加藤 晴美(臨床研究)

臨床研究は、日常診療から生まれる疑問・課題の解決や医療成果の確認を科学的に検証する重要な方法論のひとつです。当科では、豊富な症例を背景に、冠動脈インターベンション、ショック、不整脈疾患、心不全、弁膜症に対するカテーテル治療や心臓リハビリなど多くの分野のデータベースを当院独自のレジストリーという形で構築しており、それらのデータを基に臨床研究を行い、国内外へメッセージを発信しています。また臨床研究を行うにあたり、各種スタッフによるサポ-ト体制や倫理講習会、倫理委員会等も整っており、臨床研究を行いやすい環境であると考えます。

引き続き当科の特徴を生かし、発生頻度の高い循環器疾患や希少疾患も含めた幅広い領域において、質の高いエビデンスとして活用できるよう、より信頼性の高いレジストリ-を整備し、臨床研究を通してリアルワールドデータの利活用の促進を行うことが重要と考えています。また、他科や他施設とも交流を促進することで、相互のニーズ理解を通じた臨床研究のテ-マを発見し研究を実施することにより、その結果を地域医療ひいては患者さんに有意義にフィードバックできるよう取り組んでいきたいと考えています。

山本 裕美(教育・研修)

当科では各分野において国内屈指の症例数を誇り、最先端の医療を行っています。そのような環境の中、専攻医研修に関してはそれぞれのエキスパートからしっかりとした基礎を学び、実践と経験を詰めるよう専攻医研修プログラムや研修フローを作成し、専攻医一人一人が各分野や症例に偏りなく研修ができるよう工夫しています。また研修中のライフイベントに対しても、各々の希望に応じて科として柔軟に対応しております。経験できる手技や症例も豊富であることから、内科専門医取得後の翌年には多くの先生が循環器専門医を取得しています。大きく変化する卒後医師教育体制や働き方改革、COVID-19のパンデミックなどの予期しないような社会的状況など、常に変化への対応が必要とされる時代となっていますが、その都度研修される先生方に寄り添いつつよりよい研修が行えるよう見直すことも心掛けています。

皆さんも、当科で研修をしてみませんか。気になる事があればいつでも気軽にお問合せ下さい。是非お待ちしています。

福 康志(構造的心疾患のカテーテル治療)

構造的心疾患(Structural Heart Disease: SHD)とは、弁膜症など心臓の構造的な異常に起因する器質的心疾患のことを指します。先天性(心房中隔欠損症、大動脈二尖弁…)の疾患もあれば、様々な要因が原因となる後天的疾患(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症…)もあります。

この領域におけるインターベンションの進歩は著しく、多くの患者さんが治療を受けられるようになりました。今後は、デバイスの適応がさらに拡大していくことが予想されます。また新たなデバイスが使用可能となれば、さらにこの分野が発展していき侵襲度の低い、より効果的な医療を提供できるようになります。我々は患者さんにとってベストな治療法を選択するために、ハートチーム、ブレインハートチームで十分な症例検討を行っています。また、治療成績については随時フィードバックを行い、よりよい治療が患者さんに提供できるように心掛けています。

丸尾 健(画像診断)

循環器領域における画像診断はここ10年程で著しく進歩しています。現在では動く心臓のあらゆる場所をあらゆる角度から細かく手に取るように評価することが可能になっています。心エコー画像は3次元化し、CTは高精細、心臓の動きに追従した撮影が可能になり、MRIは心臓の筋肉の状態まで診ることができ、心筋シンチはよりクリアに血流が足りない場所を描出できる様になってきています。

また、画像診断は、最近の治療の進歩に伴い循環器診療のあらゆる場面で重要性を増しています.弁膜症、先天性心疾患などのstructural heart disease(SHD)に対するカテーテル治療、外科手術においては、診断、治療法の選択、プランニング、治療中のガイドと、各modalityの特徴を生かした使い分けをしています。また、冠動脈疾患における診断ガイドラインの変化、FFR-CTへの注目、心不全薬物治療の進歩、化学療法後の心筋症への介入、心アミロイドーシス治療薬の進歩などにより、新たな機器を生かしたより詳細な診断、指標を用いた評価を行っています。

当院では,現在における先端の画像診断機器を使用して検査を行うことが可能です。これらの機器を最大限生かし、当院に来院される患者さんに寄り添い、様々な病気、治療に柔軟に対応できる画像診断を目指していければと思っています。

田中 裕之(冠動脈疾患のカテーテル治療)

冠動脈疾患・末梢動脈疾患のカテーテル治療

緊急優先の医療体制と最良質の医療を提供する

冠動脈疾患、特に急性冠症候群については、できるだけ早期にカテーテル治療を行うことで予後を安定させる効果がありますので、当科では少しでも早く緊急カテーテル治療を受けられるよう緊急優先による医療体制で取り組んでいます。また待機的な治療については狭心症症状や機能的虚血をしっかりと評価して治療を行うことが求められています。低侵襲で負担の少ないカテーテル治療は、これからの高齢化社会に向けても効果的でより安全に医療を提供する上で必要不可欠な治療です。さまざまな治療デバイスの登場で、以前難しかった治療も安全で短時間に行えるようになりましたが、一部の複雑な病変への治療は現在でも課題が残されたままです。複雑な病変を有する多枝疾患で全身状態が不良な場合、治療ができずそのまま経過をみるのか、治療介入するのかは術者の技量に左右されます。わたしたちは、今後も技量を高めながら最良質の医療を提供し、また最良の医療が提供できているのかを常に検証しながらこれからも歩んでいきたいと考えています。

多田 毅(急性心不全)

近年、人口の高齢化の進行を背景に、全国的に心不全患者の増加を認め心不全パンデミックと呼ばれており、当院においても心不全入院患者数は増加の一途をたどっています。その多くは急性非代償性心不全(うっ血性心不全)による入院です。

当科では、急性心不全の急性期において遅滞なく適切な治療が開始されるよう、「うっ血性心不全に対する急性期治療標準化プロトコール」を作成し、初期治療の標準化を行っています。また急性心不全患者の約半数は集中治療室(ICU)に入院されており、その患者さんには毎日多職種によるチーム回診を行って早期治療の適正化、標準治療薬の導入、早期のリハビリ開始と栄養サポートチームによる栄養療法を進めています。 最近の取り組みとして、心原性ショックを合併した重症の急性心不全患者に対してECMOやIMPELLAといった機械的循環補助(Mechanical Circulatory Support; MCS)を使用する頻度が増加しており、これらの機器に習熟して効果を十分に引き出し、より重症患者さんに対応できるようになっています。心不全パンデミックは今後も続くことが予想されており、引き続き急性心不全患者に対するさまざまな取り組みを継続し、さらなる予後改善を目指していきます。

田坂 浩嗣(不整脈治療)

当院における心房細動に対するカテーテルアブレーションの件数は年々増加しています。冷凍バルーンカテーテルの導入や高周波カテーテルの技術革新に加えて、高齢化に伴う心房細動患者さんの増加や心不全パンデミック時代の到来がその原因と考えられます。一方、ここ5年の間に徐脈性心房細動に対するリードレスペースメーカや出血高リスクの心房細動患者さんに対する経皮的左心耳閉鎖術の適応が新たに拡大しています。当院を受診される患者さんの背景はさまざまであり、個々の患者さんに薬物療法、カテーテルアブレーション、植込み型心臓電気デバイスのリスクとベネフィットを十分に説明した上で、患者さんの価値観を考慮した最善の治療法決定(shared decision making)を目指す必要があると考えています。伝統は継承しつつも時代に合ったシステムを構築し、アブレーションとデバイスの二刀流を掲げながら、今まで以上に地域の先生方との連携を密に行った上で、患者さんのための地域医療に貢献していきたいと思います。

川瀬 裕一(慢性心不全・心臓リハビリテーション)

社会の高齢化に伴い、心不全患者数は全国的に増加し、大きな問題となっています。当院の主な医療圏である岡山県南西部においてもその傾向は同様で、当院の心不全患者の入院数も増加の一途を辿ってきました。このような状況に対して、院内の診療体制の向上は当然のことながら、それだけでは今後の診療が立ち行かなくなる可能性が高いと考えられたため、倉敷地区全体の心不全診療体制の向上を目的に、「地域チーム医療」のコンセプトのもと、多施設・多職種連携の上に成り立つ地域全体での診療体制の構築を目指して様々な取り組みを行ってきました。心臓疾患の管理に際して有効性が高いとされる心臓リハビリについても、院内だけでなく地域全体で活性化できるよう取り組んでおります。