僧帽弁は心臓の左心室と左心房の間にある弁で、その弁が閉まりきらずに左心房に血液が逆流する病気が僧帽弁閉鎖不全症です。重症の僧帽弁閉鎖不全症は息切れや倦怠感、入院が必要な心不全をきたし、これまで外科的手術(弁置換術・弁形成術)が根本的な治療とされてきました。しかし、心臓の動きが悪かったり、また他の合併症が多いことにより、手術の危険性が高くなり、手術を断念する、もしくは積極的にお勧めできない患者さんが少なくありませんでした。今回、2018年4月から施行可能となったMitraClipシステムを用いた経カテーテル僧帽弁クリップ術は外科手術に比べ安全性が高く、手術の危険が高い患者さんでも治療可能です(図1)。
2003年にヨーロッパで始まり、欧米を中心に6万人以上の治療実績があります。日本でも2017年10月に認可がおり、2018年4月から治療開始となりました。日本では12施設で開始となっていますが、当院はその1つとして中国四国地方で初のMitraClipの治療施設です。
MitraClipは図2のように、僧帽弁の前尖と後尖をつなぎ合わせて僧帽弁の逆流を少なくするカテーテルでの治療です。
実際の治療においては心臓超音波装置を食道に挿入し、心臓超音波画像によるモニタリングでカテーテルの操作を行うため、全身麻酔下での治療となります。まず、足の付け根の静脈から右心房までガイドワイヤーを挿入します。そして右心房から左心房に穿刺を行い、僧帽弁までMitraClipのガイドカテーテルを挿入します。そしてクリップを先端に搭載したクリップデリバリーシステムをカテーテルの中から挿入し、超音波の画像をみながら僧帽弁の逆流がある部位へ向けて操作します(図3)。
心臓は止めずに治療を行いますので人工心肺は用いません。クリップが良い部位に操作できたら、クリップで僧帽弁の弁尖を捕捉し、クリップを閉じることで僧帽弁逆流を減少させます(図4)。
もし、逆流の減少が十分でない場合は、何度でもクリップの置き直しは可能です。また、逆流が十分に減少しているものの、更に逆流を減らしたい場合も追加のクリップを置くことができます。クリップを僧帽弁に留置したら、足の付け根の止血を行い治療が終了します。通常は術後2-3日で退院することができます。
MitraClipは外科的弁置換術・形成術の危険性が高い、もしくは不可能と判断された場合に適応になります。
具体的には、非常に高齢である、心臓手術の既往がある、心臓の動きが悪い、悪性腫瘍の合併がある、免疫不全の状態である、脆弱である、などが挙げられます。またこれらに加え、前述のようにクリップで僧帽弁を閉じるという性質上、僧帽弁の形態によりMitraClipの治療自体が困難な患者さんもいらっしゃいます。最終的には全身状態の評価とともに、心臓超音波画像等で僧帽弁の評価を行い、循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医などの多職種からなるハートチームで議論し、MitraClipの適応と治療方針について決定します。
MitraClipに関するご相談、ご質問につきましては、かかりつけの先生と相談の上、倉敷中央病院循環器内科までご連絡ください。