血液内科

主な対象疾患

造血器腫瘍

主な疾患の概念と治療についてご説明します。

1. 急性白血病

年間約40名程度の新規症例があります。急性白血病の治療戦略の根幹は、いかに初回治療開始後早期に、十分な寛解に導入できるかにかかっています。このため、強力な化学療法が必要となりますが、当院では化学療法による白血球減少に起因する易感染性に備えて、現在42床の準無菌室と、3床の完全無菌室を用意して、治療の安全性を確保しています。急性骨髄性白血病(AML)では、アントラサイクリンとシタラビンを中心とした、強力な寛解導入療法と地固め療法を行いますが、再発難治のFLT3変異陽性例には、内服のFLT3阻害薬が使用可能です。同じく内服のBCL2阻害薬も使用可能となりました。高齢者、身体条件の悪いAMLには、シタラビン少量療法やアザシチジン療法など、全身状態に合わせた治療を行っており、難治症例に対しては、QOLに主眼をおいた外来診療も行っています。

AMLの化学療法後の長期生存は、高齢者を除いても平均して40%を下回っています。現在では、病型、染色体・遺伝子異常、初診時の検査成績、治療反応性等より、ある程度の予後を推測することが可能になっており、常に、どの段階で同種造血幹細胞移植を考慮すべきかを念頭におきつつ治療しています。

成人の急性リンパ性白血病(ALL)については、従来かなり悪かった治療成績は改善しつつあり、特に若年者では、治療成績の良い小児に準じて治療強度を高めて予後を改善する試みが検討され、治療成績を向上させています。また、寛解導入後の測定可能残存病変(MRD)の有無で治療の予後が予測しうることも明らかになっており、治療効果を参考にしつつ、同種造血幹細胞移植を考慮する必要性と時期を検討しながら治療を行っています。最も予後が悪いとされる、フィラデルフィア染色体陽性のALL(いわゆるPhALL)についても、慢性骨髄性白血病の項で触れる、チロシンリン酸化酵素阻害薬と呼ばれる分子標的薬の併用によって、治療成績は非常に改善しています。また、再発難治例には、抗CD22抗体や抗CD19抗体を組み込んだ抗体薬が使用可能となっており、できる限り良い状態で同種造血幹細胞移植ができるよう努めています。

初発時の治療は、了解がいただける場合には、JALSG(Japan adult leukemia study group)等の多施設共同研究に参加し、他施設と情報を共有することで、当院の診療内容を高めるとともに、日本や世界のこの領域の治療の向上に貢献したいと考えています。

2. 骨髄異形成症候群(MDS)

多能性造血幹細胞レベルでの異常によると考えられているMDSは、白血病化する例と、血球減少が進行する例があり、病態によりさまざまの予後を呈しますが、検査所見より予後の層別化がかなりできるようになっています。年間30名程度の新規入院症例があります。現在のところ根本的な治療は、同種造血幹細胞移植しかないため、移植可能年齢で、予後不良の場合には、積極的に移植を進めています。比較的高齢者に多く、移植関連死も多いとされてきましたが、後で述べます骨髄非破壊的移植の応用で適応範囲は広がっています。一部の症例では、免疫抑制療法により血球減少が改善されます。積極的な治療を要するMDSに対しては、メチル化阻害薬のAzacytidine-ビダーザが標準的治療とされており、適切と思われる症例に積極的に使用しています。白血病化した場合には、急性骨髄性白血病としての治療を、造血不全が主体の場合には、造血刺激因子投与や輸血療法を行いつつ、長期予後やQOLを考えた治療を行っています。また、5q-症候群と呼ばれる一部の例では、Lenalidomide-レブラミドが著効を発揮します。

3. 骨髄増殖性腫瘍

1. 慢性骨髄性白血病(CML)

CMLは、遺伝子レベルでも異常の解析が進んでいます。Ph染色体の出現による多能性造血幹細胞レベルでの異常に基づく疾患であり、放置すれば長期的にはほぼ100%急性白血病化します。CMLの治療は、遺伝子異常を標的に創薬された、チロシンリン酸化酵素阻害薬(TKI)である内服薬Imatinib-グリベックの出現で、治療戦略が劇的な変化を遂げました。Imatinibは、早期に多数の症例で染色体レベルでの寛解をもたらし、そのかなりの部分が分子遺伝学的寛解まで到達できることが判明、多くの患者さんがこの状態を長期間維持出来ています。このため、同種移植を考慮する場合は、非常に少なくなっています。その後Imatinibに次ぐ第2世代、第3世代のTKIが発売され、最近別の機序のTKIも使用可能となり、外来ベースでコントロール可能な疾患となっています。また、非常に深い分子遺伝学的寛解を長期間維持できた場合には、薬剤を中止する試みもなされており、適切な条件の場合は、約半数の方で長期の中止が可能との成績も蓄積されつつあり、当院でも、適格性を十分調査したうえで、そのような試みをご相談する場合があります。当院では年間10〜15名の新規症例があります。

2. 骨髄増殖性腫瘍(MPN)(CML以外)

CML以外の骨髄増殖性腫瘍も、骨髄系の多能性幹細胞レベルでの腫瘍性変化によって生じると考えられています。約半数にJAK2と呼ばれる遺伝子の変異が認められます。特に真性多血症(PV)や本態性血小板血症(ET)は、赤血球や血小板を主体にすべての血球系の増加が認められますが、CMLのように白血病化することはあまりありません。出血傾向が生じることと、血栓傾向が生じることがあり、フォンウィルブランド因子が保たれ、血小板数高値の場合は抗血小板剤を併用します。9割以上がJAK2の変異を持つPVに対しては、まず瀉血を行います。それでも血球数の調節が必要な場合には、抗腫瘍剤として、2次発ガンの可能性の少ないHydroxycarbamide-ハイドレアやJAK2阻害薬のRuxolitinib-ジャカビで血球数を調節することになります。ETに対しては、ハイドレアに加えて抗腫瘍剤ではないAnagrelide-アグリリンも使用可能です。一方、骨髄の繊維化が主体となる、原発性骨髄繊維症は、脾腫を合併し、長期予後もET、PVに比して不良のため、一部の例では造血幹細胞移植が考慮されます。また、血球の是正、脾腫、多彩な臨床症状の緩和にRuxolitinibが使用可能です。年間10〜20名程度の新規症例があります。

4. 悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、腫瘍化したリンパ球がリンパ節や諸臓器のリンパ装置を中心に増殖する疾患で、造血器腫瘍の中でも化学療法が有効な疾患であると同時に、局所での進展を見せるため、放射線療法の併用が有効な場合もあり、治癒可能な造血器腫瘍の代表格です。年間130名程度の新規症例があります。

治療としては、初回寛解導入はCHOP療法を行うことが多く、B細胞性リンパ腫で、Bリンパ球の表面抗原であるCD20陽性の場合には、抗CD20抗体Rituximab-リツキサンを併用しています。B細胞性低悪性度リンパ腫では、Rituximabや別の抗CD20抗体であるobinutuzumab-ガザイバとBendamustine-トレアキシンがしばしば用いられます。局所療法が必要な場合、放射線治療科と検討して放射線療法を併用しています。大部分の症例では、途中からは外来での化学療法となります。

胃のマルトリンパ腫の場合は、ヘリコバクターピロリ菌との関連が指摘されており、しばしばピロリ菌の除菌療法で経過を見た上で、その後の治療方針を決定します。

一部の重症例や化学療法に反応する再発例には、自家末梢血幹細胞移植を併用しています。再発例の予後は不良であり、当院では化学療法に反応する初回再発例を除いて、経過に応じて、同種造血幹細胞移植までを視野に入れた治療を行っています。完全に治癒しないことの多いことが問題となっているいわゆる低悪性度リンパ腫に対しても、病期にあわせて、放射線化学療法、抗体療法、自家末梢血幹細胞移植、同種造血幹細胞移植を組み合わせて、治癒を目指した治療を行っています。抗CD20抗体に放射性同位元素をつけた Ibritumomab tiuxetan -ゼヴァリンについても、低悪性度リンパ腫の再発例、難治例に積極的に使用しています。最近、頻度の最も多いタイプである、びまん性大細胞型リンパ腫の再発難治例に、Polatuzumab vedotin-ポライビーが使用可能となるとともに、難治例に対して、当院の特色でも触れました、患者さんご自身のTリンパ球にBリンパ球に対する抗体を遺伝子導入して発現させ、免疫の力で治療するCAR-T細胞療法も行っており、さらに、難治例での治療の幅が広がっています。

一方で、再発を繰り返しておられる方には、外来で抗腫瘍剤を使いながら、できるだけQOLを保った治療を行うこともしばしばあります。

5. 多発性骨髄腫

加齢とともに発生率の増えるこの疾患は、形質細胞と呼ばれる免疫グロブリンを産生する細胞の腫瘍です。高齢者に多く経過が長い反面、治療によって完治することは少なく、病的骨折や、腎機能障害をはじめとする臓器障害をきたしやすいため、従来治療が困難な疾患でした。比較的若年で自家移植可能な状態であれば、治療の途中で、予後を改善することが証明されている自家末梢血幹細胞移植が行われます。近年、分子標的薬である Bortezomib-ベルケイドやLenalidomide-レブラミドとそれらの誘導体、さらに、抗SLAMF7抗体であるElotuzumab-エムプリシティ、抗CD38抗体であるDaratumumab-ダラザレックス、Isatuximab-サークリサといった新規薬剤が使用可能となり、腫瘍量を大きく減少させることが可能になったため、治療戦略が一新されつつあります。自家造血幹細胞移植は予後を改善しますが、完治は望めないため、一部の症例では、後述します免疫学的効果による根治を期待して、同種造血幹細胞移植も行っています。またリンパ腫の項で紹介したCAR-T細胞療法が、多発性骨髄腫に対しても保険収載されています。

非腫瘍性疾患

1. 再生不良性貧血

この疾患は、汎血球減少を呈しますが、今日では一種の免疫異常がその病因として想定されており、中等症以上では、蛋白同化ホルモンに加えて、免疫抑制療法(抗リンパ球グロブリン/抗胸腺グロブリン-ALG/ATGやシクロスポリン)や造血刺激因子が用いられ4割から6割の症例に有効です。近年、トロンボポエチン受容体作動薬が有効であることが示され、当院でもしばしば併用しています。重症例では、薬物治療が無効な場合には、同種造血幹細胞移植を早急に行う必要があります。重症例の一部に、やがて白血病/MDSに変化していく例があり、注意を要します。国の指定難病になっています。年間10名〜15名の新規症例があります。

2. 特発性血小板減少性紫斑病

血小板に対する抗体を生じ、自己の血小板が、脾臓を中心とする網内系で処理されることによって血小板減少を生じる疾患で、原因不明の紫斑で受診されたり、無症状で健診で発見されることもしばしばある病気です。血小板数により経過観察をする場合も多いのですが、治療を要する場合には、最近、胃におけるヘリコバクターピロリ菌の感染が発病に関連していることが判明しており、ピロリ菌陽性者では早期に除菌療法を行っています。約6割の例で効果があります。急性期やピロリ菌除去が無効な場合には副腎皮質ホルモンが用いられます。長期的には副腎皮質ホルモンが有効でない例が多く、副作用も多いため、難治性の場合には、3分の2の症例に有効であるという脾摘もご相談しています。当院の外科では、可能な症例には、腹腔鏡下の脾摘術も行われています。最近、血小板の元になる巨核球の造血刺激因子であるトロンボポエチンの受容体作動薬である、Eltrombopag-レボレードとRomiplostim-ロミプレートが使用可能となり、約半数に有効です。年間15名〜20名の新規患者があります。国の指定難病になっています。 妊娠を契機に発症されたり、妊娠で増悪されることがありますが、そのような方についても、産婦人科と協力して妊娠中の管理を受け持ち、できる限り安全に出産ができるよう支援しています。

3. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)溶血性尿毒症症候群(HUS)補体関連溶血性尿毒症症候群(aHUS)

病原性大腸菌O-157で有名になったHUSやTTPは、合わせてTMA(血栓性微小血管症)とも呼ばれ、さまざまな原因により、血小板減少、溶血、意識障害、腎不全等を発症します。フォンヴィレブランド因子の切断酵素であるADAMTS13の発見によって疾患の概念が整理され、TTPではADAMTS13が抗体産生のため著減して発症します。HUSでは、ご存じのようO-157を中心とする大腸菌感染で分泌される、志賀毒素によって生じ、ADAMTS13は著減せず、TTPとHUSは別の病態と考えられています。TTPでは、免疫抑制療法併用下の血漿交換療法が、HUSでは厳重な全身管理が早期の標準的治療となります。当院では、ADAMTS13活性値、ADAMTS13抗体価を参考に早期の診断を行い、TTPの場合には、血液治療センターですみやかに、血漿交換療法、免疫抑制療法等を行っています。最近免疫に関係する補体を制御する様々な因子の異常による補体関連のHUS(aHUS)が存在することがわかりました。TTPとaHUSは、国の指定難病になっています。

造血細胞移植

上記のようなさまざまの疾患で、治癒を目指した治療法として造血細胞移植があります。
日本骨髄バンクの認定施設として、他院からの紹介患者さんも含め、非血縁者間同種造血幹細胞移植にも積極的に取り組んでいます。骨髄バンクドナーの方の骨髄採取や末梢血幹細胞採取も積極的に担当しています。臍帯血移植についても、日本さい帯血バンク登録医療機関として、次第に移植件数が増加しています。2021年末までに、607例の同種造血幹細胞移植を行っています。2021年末までの同種移植の内訳は、血縁者間骨髄移植129例、血縁者間末梢血幹細胞移植78例、非血縁者間骨髄移植213例、非血縁者間末梢血幹細胞移植16例、非血縁者間臍帯血移植171例です。

自家末梢血幹細胞移植では、通常では造血障害が生じるため使用できないような超大量の薬剤を、臓器障害が生じる限界まで使用した後に、あらかじめ採取、凍結保存した自分の造血幹細胞を移植することにより、腫瘍性疾患の治癒を目指します。2021年末までに227例の経験があります。移植自体の危険率は約5%とされています。同種造血幹細胞移植では、上記の目的のほかに、GVHD(移植片対宿主病)と呼ばれる、ドナーのリンパ球が、患者さんの組織を攻撃しつつ、腫瘍細胞をも攻撃する反応を利用したGVT効果(移植片対腫瘍効果)を期待しています。最近では、この効果が同種移植の主な効果として認識され、従来の超大量放射線化学療法による移植に加えて、いわゆるミニ移植(骨髄非破壊的移植)等のさまざまな治療法が開発されつつあります。ミニ移植は、まさに移植の最大の合併症であるGVHDから治療効果を得ようとする治療ですので、決して安全な治療ではありませんが、高齢者や臓器障害を持たれた、従来移植不可とされていた方にも実施可能ですので、当院でも実施件数が次第に増加しています。50歳以下の成人での、再発を除いた同種移植自体の危険率は、血縁者間では10%〜15%、非血縁者間では、30%程度と考えています。ただし、急性白血病を例にとりますと、非血縁者間移植ではGVT効果のため移植後再発が少なくなるので、移植患者さん全体の生命予後は、血縁者間、非血縁者間で、ほぼ同等と考えられます。

当科では、専任の2名の日本造血・免疫細胞療法学会認定移植コーディネーター(HCTC)を置き、倫理性の確保された移植が、迅速かつ安心して受けられるよう努めています。

主任部長 上田 恭典が監修したHCTCの冊子(造血細胞移植クリニカルコーディネート入門)は、こちらより閲覧可能です。
我々の施設では、今日までの経験に基づいて移植管理の簡易化を進めるとともに、病棟全体を無菌化し、移植前後のQOLの改善とケアの充実を図っています。

Haemapheresisについては、 血液治療センターをご参照ください。

診療実績

順位 病名 件数
1 リンパ増殖性疾患(急性白血病を除く) 290
悪性リンパ腫 212
① 非ホジキンリンパ腫 199
② ホジキンリンパ腫 13
多発性骨髄腫 62
キャッスルマン病 5
成人T細胞白血病 5
ワルデンストレームマクログロブリン血症 3
慢性リンパ球性白血病 3
2 急性白血病 91
急性骨髄性白血病 71
急性リンパ性白血病 19
混合(リンパ性、骨髄性)白血病 1
3 骨髄異形成症候群 66
4 貧血 39
再生不良性貧血 17
後天性溶血性貧血 5
鉄欠乏性貧血 5
汎血球減少症 3
赤芽球ろう<癆> 2
巨赤芽球性貧血 1
悪性貧血 1
ビタミンB12欠乏性貧血 1
葉酸欠乏性貧血 1
その他 3
5 血小板減少症 17
特発性血小板減少性紫斑病 15
その他 2
6 骨髄増殖性腫瘍 9
慢性骨髄性白血病 5
骨髄線維症 1
本態性(出血性)血小板血症 1
真正赤血球増加症<多血症> 1
慢性骨髄増殖性疾患 1
7 顆粒球減少症 7
8 移植片対宿主病[GVHD] 6
9 血球貪食症候群 2
10 後天性凝固因子欠乏症 1
造血幹細胞
移植ドナー
非血縁者間骨髄移植ドナー 3
血縁者間骨髄移植ドナー 1
非血縁者間末梢血幹細胞移植ドナー 2
血縁間末梢血幹細胞移植ドナー 5