膵臓がんは、かつては発見した時点で進行していることが多く、治療が困難な病気とされてきました。しかし、現在では医療技術の進歩により、早期に発見して適切な治療計画を立てることで、完治を目指せる「治る病気」へと変化しています。2026年1月20日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、外科主任部長の増井俊彦先生が「膵臓がんと向き合う ~負担の少ない手術と最新のお薬について~」と題して講演した内容から、中編では手術について紹介します。
膵臓がんが疑われたときに実施する検査
診断を確定させるために、以下の検査を実施します。
・造影CT検査:造影剤を使用してがんの広がりや、周囲の重要な血管との位置関係を1㎜単位で評価します。
・超音波内視鏡下生検(EUS-FNA):胃の中から腫瘍に細い針を刺して組織を採取し、病理学的に「本当に膵臓がんか」を確認します。
画像診断だけではなく、病理組織も確認して確実な診断を経てから治療を開始します。
外科治療の大原則:確実な切除と術前準備
外科治療で最も重要なのは、「目に見えない広がりまで予測し、がんを確実に取り切ること」です。膵臓の周囲には重要な血管や神経が密集しているため、術前に3Dシミュレーション等で血管と腫瘍の位置関係を詳細に把握し、万全の準備を整えます。

腫瘍の場所で決まる二つの手術法
膵臓がんの手術は、腫瘍ができる場所(膵頭部か、膵体部・膵尾部か)によって、大きく二つの術式に分けられます。
・膵頭十二指腸切除術:膵臓の右側(膵頭部)にがんがある場合に行います。十二指腸や胆管も含めて切除し、その後、食べ物や消化液の通り道をつなぎ直す複雑な手術です。膵臓がんの約3/4は膵頭部に発生します。
・膵体尾部切除術:膵臓の左側(膵体部、膵尾部)にがんがある場合に行います。多くの場合、リンパ節を確実に除去するために脾臓も同時に切除します。

低侵襲な手術:腹腔鏡、ロボット手術のメリットとデメリット
当院では身体への負担が少ない低侵襲手術を積極的に導入しています。これらの手術には多くの利点がある一方で、考慮すべき点もあります。
腹腔鏡手術とロボット手術の特徴
お腹に数か所の小さな穴を開け、高精細カメラと精緻な器具を用いて手術を行います。ロボット手術では手振れ補正機能や広い可動域を持つ鉗子により、より精緻な操作が可能となっています。
倉敷中央病院では膵臓手術の約8割を内視鏡・ロボット手術で実施しています。
メリット
• 傷が小さい:痛みが少なく、見た目の変化も抑えられる。
• 出血が少ない:高精細なカメラで細かい血管まで見えるため、精緻な手術が可能です。
• 回復が早い:腸を直接触らないため動きの回復が早く、早ければ2週間前後での退院も可能です。
デメリット
・手術時間が長い:開腹手術に比べ、1.5倍程度の時間を要することがあります。
・視野の制限:細かい血管まで見える一方でカメラによる視野は限られるため、高度な技術と事前のシミュレーションが不可欠。
・開腹への移行リスク:手術中の状況により、20~30人に1人は開腹手術に切り替える必要があります。
・高度な血管手術の難しさ:血管をつなぎ合わせるような非常に複雑な工程が必要な場合は、開腹手術が推奨されます。
集学的治療とキャンサーボード
現在は手術単独ではなく、手術の前後に抗がん剤治療を実施する「集学的治療」が標準です。膵臓がんでは手術前に約2か月、手術後に約6か月の抗がん剤治療を実施することで、再発率をそれぞれ約10%ずつ抑える効果があります。このような治療方針は、外科、消化器内科、腫瘍内科、放射線治療科などの専門家が集まる「キャンサーボード(合同カンファレンス)」で決定します。チーム医療による多角的な検討により、生存期間に関するリスクが24%改善するというデータも示されています。

再発を防ぐ栄養状態の維持と管理
手術後の経過で「栄養状態が良い患者さんほど再発が少ない」という研究結果が出ています。栄養状態が良好なグループは、不良なグループに比べて生存率が高いことが判明しており、再発を防ぐためには以下の取り組みが重要です。
・食事と消化剤の活用:膵臓の機能低下を補うため、消化剤を適切に使用しながら栄養をしっかり摂取すること
・適度な運動:体力を維持し、筋肉量を落とさないよう日常的に体を動かすこと。治療は手術をして終わりではなく、良好な栄養状態を保つための自己管理が、長期的な予後を左右する重要な要素になります。
後編では、切除不能と判断された場合の治療方法や患者さんから寄せられる「よくある質問」について解説します。後編の内容はこちらから!
倉敷中央病院広報室のYouTubeチャンネルでは、2026年1月20日に増井先生が「膵臓がん」をテーマに解説した市民公開講座の動画を公開しています。WEBページに収まらなかった内容もありますので、下記のリンクバナーをクリックしてぜひご覧ください。
このページの内容は令和8年1月20日時点で正確な情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状・推奨される治療などは、個人差がありますので、ご自身への適応に関しては必ずお近くの医療機関、もしくは、かかりつけ医にお問い合わせください。

倉敷中央病院 外科主任部長
専門領域
肝胆膵外科
専門医等の資格
●日本外科学会専門医、指導医
●日本消化器外科学会専門医、指導医
●日本がん治療認定医機構がん治療認定医
●日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
●日本肝臓学会専門医
●日本膵臓学会認定指導医
●日本肝胆膵外科学会/日本内視鏡外科学会ロボット支援手術プロクター
●日本内視鏡外科学会技術認定医
●da Vinci Certificate
(2026年2月6日公開)

