画やスポーツを見に行く

ひとつ社会参加が増えるごとに、フレイルになる率がイギリスで0.69倍、アメリカで0.7倍に低下します。社会参加がないとフレイルになりやすいという結果が示されています。では、孤独を感じる人というのは、フレイルになりやすいんでしょうか。イギリスとアメリカで社会的関与と孤独感と虚弱の進行および回復との関連性を調べた研究3)によると、孤独を感じている人がフレイルになる率は、イギリスが1.42倍、アメリカが1.50倍だそうです。社会的要因や心理的要因は目に見えず言語化しにくいですが、とても大事だとわかります。

生活の質(QOL)とフレイル

QOL(Quality of Life)とは「生活の質」や「人生の質」を意味します。どんなもので構成されているかを図でお示しします。

画像引用:第14回浜松オンコロジーフォーラム「QOLの正しい評価方法を学ぶ」下妻 晃二郎 

生きがいや信念(スピリチュアリティ)がベースにあって、その上に心理面や社会面、役割・機能面、身体面、これらが合わさって私たちの生活が成り立っています。フレイルを構成する3つの要素とほぼ一緒ですね。朝起きて、食事をして、散歩に行き、買い物をし、仕事をし、夜寝る。そういった24時間の生活すべてが実はフレイルと関連していると言えます。

脳出血後、自宅に戻られた方のQOLをあげるサポート

脳出血後の患者さんの事例を通して、その人のQOLを上げ、結果フレイルをどう予防するかを皆さんと考えたいと思います。皆さんのご家族、お友達をイメージして、その方の生活の質を上げるために何ができるか、という視点で考えてみましょう。
脳出血後のケースです。この方はリハビリを経て自宅に戻られましたが、左半身に麻痺が残りました。ほとんど自宅の居間で過ごしている状況です。インタビューさせていただき、お話のなかで外出意欲はあることが分かりました。けれど、すぐ疲れる、人に当たると心配など、不安がとても強いようすです。リハビリのための固定具を着けても、感覚がないことによる恐怖から体重をかけられません。
インタビューで得られた生活情報を身体、精神、社会役割に分けて考えてみました。

①身体

②精神

③社会役割

  • 左片麻痺
  • 耐久性低下
    (自宅ではほぼ横になっているか座位のみ ほとんど家で過ごす)
  • 今:洗濯たたむ 洗い物
  • 発症前:もともと家事全般できていた(ご主人の弁当作り)
  • 希望は高いが、面倒くさい←動くとすぐ疲れる
  • 外出するとトイレが心配
    外出すると人に当たってしまうかもしれない」という不安が強い
    自信の喪失(本当の意味で障害の受け入れがまだ?)
  • 日々のリハビリが自分の行動範囲を広げることを理解できていない
  • 麻痺側に過重をかけることに対する恐怖
  • 発症前:近所の花屋、百均での買い物を楽しんでいた。
  • 4歳まで育てた孫(中学生)週に1回遊びに来るが別室でゲーム。孫は3人でかわいい
  • 発症を機にご主人が優しくなった
  • 毎日ご主人と晩酌(あまり会話はない)

私たちが出した答えは、「病気の受け入れができていないことによる不安感が、この方のモチベーション阻害因子である」でした。進歩をちゃんと明示化してあげて、褒めることをしてみよう、自信をつけてもらおう。これを目標に置き、ケアマネと一緒にケアプランを立て直しました。

リハビリ介入

  • リハビリ時の進歩を褒める、明示化する
  • 麻痺側の関節可動域訓練、ストレッチ
  • 麻痺側の荷重訓練
  • 下肢、体幹筋力強化

短期目標

  • 自分の昼食やお孫さんが来た時に一緒に調理する
  • 自分で出来そうな家事を行う
  • リハビリ時に進歩を示して、自信をつける

長期目標

  • 友人、姉妹宅に遊びに行く
  • ご主人の弁当を作る

そして、6か月が経ちました。介入前と比較してみましょう。

 

介入前

介入6か月後

自宅での様子

  • 大半を居間でTV観たり、スマホをして過ごす
  • 外出はほとんどない
  • 食事、ご主人の弁当を作る
  • 自主トレの実施
  • 外出は少ないがたまに長男宅で食事やご家族で旅行に行かれる

本人の発言

  • 片手になって何をするのも面倒
  • やって出来たらずっとしないといけない
  • 外はトイレのことや路面の凸凹が心配
  • 主人が助けてくれるから甘える
  • 時間がかかるけど調理を続けている、何でも作れるようになった
  • トイレに立ったついでに運動したりしている

サービスは増やしていません。自信を付けてもらう小さい試みが、前向きな生活に変えました。ご主人のお弁当を作ることに生き甲斐を感じられ、週3回利用していたデイケアを週1回に減らしたいと申し出られました。生活を変えるのは自身のモチベーションなのだと、このケースを通じて学びました。
フレイルは、戻れるチャンスがあります。目に見えにくい精神的、社会的側面をケアプランに盛り込めるよう言語化し、家族みんなでアプローチしていくことが、フレイルの状態から戻すのに必要だと考えます。

老健を利用しながら自宅生活をしている住民のQOL in 倉敷

リハビリを経て自宅に戻り生活しながら、老健で3か月リハビリを行い、再び自宅に戻る…という方法でサービスを利用している倉敷市内の方を対象に、ASCOT(Adult Social Care Outcomes Toolkit) という質問票を用いてアンケートを行いました。高齢者や障がい者などの社会的ケア(介護など)を受けている方々の「社会的ケア関連QOL(生活の質)」を測定するために開発された評価ツールです。退院後の在宅時、老健利用時、自宅復帰時の回答の変化をみてみましょう。

自身の生活のコントロールという点で見ると、黄色と灰色が2から3、つまり老健にいる時より家に帰ると問題ありと答えた人が増えました。清潔さ、居住の清潔さや飲食、環境の安全性などではあんまり困っていません。社会参加の面では、老健にいる時より自宅での生活のほうが問題ありという答えが増えました。

老健だとほかの入居者やスタッフと話せるのですが、自宅では昼間家族がいない環境になりがちです。「転倒して家族に迷惑をかけないよう、あえてベッドから離れない」と多くの方が話されました。フレイルをできるだけ進ませないためには、体操も良いですが、社会役割を何か維持しないといけないということになります。男性の方に多いのが、退職とともに会社の人間関係もなくなり、社会参加の機会が減るという状況です。今は趣味友つくり(他者とのつながりつくり)に役立つアプリもあります。元気なうちに、社会参加の機会を定期的に作っておくというのは非常に大事です。

活き活きと生きる

LIFEは「生活」であり「生命」でもあります。
健康的な生命=活き活き生きる生活
だと考えます。

生活の質がフレイル予防のために重要です。
「活き活きと生きる」、これが最大のフレイル予防です。

自分にとって活き活き生きるってどういう姿なのか、朝起きてから寝るまでを振り返ってみましょう。一人ひとり違う自分らしい生活が送れていることが大切です。生きていて最高だなと思える時間が1日、1週間、1時間あるといいな、と思っています。

 

  1. フレイルとは? ~要介護との関係~
    「まだ壊れていないが、虚弱な状態」 身体、精神、社会役割 
  2. 要介護状態にならないようにするには?
    少しづつ「支援が足されていく」過程なので準備が必要
  3. 生活の質(QOL)とフレイル
    フレイルは体だけでなく、日々の生活すべてに関連している
  4. 脳出血後、自宅生活を送っている方のQOLをあげるサポート
    生活情報を身体、精神、社会役割に分けて考えてみる
  5. 老健を利用しながら自宅生活をしている住民のQOL
    大切なのは他者との関わり、活動
  6. 「生活=活き活きと生きる」ためには?
    ひとりひとり違う自分らしい生活

 

参考文献

1)  Makizako H, Shimada H, et al.: Impact of physical frailty on disability in community-dwelling older adults: a prospective cohort study. BMJ open. 2015; 5: e008462.
2) Cai Z, Papacosta AO, Lennon LT, et al. Associations of social engagement and loneliness with the progression and reversal of frailty: longitudinal investigations of 2 prospective cohorts from the UK and the USA. Am J Epidemiol. 2025;194(4):984-993.
3) Cai Z, Papacosta AO, Lennon LT, et al. Associations of social engagement and loneliness with the progression and reversal of frailty: longitudinal investigations of 2 prospective cohorts from the UK and the USA. Am J Epidemiol. 2025;194(4):984-993.

 

 

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