食べることは、栄養を摂るだけでなく人生の楽しみの一つです。しかし、加齢や病気によって飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、誤嚥や窒息、誤嚥性肺炎などにつながることがあります。
2026年9月15日に開催した倉敷中央病院の市民公開講座「倉中医療のつどい」では、当院の嚥下サポートチームの土師知行先生が「楽しく・安全に食べるために ~やさしく学んで役に立つ嚥下のお話~」と題して講演しました。前編では、嚥下の仕組みや嚥下障害のサインについて紹介しました。後編では、安全に食べ続けるための工夫や、今日からできる予防方法について紹介します。
嚥下内視鏡検査(VE)とは
嚥下障害が疑われる場合、のどの状態を直接観察する「嚥下内視鏡検査(VE)」が行われます。
細い内視鏡を鼻から挿入し、
- 誤嚥の有無
- 神経のマヒや炎症、腫瘍の有無
- 食べ物の残り方
- 飲み込みのタイミング
などを確認します。むせがなくても誤嚥している場合があるため、その有無も確認できる重要な検査です。
内視鏡検査でのどの様子が見えると、必要な対策や食事の工夫が分かります
・嚥下障害がどの程度か?
・誤嚥の危険があるかどうか?
・自分自身に合った食事形態や食べ方
・飲み込みに適した姿勢
・食べる楽しみを守るためのヒント
窒息しやすい食べ物に注意
窒息を起こしやすい食べ物には特徴があります。
くっつく(Sticky)
餅、団子、パン など
つるっと入る(Slippery)
こんにゃくゼリー、ミニトマト、ぶどう など
小さくて硬い(Small & Hard)
ナッツ、あめ など
噛み切りにくい(Tough)
肉類 など
窒息は命に関わるため、飲み込みに不安がある場合は特に注意が必要です。
嚥下調整食の活用
嚥下障害があっても、食べやすい形に調整することで安全に食事を続けやすくなる場合があります。
例えば、
- きざみ食(噛む力が落ちているが、飲み込みは比較的良い)
- 一口大(一口で食べやすい大きさ。噛む力はあるが飲み込みが弱い)
- 裏ごし(舌でつぶせる離乳食のようなもの)
- とろみ、あんかけ(のどに流れ込む速さをゆっくりに、食べ物をまとめて滑らかに)
などがあります。状態に応じて適切な食形態を選ぶことが大切です。
食べ方は
- 一口量(一回の嚥下で飲み込める量を調節し、かき込まない)
- 複数回嚥下(繰り返して飲み込んで、のどの残りをなくす)
- 交互嚥下(ゼリーやとろみ水などと交互に飲んで、のどに残ったものを送り込む)
- 自発的な咳(のどの奥に残った食材や水分を排出する)
に注意しましょう。
誤嚥や喉頭侵入は外からは見えないこともあり、食後の咳や痰の増加、繰り返す肺炎などが重要なサインになります。
とろみは「食事制限」ではありません

飲み物や食べ物にとろみを付けることで、のどを流れる速度をゆるやかにし、飲み込みやすくすることができます。
また、
- むせ込みの減少
- 食事の選択肢の拡大
- 疲労軽減
などにつながることがあります。一方で、とろみが濃すぎると飲みにくくなることもあり、個人に合わせた調整が必要です。
とろみは食事制限ではなく、安全に食べ続けるための調整です。
安全に食べるための姿勢
講演後半では、リハビリテーション部の井川裕通副部長(言語聴覚士)が安全な食事姿勢について紹介しました。
・骨盤を立てて深く座る
・顎を軽く引く
・足底をしっかり床につける
・テレビや会話に気を取られない
ことです。飲み込む瞬間に集中できる環境づくりも重要になります。
今日から始める嚥下体操
パタカラ体操
「パ・タ・カ・ラ」を繰り返し発音することで、
• 唇
• 舌の前方
• 舌の後方
• 舌全体
の運動につながります。

開口訓練
口を大きく開けて10秒程度保つことを何度か繰り返すことで、飲み込みに関係する筋肉のトレーニングになります。
舌の運動
舌を前後左右に動かしたり、舌で口の周囲をなぞったり頬を内側から押したりすることで、口腔機能・嚥下機能の維持・改善につながります。

このページの内容は令和8年9月15日時点の情報に基づき、情報提供のみを目的として制作されています。原因や症状、治療法などは個人差がありますので、ご自身への適応については必ずお近くの医療機関、または、かかりつけ医にご相談ください。
土師 知行倉敷中央病院 嚥下サポートチーム、元耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任部長
専門領域
喉頭気管食道学、音声言語医学
専門医等の資格
●日本嚥下医学会嚥下相談医
●日本耳鼻咽喉科学会専門医
●日本気管食道科学会専門医、参与
●日本音声言語医学会参与
(2026年10月6日公開)