意外と知らない「飲み込み」の仕組みや嚥下障害のサインを解説(前編)

意外と知らない「飲み込み」の仕組みや嚥下障害のサインを解説(前編)
楽しく安全に食べるために ~やさしく学んで役に立つ嚥下のお話~(前編)

食べることは、栄養を摂るだけでなく人生の楽しみの一つです。しかし、加齢や病気によって飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、誤嚥や窒息、誤嚥性肺炎などにつながることがあります。
2026年9月15日に開催した倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」では、当院の嚥下サポートチームの土師知行先生が「楽しく・安全に食べるために ~やさしく学んで役に立つ嚥下のお話~」と題して講演しました。その講演内容から、前編では嚥下の仕組みや嚥下障害を見つけるポイントについて紹介します。

嚥下は0.5秒で行われる高度なチームワーク

私たちは毎日当たり前のように飲み込みを繰り返していますが、食べ物を認識し、噛み、口から食道へ送り込むまでには複数の段階があります。
特に口からのど、食道へ送り込む過程では約30種類の筋肉が連携し、わずか0.5秒ほどで複雑な動きを行っています。飲食物と空気の通り道が交差する咽頭では、食べ物を気管に入れないための精密な「交通整理」が行われています。

喉頭;声帯があり、声を出すところであると同時に息の通り道でもあります。水や食べ物が気管に入らないようにブロックする役割も担っています。

人はなぜ誤嚥しやすいのか

食べ物の通り道と空気の通り道は、のどの奥で交差しています。そのため、飲み込む際には舌や軟口蓋、喉頭が連携して気道を保護しなければなりません。
人間は進化の過程で言葉を獲得したことで、のどの構造が複雑になり、他の動物に比べて誤嚥のリスクが高くなったと考えられています。

「むせない誤嚥」に注意

食べ物や飲み物が気管に入ることを誤嚥といいます。誤嚥すると通常は咳やむせが起こりますが、高齢になると感覚が鈍くなり、誤嚥していてもむせない場合があります。これを「不顕性誤嚥」と言います。

むせていないからといって、安全に飲み込めているとは限りません。

誤嚥や喉頭侵入は外からは見えないこともあり、食後の咳や痰の増加、繰り返す肺炎などが重要なサインになります。

嚥下障害を疑うサイン

次のような症状がみられる場合は注意が必要です。

フレイルや低栄養も原因に

嚥下障害には主に3つの原因があります。

①嚥下障害を引き起こす病気

嚥下の司令塔や指令を伝える神経や筋肉にダメージがある脳卒中やパーキンソン病、嚥下を行う器官へのダメージとなる口の中や食道などの腫瘍や炎症などが挙げられます。

②意識レベルや認知機能の低下

飲み込みの機能自体に問題がなくても、飲み込みのタイミングのずれや嚥下反射が遅くなって誤嚥や窒息が起こる可能性があります。認知症では、口の中に食べ物を入れすぎたり、口にまだ残っているのに気づかなかったりすることがあります。意識レベルは、安全に食べられる食事の形や内容を決める大きな要因となります。

③フレイルやサルコペニアと栄養不良

近年は、加齢に伴うフレイルやサルコペニア、栄養不良との関係が注目されています。肺炎など体力を消耗する病気によって栄養不足になると筋肉量が減少(サルコペニア)し、飲み込む力も弱くなります。その結果、嚥下障害が進み、さらに食事量が減少して低栄養になるという悪循環に陥ることがあります。
悪循環を断ち切るためには、経管栄養や胃瘻などによる栄養管理と嚥下リハビリテーションを組み合わせて行うことが重要です。

オーラルフレイルに要注意

咀嚼や発音など、口の機能のささいな衰えが積み重なると「オーラルフレイル」となります。具体的には、

  • 固い食べ物が噛めない(咀嚼困難感)
  • むせる、食べこぼす(嚥下困難感)
  • お口が渇く、においが気になる(口腔乾燥感)
  • 歯が少ない(残存歯数の減少)
  • 滑舌が悪い(滑舌低下(舌口唇運動機能の低下))

このような変化を放置すると、低栄養や全身のフレイル、嚥下障害につながる可能性があります。早い段階で気づき、口の体操や適切な栄養管理を行うことが大切です。

自分でできるチェック方法

講演では「EAT-10」や「聖隷式嚥下質問紙」といった質問票も紹介されました。また、自宅で簡単に実施できる方法として「反復唾液嚥下テスト(RSST)」があります。30秒間でつばを何回飲み込めるか確認し、嚥下機能の低下に気づくきっかけにします。
RSSTは、最初にお水を少し飲んで口の中をきれいにしてから実施するのが良いです。30秒間でつばの飲み込みが2回以下の場合は嚥下障害の可能性があり、30秒間で5回以上呑み込めれば一つの目安として問題ないと考えられます。30秒間で3,4回の場合は軽い嚥下障害も考えられます。ただ、つばが出にくい場合や指示の理解が難しい方では、正しく評価できない場合があります。

後編では嚥下内視鏡検査や安全に食べ続けるための工夫や、今日からできる予防方法などを紹介します。

このページの内容は令和8年9月15日時点の情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状、治療法などは個人差がありますので、ご自身への適応については必ずお近くの医療機関、または、かかりつけ医にご相談ください。

土師 知行
倉敷中央病院 嚥下サポートチーム、元耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任部長
専門領域
喉頭気管食道学、音声言語医学
専門医等の資格
●日本嚥下医学会嚥下相談医
●日本耳鼻咽喉科学会専門医
●日本気管食道科学会専門医、参与
●日本音声言語医学会参与

(2026年10月6日公開)

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