2020年春先にアメリカで感染拡大が起こり、野戦病院のようなERが映し出されたテレビニュースに衝撃を受けました。救急ウォークインにも新型コロナに罹ったのではと不安を感じて検査を求める方も増え始めましたが、新型コロナウイルス感染症の有病率や症状もつかめないまま。軽症であれば検査は行わず自宅待機が基本的な考えで、説明して自宅でようすを見ていただくほかありませんでした。「この方は感染しているのだろうか」。自身の診断に確信が持ちにくく、中腰で耐えるような感覚でした。
昨年11月ごろから呼吸不全や肺炎で救急搬送される方が増え、救急処置室の個室でも人工呼吸管理と挿管が行われるようになりました。スタッフが感染防護服を着て処置に入るとそちらにかかりきりとなり、救急診療に影響がおよびました。12月に入ると重症外傷や重症の内科疾患など「救急の最後の砦」として当院で受けるべき患者さんを、集中治療室の空きがなくてお断りする事態も起きました。私自身もホットラインを受電し、お断りしたことも数回。如何ともしがたい、患者さんのことを思うと辛く、やるせない想いでした。その後は地域の医療機関同士での役割分担も進み、第4波では集中治療室に救急経由の重症患者を受け入れる体制が整えられ、ホッとしました。
当院では対策本部、感染症科や呼吸器内科の医師、救急科の池上主任部長からとるべき対策が示され、状況に応じて体制が整えられました。救急科内ではMicrosoft Teamsで得た情報を投稿し合って知識を増やしていきました。保育園にも、これまでと変わらず子どもを預けることができました。未知の感染症と向き合うなか、これは大変大きなサポートでした。
救急ではお互い、課題に対して自由に言い合える風土があります。医療安全で「心理的安全性の高い職場」という言葉がありますが、まさにこれにつきます。組織の力に支えられ、コロナ禍以前と同じように診療にあたれたことを感謝しています。
(取材:2021年6月17日)