めまいは自分やまわりがぐるぐる回る、ふわふわしている、気が遠くなりそうな感じ、物が二重に見える、吐き気がするなどの症状が含まれます。原因はさまざまで、良性発作性頭位めまい症やメニエール病をはじめとする末梢性めまい、脳梗塞や脊髄小脳変性症などに起因する中枢性めまい、ほかにも深部知覚障害に起因するめまいや心因性めまいなど多岐にわたります。
脳梗塞、心臓病、高血圧、糖尿病といった生活習慣病とも関連が深い「めまい」について、このページでは、2024年8月21日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で当院耳鼻咽喉科医長の木村俊哉先生が講演された内容の中から、耳性のめまいについて紹介します。
良性発作性頭位めまい性(BPPV)
頭を動かすと起こるめまいです。年齢を重ねるととも増加傾向で、外来受診のめまいでは最も患者数が多いと言われています。診断は比較的スムーズです。
BPPVは耳石によるめまいです。三半規管の近くに「耳石器」というカルシウムでできた耳石と呼ばれる石が貯まっている器官があります。下の図のように、耳石器から石が離れて細い三半規管の中に入ることで、めまいが誘発されます。耳石は“じっ”としていると動きませんが、頭を左右に動かすと耳石が移動してめまいが起きますので、この石が抜けるような運動を指導します。
薬物療法もあります。めまいは不安になると症状が増悪しますので、不安を抑えるような薬を使うことで症状は軽減しますが、石が抜けないと治りません。そこで「耳石置換法」という運動療法を行います。
耳石置換法は、Epley法とBrandt-Daroff法など、さまざまな方法があります。
①Epley法;座っている状態から頭を横向きにして倒れる→倒れた後に首をひねって首を反対向きにする→頭がそのままの状態で横を向く→そのまま起き上がる、という動きです。
②Brandt-Daroff法;座っている状態から頭を上向きにして横に倒れる→30秒経って起き上がる→頭を上向きにして反対側に倒れる→30秒経って起き上がる、という動きです。
このような動きで三半規管に入った石を抜きます。多くの方は症状が改善しますが、石が三半規管内で動きにくくなっている場合は跳躍法という、ジャンプして石を動かしやすくすることもあります。
高齢の場合、運動量が減り、寝返りも少なくなるので耳石が抜けず、治りにくい方もいらっしゃいます。
メニエール病
聞き覚えのある病気かと思いますが、どういう病気かを説明すると、内リンパ水腫に伴うめまいです。
聞き覚えのない内リンパ水腫ですが、耳の中には内リンパと外リンパがあります。どちらも聴覚や平衡感覚に重要な役割を担う、内耳の中を満たす液体のことです。その内リンパ腔に水がたまって腫れる病気を内リンパ水腫と言います。
下にMRIの画像をお示しします。内耳造影MRIという検査で、前庭あるいは蝸牛の内リンパ水腫の有無を調べます。これまでは剖検という、組織を直接見ないと分からなかったものが、現在は造影剤を耳の中に投与、当院では点滴をして検査します。点滴から4時間経過後に撮影する、遅延造影という方法で行っています。
黄色の点線でなぞった、黒く抜けている箇所が内リンパ腔で、大きくなっていれば水が溜まっていることを意味します。水が溜まると、症状として低音の耳鳴り、ゴーという低い音や冷蔵庫のような音が聞こえ、回転性のめまいもあります。
治療は薬物療法です。ステロイドを使うこともありますが、基本的には尿で水を抜くためのお薬や、内耳や椎骨動脈の血流を改善するお薬を使います。
慢性化して治りにくい方は、長期的な治療として十分な睡眠と水分摂取、有酸素運動をしていただきます。有酸素運動ですが、余り激しくない運動を長く続け、汗がちょっと出るくらいであれば心臓の動きを助けて血液が身体の隅々まで届き、その血液が心臓に返れます。有酸素運動で血液がしっかり循環することで内リンパ水腫も水が引け、水が溜まりにくくなってメニエール病が悪くなりにくくなる。外来でもよく指導しています。
前庭神経炎
入院することがある疾患です。前庭神経の炎症で、ウイルス感染などが原因と言われていますが、実際にはよく分かっていません。激しい回転性のめまいで、メニエール病などよりも症状が強いです。一日中もしくは一週間といった長期間で続き、長い方は1カ月ほど強いめまいが続くため、希望があれば入院となります。症状によっては帰宅も可能です。
治療は薬物療法で、メニエール病と同じように内耳や椎骨動脈の血流を改善するお薬も使いますが、基本的には安静加療。とにかく動けないので、“じっ”としてもらいます。ウイルス感染があれば1週間ほどは症状が軽快しないため、約1週間は安静を意識していただきます。最初の発作から1週間後に少しでも良くなっている方は、症状がぶり返して悪くなることは少ないので、日常生活に徐々に戻っていただきます。
突発性難聴
ウイルス感染や血流障害、神経変性など原因はさまざま挙げられますが、原因が分からずに発症した難聴を突発性難聴と言います。
下の折れ線グラフは聴力測定の結果で、左耳は青色、右耳は赤色の線で示しています。このグラフは、青色の左耳はよく聞こえ、赤色の右耳はあまり聞こえていないことを示します。突発性難聴の症状は、このように片側の耳が聞こえにくいという一側性難聴と回転性のめまいです。
治療は薬物療法で、かつてはステロイドを点滴で全身投与して、1週間入院することが多かったです。ただ、最近は鼓室内投与と言って、外来で2週間もしくは1週間に2回、計4回にわたって鼓室内にステロイドを注入するという治療を行っています。ステロイドの投与後は血流改善薬を内服します。1~3カ月経過して治る方もいますが、中には難聴が改善しない患者さんもいらっしゃいます。難聴が起きて1週間~1か月以上経過すればどの治療も効かなくなりますので、難聴が発症した場合はできるだけ早く、病院に行って治療を受けてください。
後編では、めまいのリハビリなどについて解説します。
また、倉敷中央病院広報室のYouTubeチャンネルでは、2024年8月21日に木村先生が「めまい」をテーマに解説した市民公開講座の動画を公開しております。WEBページに収まらなかった内容もありますので、下記のリンクバナーをクリックしてぜひご覧ください。
倉敷中央病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長
専門領域
めまい
専門医等の資格
●日本専門医機構認定耳鼻咽喉科専門医
●日本めまい平衡医学会認定めまい相談医
●耳鼻咽喉科専門研修指導医
(2024年10月21日公開)