近年、弁膜症に対する経皮的アプローチが可能なデヴァイスの開発が進み適応が拡大しつつある。その中でも、井上寛治先生の考案による井上バルーンを使用した僧帽弁狭窄症(MS)に対する治療である経皮経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)は、初めて臨床応用されてから20年以上の歴史を持ち、適応のある例においてはMSの第1選択の治療法としての地位を確立している。
リウマチ熱の減少に伴い僧帽弁狭窄症(MS) 自体が減少している昨今、PTMC の施行数も減少してきている(下グラフ参照)が、低侵襲で簡便に施行でき、外科的交連切開術と同様の有効性を持つこの手技の利点は大きいと考えられる。
経皮経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)の適応は、以下の5項目から考慮し適応を決定している。
僧帽弁口面積計測は、心エコーでは、僧帽弁最大開口時のBモード像で弁口トレースをする方法、連続派ドプラ法での圧半減時間pressure half-timeを用いて測定する方法、連続の式を用いて計測する方法、PISA法による計測等が可能であるが、簡単に計測できるトレース法(2D法)と圧半減時間(ドプラ法)で計測している。
術中にも左房左室平均圧較差をGorlinの式に代入し弁口面積推定しているが、心エコーでもとめた弁口面積とほぼ一致する。
僧帽弁逆流は、左室機能を加味した上で、カラードプラ法での逆流ジェット到達部位、逆流ジェット面積の左房内に占める割合で視覚的に判断し重症度を評価している(表2)。逆流弁口面積、逆流量を求める定量的評価も可能であるがPTMC前では多断面での視覚的評価で1: 逆流シグナルが左房後壁、あるいは肺静脈内に到達、2:左房内に占める逆流面積が大きい、場合を中等度以上と診断しPTMC不適切とした。
軽度(mild) | 中等度(moderate) | 高度(severe) | |
逆流ジェット到達度 | 左房を3等分して逆流口より1/3以内 | 1/3〜2/3 | >2/3で肺静脈内に到達することもある |
逆流ジェット最大面積(左房面積) | <20% | 20-40% | >40% |
PTMC試行前には、必ず経食道エコーを行い新鮮な左房内血栓がないことを確認している。左房内血栓を有する例では、弁置換を選択するか、あるいは抗凝固療法後、新鮮な血栓消失を確認の後PTMCを施行しているが、塞栓が生じた症例は経験していない(図2)。
左心耳から一部左房に頭を出す可動性を有する血栓を認めた(図左、拡大;中)。抗凝固療法3ヶ月後の経食道エコー(図右)では可動性を有する血栓は消失していた。経胸壁エコーでは血栓描出困難であった。
ASを合併するMSではより慎重に適応を決定するべきである。軽度のASを伴うMSでPTMC施行群で、PTMC未施行群に比し、大動脈弁最高流速の増加を認めた報告もあり、PTMCの適応を決める際には留意が必要である。中等度以上のASの合併があれば弁置換を考慮し、軽度のASを合併するMSでPTMCを施行した場合はより頻回に、ASの進行を心エコーで経過観察を行う事が必要と考える。
僧帽弁形態的観点から適応を検討する際には、弁の可動性、弁下部肥厚、弁肥厚、石灰化、を各々4段階評価してスコアー化したWilkins score が用いられる(表3)。8点以下がPTMCの良い適応とされているが、PTMCは低侵襲であるので、インフォームドコンセントが得られれば、手術前に一度試みてみるという場合もある。
点数 | 可動性 | 弁下部肥厚 | 弁肥厚 | 石灰化 |
1 | 弁先端のみ可動性制限あり | 弁下部にわずかな肥厚を認める | 弁の厚さは正常 | 一部分の輝度上昇 |
2 | 弁中央部と弁基部の可動性あり | 弁下部腱索の1/3が肥厚している | 弁腹は正常だが弁先端が肥厚 | 弁偏縁に限局したいくつかの石灰化 |
3 | 拡張期可動性は弁基部に認める | 弁下部腱索の2/3が肥厚している | 弁全体が肥厚している(5~8mm) | 弁腹の中央に及ぶ輝度上昇 |
4 | 拡張期の可動性をほとんど認めない | 乳頭筋に及ぶ腱索全体が肥厚し短縮している | 弁全体が肥厚している(>8~10mm) | 弁組織のほとんどに及ぶ高度の輝度上昇 |
上記4項目の合計点を算出し、8点以下であればPTMCの良い適応である。
監修 :福 康志(医師)