大腸がんの内視鏡を使った検査と治療

大腸がんの内視鏡を使った検査と治療
大腸内視鏡を使った検査とがん治療

大腸がんは2020年の部位別予測で、男女とも多くの罹患数と死亡数が示されています。死亡者数の推移もアメリカは横ばいですが、日本は年々増加していて欧米とも遜色のない死亡者数となっており、大腸がんの予防は非常に重要な課題です。
大腸がんのステージ(癌の進行度を表す指標でステージ1が早期の癌、ステージ4が進行した癌)別の5年生存率は、ステージ3までに治療すれば予後が良好なことが示されおり、早期発見・治療がとても大切になります。
大腸がんの検診の重要性や内視鏡治療について、消化器内科の下立雄一先生に聞きました。

1.大腸がん検診の重要性

  便潜血検査で死亡率が低下することは国内の研究で証明されています

  内視鏡検査で切除が必要かどうか診断できます

2.大腸がんの内視鏡治療

  がんに変わる恐れがあるポリープの切除で大腸がん死を防ぎます

3.大腸CT検査

  最近注目されている有用な検査ですが、利点と欠点の理解が大切です

大腸がんの検診

便潜血検査を検診に用いることで大腸がん死を減らせることを示した研究が1990年代に多く発表され、1992年から40歳以上の方を対象に、2日に分けて便を採取する便潜血2日法が大腸がん検診に採用されました。
現在の大腸がん検診の問題点として、「時間がない」「健康に自信がある」「がんであると分かるのが怖いから」などの理由で、受診率が低いことが指摘されています。

検診の流れ

便潜血が2本のうち1本でも陽性であれば要精密検査となり、大腸内視鏡検査の実施が推奨されます。
大腸に便がたくさんあっては十分な観察ができないので、検査前に前処置を行って便を全て出す必要があります。前処置薬を飲んでいただきますが、これが大変です。途中で吐き気や全て飲み切るのが難しい方もいらっしゃいます。

大腸内視鏡検査は痛い?

個人差が非常に大きいです。「胃カメラより楽だった」と言われる方もいらっしゃいます。一般的に腹部の手術歴がある方、小柄・細身の女性は技術的に難しい傾向があります。痛みが出やすいと想定される方は予め鎮痛剤を使用します。

必ず大腸のすべてを観察できますか?

癒着(臓器同士が張り付いた状態のこと)や腸が長くて盲腸までカメラが到達しないこともあります。そういった方に対して当院では、2つの風船(バルーン)を用いて内視鏡を尺取虫のように進ませて観察できるバルーン内視鏡や細い内視鏡を用いるなど、さまざまな工夫を行っています。

前年に要精密検査で内視鏡検査をしたけど、異常なし。今年も便潜血が陽性でしたが、内視鏡検査は必要ですか?

便潜血が頻回に陽性となる理由としては3点、便潜血検査の感度は100%ではないので偽陽性があること、痔がある場合、前回の内視鏡検査での見逃しあるいは新規に発生した腫瘍が考えられます。
直近で検査を受けた人がもう一度検査した際に異常が見つかる確率は、おおよそ1000人に1.7人と言われています。見逃しや新しく発生したがんなど、色々な理由が考えられますが、過去に受けた内視鏡検査が1回のみであれば、もう1度受けた方がいいとも言えます。普段の診療においては上記をご説明し、患者さんと相談の上で方針を決めています。

通常の検査ではどんな内視鏡を使いますか?

大腸カメラは外径10~12mm前後のものを使用しています。なお、胃カメラは経鼻内視鏡の場合、外径が約5~6mmです。

検査時間はどのくらい?

患者さんによって差があります。大腸内視鏡検査は内視鏡を盲腸まで入れて、抜きながら観察するという流れで行います。検査時間は盲腸まで到達する時間に左右され、時間がかかる人は盲腸到達時間が20分くらいで、全体で約30分。1~2分で盲腸まで到達できた場合は、10分ほどで検査が終わります。

もう一度、便潜血検査をして陰性なら内視鏡は免除されますか?

消化器内科医として「良いですよ」とは言えません。偽陽性の疑いもありますが、原則として大腸内視鏡検査を推奨します。選択肢の一つとして大腸CT検査がありますが、国の指針では大腸CT検査は精密検査として推奨されていません。前処置が困難、癒着などで大腸内視鏡検査が困難な方が対象になります。

大腸内視鏡検査で、がんがあるかどうかが分かりますか?

通常光(普通の見え方)で容易に判別できる病変と、できない病変があります。判別が難しい病変はNBI診断(光の波長を変えたもの)を用い、それでも判別が難しい場合はピオクタニンという色素を使って染色し、癌かどうかを見分けます。基本的に模様が整っていれば良性、崩れていたらがんとなります。

良性のポリープは形が整っています
良性のポリープは整った模様です
悪性のポリープは組織の模様が崩れています
悪性のポリープは組織の模様が崩れています

大腸がんの内視鏡治療

大腸にポリープがあっても、すべてを切除する必要はありません。原則として6mm以上の腺腫(後にがんに変わる可能性のある良性のポリープ)と、悪性度が高いとされる平らな腺腫は5mm以下でも切除します。腺腫を切除することで大腸がんが予防されることは国内外の研究で証明されており、当院でも積極的な切除を勧めています。
ポリープの種類ですが、内視鏡の専門医が見ると、90%以上の精度で腺腫かどうかを判断できます。腺腫が早期癌になり、進行するのが大腸がんの発育過程ですので、良性のポリープのうちに切除することが大腸がん予防につながります。
盛り上がってくるタイプの腺腫は徐々にがんに変わっていきますが、平らな、特に凹んでいる腺腫は、突然がんに変わって一気に進行することがあるので悪性度が高く、注意が必要です。

内視鏡治療で切除できる大腸がん

進行癌は外科手術(腸切除)で治療します。早期癌で内視鏡で切除できるかどうかの基準は、大きさではなく根の深さ、いわゆる深達度が重要です。がんは浅いところにでき、徐々に深くなります。リンパ節転移がなく粘膜下層の上1/3(具体的には1000μmまでの深さ)より浅いと診断した場合に内視鏡治療を検討します。

切除の方法

治療の問題点として、偶発症と処置時間の長さがあります。偶発症で2大合併症と言われているのが、後出血(切除後に出血すること)と穿孔(腸に穴があくこと)です。以前は偶発症とのバランスを考えて、5mm以下の小さなポリープは経過観察としていましたが、近年「コールドポリペクトミー」という、簡便性と安全性の高い手法が普及し、当院では積極的に比較的小さいポリープも切除するようにしています。
大きなポリープは内視鏡的粘膜切除術(EMR)で治療します。生理食塩水を粘膜下層に注入し、病変を盛り上げた後に輪っか(スネア)をかけ、熱(電流)を加えて切るというイメージです。大きなポリープは熱(電流)を加えなければ切除できません。そのため大腸壁に熱が加わるので、コールドポリペクトミーと比べて出血や穿孔のリスクが高まります。

さらに大きいものは内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という、生理食塩水を粘膜下層に注入して病変を盛り上げ、小型の電気メスを使って切除する方法を行います。この方法は技術的難易度が高く、病変を吊り上げて切除しやすくなる医療器具を使用するなど、さまざまな工夫を当院では行っています。ESDでは例えば10cmを超えるような巨大な早期癌も切除できます。ESDが最も有用性が高いのは、肛門の近くにできた直腸腫瘍の切除です。肛門に近い病変を外科的に手術すると永久的な人工肛門が必要になる可能性が高くなります。痔が発達している患者さんでは、ESD難易度が非常に高いですが、当院では肛門の温存を目指して積極的に治療を行っています。

上記YouTube動画の3:06からコールドポリペクトミー、7:48からESDを解説しています。

ESDの手技時間はどのくらいですか?

病変の難易度によって異なりますが、平均で1時間くらいです。切除が容易な病変では30分、切除が難しい病変だと3時間ほど要する場合もあります。内視鏡の操作性が良い場所に癌があるかどうか、剝がしていく層(粘膜下層)が硬くなっていないか(線維化と言います)などで所要時間が変わります。

内視鏡治療は入院が必要ですか?

内視鏡治療は原則日帰りですが、大きいポリープを取るときは入院していただくこともあります。ESDの場合は3泊4日か2泊3日の入院が必要です。

ESDの映像を見ると、出血があって痛そうですが…

実際の内視鏡画像は拡大表示しているため出血量が多く見えますが、実際は指先を少し切った程度の出血です。出血部位に対しては適宜止血処理を行いながら治療を進めていきます。
また、腸の粘膜には痛みの神経がないため、痛みはありません。もしも治療中に痛みが出たときは穿孔の恐れがあるので慎重に対応します。肛門に近い病変の切除では術後1~2日くらい肛門の痛みを訴えられる方もいらっしゃいますが、鎮痛剤などで対応が可能です。

内視鏡治療後も、定期的な内視鏡検査は必要ですか?

ポリープを切除した後の経過観察はガイドラインで決まっており、切除したポリープの悪性度や個数によって内視鏡検査の実施間隔が変わります。悪性度が高いポリープを切除した場合は1年後、悪性でなくても3年後が望ましいとされています。

大腸CT検査

検査の一つとして大腸CT検査がありますが、国の指針では大腸CT検査は大腸がん検診の精密検査として推奨されていません。前処置が困難、もしくは癒着などで大腸内視鏡検査が困難な方が対象となります。
CT写真はお腹を輪切りにするような写真を撮り、コンピューター解析で大腸の二次画像、立体画像イメージを作ることができます。6mm以上の大腸腫瘍は9割、10mm以上はさらに高い確率で見つけることができる、非常に良い検査法の一つと言えるのは間違いありません。

大腸CT検査の流れ

大腸のCTは腸を空気で充満させて膨らませて、大腸壁に突起がないか観察します。ただし、小さいポリープを見つけることは難しいです。そこで、少量のバリウムを飲んで小さなポリープでも見つけやすくする”タギング”と言う方法を当院は採用しています。
大腸CT検査でも前処置薬を飲む必要があります。ただし、大腸内視鏡検査(2リットルの前処置薬を飲む必要がある)とは異なり、前処置薬の量は180mlで、前処置薬をたくさん飲めない人には有用です。ただし、水分はたくさん
飲まなければなりません。
また、大腸内視鏡検査は検査前に水やお茶しか飲めませんが、CTはいろんな種類の水分(ジュースなど)を飲めます。大腸CT検査であれば「やってみよう」と言う患者さんもいらっしゃいます。

大腸CT検査での見え方

大腸CTを撮ると、右図のように明らかに大きいポリープがあることが分かります。
ただ、大腸CTはポリープの大きさが分かっても、悪性か良性かが分からないことが問題点です。さらに、内視鏡で切除できるのか、手術が必要なのかも判断ができません。一方、大腸内視鏡検査では、良性か悪性か、内視鏡で切除できるかどうかが一目瞭然ですぐに分かります。

外科の手術前精査に有用

大腸CTでは、体のどこに腫瘍があるかがとても良く分かります。大腸内視鏡の場合は腸に入っているカメラの長さでおおよその場所が分かりますが、具体的な場所までは確定できません。CTは腫瘍の場所が一目で分かる。これが非常に良い点です。
さらに、周囲の血管のイメージ図が作れます。がんにつながっている血管が把握でき、どの血管を切ればいいか、どう手術をするかを外科の先生が事前に予測でき、手術をする上でとても役に立つ検査です。

大腸CTのまとめ

利点は患者さんの受容性がいいことです。検診や精査を受けられるきっかけになります。また、CTは大腸以外の別の部位の腫瘍も、偶発的に見つかることがあります。
一方で、
・精密検査や治療には内視鏡が必要であること。
・良性、悪性の鑑別が難しいこと。
・悪性度が高い平らな病変の検出率が低いこと。
といった欠点も理解いただいて選択いただくことになります。

大腸カプセル内視鏡

最近注目されている方法ではありますが、大腸CTよりもハードルが高いです。カプセル内視鏡を受けていただく方は原則、大腸カメラが疼痛など何らかの事情で、盲腸まで到達できないことが条件です。また、前処置薬も大腸内視鏡検査と同様、1~2リットル飲んでいただく必要があります。

下立 雄一
消化器内科 部長
専門領域:消化管癌の内視鏡診断と治療、炎症性腸疾患の診断と治療
専門医等:日本内科学会総合内科専門医、指導医
     日本消化器内視鏡学会専門医、指導医、中国支部評議員
     日本消化器病学会専門医、指導医、中国支部評議員
     日本がん治療認定医機構がん治療認定医
     日本消化管学会胃腸科専門医、指導医、学会代議員
     日本ヘリコバクター学会H.pylori感染症認定医
     日本大腸肛門病学会専門医、指導医

(2022年1月20日公開)

YouTube倉敷中央病院公式チャンネル

CTA-IMAGE YouTubeに倉敷中央病院広報室チャンネルでは、疾患の解説動画や院内トピックス紹介動画などを配信しています。市民公開講座「倉中医療のつどい」WEB配信の映像もご覧いただけます。

健康講座カテゴリの最新記事