直腸がんの外科手術
直腸がんの外科手術

大腸がんは大きく二つの部位に分けられ、結腸がんと直腸がんに分類されています。直腸がんは肛門の近くにできるため、
・排便の際に出血
・便に血が混じる
・便秘や下痢
など、排便に変化が初発症状として現れることがあります。早期は自覚症状がないことも多く、検診で発見されることも少なくありません。当院ではロボットを使った手術もしている直腸がんについて、外科の横田満先生にお聞きします。

1.直腸がんの検査と診断

2.治療方法

3.ロボット手術

検査と診断

直腸がんを疑うときに最初に行う検査が大腸内視鏡検査です。大腸内視鏡検査は、下剤を内服して大腸のなかをきれいにした後で、肛門からカメラを挿入して全ての大腸粘膜を観察します。病気を直接見ることができ、病気が見えれば、そこから組織を採取して確定診断できます。
検査の結果、直腸がんの診断がつくと、治療の方法を相談するために、全身の検査と必要に応じて局所の詳細な検査を行います。
全身の検査は、主にCT検査で肝臓や肺など遠隔臓器への転移がないか調べます。CT撮影時に肛門から炭酸ガスを注入することでCTコロノグラフィーを撮影し、病気の正確な場所を特定します。局所の詳細な検査ではMRIで周囲の臓器へがんが転移していないかを調べます。

がんの進行度

大腸の壁は、5つの層に分かれています。

がんの進行の程度はステージで分類され、がんが壁のどの深さまで広がっているかを示す深達度や、リンパ節への転移・遠隔臓器への転移の有無によって決まります。

リンパ節への転移とはどういう状態ですか?
「リンパ節に転移している」と聞くと、すでに全身に転移してしまっていると思われる方もいらっしゃるかもしれません。
リンパ節は、体内に侵入、もしくは発生した細菌やがん細胞が、血液を通じて全身に転移する前に食い止める、「関所」のような働きをします。がん細胞はリンパ管を通じて大腸から遠くに転移しようとしますが、リンパ節から移動できなくなり、リンパ節内で増殖します。これをリンパ節転移といいます。直腸がんの手術では、がんのある腸管を切除すると同時にリンパ節も切除します。

やはり早期発見が大切ですね
直腸がんの症状としてみられる排便時の出血は、痔の症状とよく似ています。そのため「痔による出血だろう」と思い病院を受診せずに様子をみられる方もおられます。しかし、その症状が直腸がんの症状であることもありますので自己判断せずに病院を受診し診察を受けてください。
症状のない場合でも便潜血検査による検診を受けておくと安心です。病気を早く発見できればその分早期のがんの可能性が高まります。早期のがんは進行したものに比べて、自分の肛門を温存できる可能性が高くなるだけでなく、完治の確率が高くなります。

直腸がんの予防法はありますか?
直腸がんに限らず大腸がんの原因として食生活の欧米化があげられます。肉類、卵、乳製品などの摂取が増える一方、食物繊維の摂取が減っていることです。よって、食物繊維を積極的に摂ることは大腸がんにかかる危険度を下げる効果があるといわれています。また、アルコール飲料の飲み過ぎも大腸がんの原因の一つと考えられていますのでアルコールは控え目にすることもよいです。

治療方法

内視鏡治療、手術、薬物療法、放射線治療などがあります。治療法は、がんの進み具合や全身状態、年齢、合併するほかの病気など、患者さん個々の状態を考慮して決定します。
0期〜III期では、主にがんを切除できるかどうかを判断し、切除できる場合には内視鏡治療か手術を行います。切除できない場合には、薬物療法が中心となります。IV期の場合は、治療方法を総合的に判断します。

外科手術は内視鏡治療でがんの切除が難しい場合に行います。
直腸がんの手術はがんを含む腸管を切除して、同時に転移の可能性があるリンパ節も切除します。切除後は残った腸管をつなぎ合わせて再び肛門から便が出るようにします。
手術にはお腹を大きく開ける開腹手術のほか、お腹を炭酸ガスで膨らませ、挿入したカメラからテレビモニターに映し出された画像を見ながら操作する腹腔鏡手術とロボット手術の3つの方法が、現在保険適応となっています。

腹腔鏡手術

直腸がんは大腸がんの中でも、手術の難易度が高い部位となります。
開腹手術では、骨盤の奥深くが見えづらいうえ、手が届きづらいことから手術操作に難渋することもありました。そのような問題を解決したのが腹腔鏡手術です。
腹腔鏡手術では、骨盤の奥深くを明るく拡大して見ることができます。鮮明な画像で小さな血管も認識でき、出血量は開腹手術に比べ約1/10 まで少なくなりました。また、温存すべき神経の走行もはっきり確認でき、術後の機能温存につながっています。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べてお腹のきずが小さいため、手術後の痛みが少なく回復が早いというメリットがありますが、開腹手術に比べて手術時間が長くなる傾向があります。

ロボット手術

「da Vinci(ダヴィンチ)」と呼ばれる手術支援ロボットをお聞きしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ダヴィンチはロボットが自動で手術をするわけではありません。ダヴィンチ操作のトレーニングを積んで、専門の資格を持つ外科医師のみが操作できるロボットです。
コンソールと呼ばれる操縦台に手術を執刀する医師が座り、手元のコントローラーを動かすと、同様に4本の手術アームが動きます。
腹腔鏡手術と同様に、数か所の小さな穴をあけ、そこから内視鏡と手術器具を挿入して行います。医師はコンソールに腰掛けてモニターを見ながら、コントローラーを操作して手術をします。

腹腔鏡手術との違い

腹腔鏡手術との違いは、ロボット支援手術では体内で手術操作を行う鉗子が人の手のように自由に動き、術者の手ぶれも伝わらないように設計されています。さらに、モーションスケーリングという機能で、手術をする医師が動かした距離の 1/3しか、体内の鉗子は動かないようになっています。
腹腔鏡手術では術者が動かした鉗子が骨盤深部ではより大きく動いてしまうのに対し、ロボット支援手術では術者が意図した距離を正確に動かし易いと言えます。
また、腹腔鏡手術で用いる鉗子が直線的な動作しかできないため骨盤内で手の届かない部位が生じますが、ロボットの鉗子は自由に角度を変えることができるため手の届かない場所がなくなります。とくに肛門近くに発生した直腸癌の場合、肛門の周辺を丁寧に操作することで、術後の肛門機能の向上につながることが期待されます。また、従来よりも腹腔内から直腸を切除できる割合が高くなると考えられます 。

手術時間はどれくらいですか?
平均で約5時間です。麻酔時間を含めると、7時間前後で手術室から戻ります。

手術の場合の入院期間は?
患者さんは入院翌日に手術を行います。手術の結果にもよりますが、手術から3~4日で食事が開始となり、経過に問題がなければ術後1週間から10日が退院の目安となります。

手術後は人工肛門になるのでしょうか?
直腸癌が肛門の近くにできた場合は、通常の手術方法(低位前方切除術:①)では切除できず、永久人工肛門を造設する手術方法(直腸切断術:②)を提示されることがあります。
しかし、肛門近くにできたがんでも、肛門の括約筋の一部を残し、がんを取り除く手術方法(括約筋間直腸切除術[ISR]:③)で、自分の肛門を温存することができます。
術前にがんの進み具合をしっかり調べ、この手術を受けられるかどうかの判断が必要ですが、永久人工肛門を回避できることもあります。
ただし、直腸を切除したことによる術後の排便への影響は無視できません。影響の出方に個人差はありますが、術後のほぼ全員の方になんらかの影響があり、その中でも排便回数の増加が主な症状となります。そのような症状は術後の時間経過とともに緩やかになりますが、元通りとまではなりません。

術後の外来通院期間はどれくらいですか?
大腸がんの手術後の再発は術後3年以内に約85%以上、術後5年以内に95%以上が出現することから、手術後5年間を目安とし、再発転移がないか検査を行い経過をみることが必要です。術後3年以内の再発が多いことから3年以内は検査の間隔を短くし、その後は間隔を長めに設定します。また、当院では地域連携パスを用いて術後の経過観察を患者さんのかかりつけの先生と一緒に行っています。

術後の化学療法はどのような人が対象ですか?
術後の化学療法は、補助化学療法とよばれ、完全に病気を切除された後、再発を予防し予後を改善するために行います。術後の病理組織検査でリンパ節転移陽性(ステージIIIに相当)と診断された人が対象となります。術後補助化学療法を受けていただくことで再発・死亡のリスクを約10~20%減少させることが分かっています。しかし、化学療法ではさまざまな副作用が出ることがあり、時に重篤な状態となることがあります。よって、術後しっかり回復されていること、心臓・肺・腎臓・肝臓などの機能が保たれていることが安全に治療を受けていただくために必要です。

横田 満
外科 部長
専門領域:大腸癌、腹腔鏡下手術、ロボット手術
専門医等:日本外科学会専門医・指導医
     日本消化器外科学会専門医・指導医
     日本がん治療認定医機構認定医
     日本内視鏡外科学会技術認定医・評議員
     日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
     日本大腸肛門病学会専門医・指導医
     da Vinci Certificate
     日本内視鏡外科学会ロボット支援手術プロクター(消化器・一般外科)
     The American Society of Colon and Rectal Surgeons International fellow

(2022年1月●日公開)

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