肥大型心筋症とは明らかな心肥大を来たす原因がないにも関わらず左室ないしは右室の心筋が不均一に肥大する病気です。その中で、心室中隔基部の肥大により左心室流出路が狭くなってしまう状態を閉塞性肥大型心筋症といいます (図1)。左室内閉塞により全身へ血流を送り出す機能が低下してしまいます。無症状の場合もありますが、多くは心臓に関連する症状を有しており、労作時の息切れ、胸痛、呼吸困難、動悸、眼前暗黒感、失神などが挙げられます。症状がある場合は治療が必要になります。まれに突然死の原因となるため慎重な経過観察が必要です。
まず薬物治療を行いますが、それでも症状が改善しない場合は非薬物治療である外科治療やペースメーカ治療、経皮的中隔心筋焼灼術 (PTSMA) を検討します。治療成績が確立しているのは外科治療であり、およそ90%の症例で再発がなく長期的にも良好な成績であると報告されています1)。 カテーテル治療であるPTSMAは1990年代より欧州で行われ、侵襲の少ない治療法として選択されるようになりました。長期的な治療効果はまだ確立しておりませんが、高齢など手術を受けられない状態の患者さまに対しては良い適応と考えられています。
症状があり、薬剤抵抗性かつ左室内圧較差を認める閉塞性肥大型心筋症に対し適応となります。治療は局所麻酔で行います。まず、内頚静脈に短いシースと呼ばれる管を挿入します。それを通して一時的ペースメーカを右室内に留置します。次に大腿動脈または橈骨動脈にシースという細い管を挿入します。このシースを通してカテーテルを冠動脈内および左室内まで挿入します。左室内のカテーテルにより左室内圧を測定します。左室流出路の肥大心筋を栄養している中隔枝にバルーンカテーテルを通して選択的に高濃度エタノールを注入し (図2)、局所的に心筋梗塞を起こすことで左室流出路狭窄を解除します (図3)。治療に伴い胸痛が生じることが予測されますので、鎮痛剤を用いて対処致します。治療時間は通常2時間ほどです。治療終了後、動脈からカテーテルとシースを抜き止血の処置をします。約6時間の臥床状態での安静が必要です。術後1-2日の間、集中治療室 (CCU) にて慎重に経過をみていきます。治療の主な副作用ですが心室性不整脈(心室頻拍、心室細動)や術後に永久ペースメーカ植え込みが必要になることがあります。合併症を起こした際の処置を含めて万全を期して施行致します。
治療前後の心臓MRI画像を比較すると,治療後に心室中隔の一部が高信号を呈し壁厚が薄くなっていることが確認できます(図4A、B)。
当院では1998年から2016年の間に40例のPTSMAを施行しています。ほとんどの症例で左室流出路狭窄の改善効果がみられていましたが、ごく一部の症例で効果がみられず他の治療法を選択しています。2007年からの30例のうち、再治療となった症例は2例 (6.7%) でした。合併症として術後ペースメーカ植え込みが必要となったのは3例 (10%) でした。術後入院期間の中で致死的不整脈の発症は認めませんでした。
【参考文献】