前立腺がんの放射線治療「からだをささない外照射」

前立腺がんの放射線治療「からだをささない外照射」
前立腺がんの放射線治療「からだをささない外照射」

放射線治療は、がん細胞のDNAを切断して死滅させることで効果を発揮します。正常細胞も影響を受けますが、がん細胞よりもDNA損傷の修復力が強いため、少量の放射線を繰り返し照射することで、正常組織を回復させながらがん細胞を攻撃します。リスク分類によりますが、限局性前立腺がんでは、放射線治療と手術で生存率に大きな差はないとされています。
このページでは、2025年8月25日に倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」で、当院放射線治療科医長の藤井康太先生が「前立腺がんの放射線治療『からだをささない外照射』」と題して講演した内容から、前立腺がんの概要から診断、放射線治療の特徴についてご紹介します。

前立腺がんの概要と診断

前立腺がんは特に中高年の男性に多くみられるがんで、男性のがん罹患数で第1位です。2021年には約9万5千人が新たに診断され、1980年代と比較して罹患数は40年間で約24倍に増加しています。PSA(前立腺特異抗原)検査の普及や高齢化、食生活の欧米化が主な要因と考えられています。

前立腺は男性生殖器の一つで、膀胱の出口に位置し、精液の一部を分泌する役割を担っています。早期の前立腺がんはほとんど症状がないことが多いですが、進行すると排尿困難や頻尿、血尿、さらに骨転移による痛みなどが出現する場合があります。

診断で最も重要なのが、血液検査によるPSA(前立腺特異抗原)検査です。前立腺でつくられるたんぱく質の一種が、がんや炎症によって血液中に漏れ出すことで上昇します。無症状でもPSA検査でがんの疑いが見つかることがあります。PSA値が正常上限値を超えた場合は泌尿器科を受診し、生検の必要性を判断します。生検によってがんが確定すれば、悪性度の指標となるGleason Scoreの評価が行われます。その後、画像検査で転移の有無を確認し、病期(ステージ)が判断されます。前立腺がんは他のがんに比べて長期生存が期待できるがんで、転移がない場合の10年相対生存率は約97.7%と報告されています

前立腺がんの治療選択肢と「からだをささない外照射」

転移がない場合の根治治療には、主に手術と放射線治療が用いられます。リスク分類にもよりますが、転移のない前立腺がんでは、手術と放射線治療の長期的な治療成績に大きな差はないとされています。副作用の内容が異なり、手術は尿漏れ、放射線治療は頻尿の傾向があります。がんの広がりによっては手術が推奨されない場合もあり、その際は放射線治療が重要な選択肢となります。

倉敷中央病院では、前立腺がんに対する根治的外照射として、ホルモン療法を半年間行った後、平日毎日1日1回、合計20回の照射を実施しています。通院で可能な治療で、体内に針などを刺さない治療法です

当院では、強度変調放射線治療(IMRT)のひとつである強度変調回転放射線治療(VMAT)を活用しています。VMATはガントリーの回転とマルチリーフコリメーターによる照射口変形を同時に行う高精度技術で、放射線強度をがんに合わせて緻密に調整することで、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えます。VMATでは、1回約15分という短時間で治療が完了します

治療前には固定具の作成とCTシミュレーション(3日間かけて行い、排便や蓄尿による体内の変動を確認)を行います。治療中はリニアックでCT撮影を行い、画像誘導放射線治療(IGRT)によって前立腺の位置を正確に確認し、位置照合してから照射を行います。放射線治療中に痛みを感じることはありません

放射線治療の副作用とフォローアップ

放射線治療の副作用には、照射期間中に現れる急性期有害事象と、照射後に現れる晩期有害事象があります。

急性期:頻尿、尿勢低下、切迫感、排尿時痛、肛門の違和感、排便時痛、排便時出血など。通常、治療後時間が経つにつれて改善します。
晩期:併用するホルモン療法の影響もありますが、性機能低下がみられます。人によっては頻尿、尿勢低下、切迫感が持続する場合があります。
稀な副作用:尿閉、尿漏れ、止血処置を要するような直腸・膀胱・尿道の出血、前立腺がん治療後に発見される膀胱がんなどが挙げられます。

治療後はPSA値を定期的に測定し、再発の有無をフォローアップします。PSAの上昇は生化学的再発と呼ばれ、画像検査よりも早期に再発を発見できます。高リスクの場合は2年間のホルモン療法を継続することがあります。再発した場合でも薬物療法を中心とした次の治療が可能です。

各ステージでの外照射の活用とその他の治療法

外照射は、転移のない局所がんだけでなく、骨盤内リンパ節転移がある場合の長期的ながん制御や、遠隔転移がある場合の症状緩和目的(骨転移による痛み、出血など)にも活用されます。特に、転移の個数が少ないオリゴ転移(少数個転移)には、高線量のピンポイント照射(定位照射)を行うことで、がんの制御期間を延ばせる可能性があります。また、前立腺全摘術後にPSAが高値になった場合、前立腺があった場所(前立腺床)への再発が疑われる際は、長期的ながんの制御を目指して前立腺床に照射することがあります。

外照射以外にも、体内に放射線源を挿入する小線源治療や、放射性薬剤を投与するRI内用療法、X線とは異なる特性を持つ粒子線治療などの選択肢があります。

外照射を受けた患者さんの体から放射線が出ることはありません。

以上の通り、前立腺がんの治療、特に放射線治療は多様な選択肢があり、それぞれの特徴や適応が異なります。患者さんの状態や希望に合わせて最適な治療法が選択されます。

「緩和医療における放射線治療」の講演内容も公開しています。下記バナーよりご覧ください。

藤井 康太
倉敷中央病院 放射線治療科 医長
専門領域
放射線治療(前立腺癌、消化器癌)
専門医等の資格
●日本医学放射線学会研修指導者
●日本医学放射線学会・日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医
●日本医学放射線学会放射線科専門医
●第1種放射線取扱主任者

(2025年9月29日公開)

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