内分泌代謝・リウマチ内科

リウマチ・膠原病グループ

内分泌代謝・リウマチ内科
村部 浩之 主任部長

リウマチ・膠原病グループが専門とする領域は、

  1. 関節リウマチおよびリウマチ性疾患(強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、結晶誘発性関節炎、リウマチ性多発筋痛症など)
  2. 膠原病および膠原病類縁疾患:全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、血管炎症候群、混合性結合組織病、ベーチェット病、シェーグレン症候群など)

が主たるものです。さらに、一般的な感染症が除外された「不明熱」の形で、精査する症例が多いことも特徴です。

これらの疾患は病気の原因がまだ十分に解明されておらず難病のイメージがつきまといますが、近年の医学研究の進歩により、病態が少しずつ明らかになってきています。それにより病気の早期診断や、より有効で安全な治療が可能となってきています。また、治療による副作用の予防・合併症の回避の手法の進歩と新薬の開発により、これらの疾患の治療成績は著しく改善されてきています。

診療内容

主な疾患について

1. 関節リウマチ

関節リウマチは、多関節の慢性炎症および進行性の関節破壊を特徴とする根治不能な慢性・自己免疫疾患と考えられていました。2000年以降、治療法の革命的な進歩により、疾患が治ったのと同様の状態(寛解)にまで回復することが少なからず可能となりました。現在は「寛解」を具体的な目標として治療をすることが、専門医の目指す方針であるといわれています。寛解を目指した治療において重要なことは、1)早期診断・早期治療 、2)より積極的な治療が挙げられます。

○ 早期に正確な診断を行うための当科の試み
病歴、診察所見に加えて、血液検査(抗シトルリン化ペプチド抗体:抗CCP抗体・ACPA)および画像検査をあわせて、早期診断に努めています。早期診断のためのゴールドスタンダードであるMRI検査のみならず、より安価で多くの関節を評価できる「関節超音波検査」を取り入れております。これらにより、関節リウマチの診断のための従来基準を満たさない時点から、関節リウマチと診断できることが多くなっております。

○ より積極的な治療
早期からメトトレキセートを中心とする抗リウマチ薬(DMARD)治療を開始し関節破壊をできるだけ抑制することが基本的な考え方です。
さらに、2003年以降は「生物学的製剤」または「抗サイトカイン療法」と呼ばれる治療法により、関節リウマチの病態の根本に近い部分への「ピンポイント攻撃」が可能となりました。当院では12剤(バイオシミラーを含む)の使用が可能で(2022年12月現在)、従来の抗リウマチ薬と比べてより速く・強力に炎症抑え、関節の骨・軟骨破壊阻止する作用を有しています。約460人の患者さんに使用しています(2022年)。また2013年以降はJAK阻害剤という新しい種類の薬剤が登場し、当院では3剤が使用可能です。特徴は内服治療で生物学的製剤と同等の治療効果が得られる点です。
関節リウマチの治療は当科のみで完遂しないものもあります。特に、病歴の長い患者さんにおいては、破壊されてしまった関節の機能を回復するための「手術」を要する事があります。当科は、当院の整形外科と連携をとりながら、手術を要するかどうか、手術の前後の投薬管理などを協同で行っております。
関節リウマチの総合的な治療により、患者自身の生活レベルが向上し、合併症を起こさず、将来の生活が保障されることを目標に、診療を行っております。

2. 全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデスは、特徴的な皮疹(顔の蝶形の皮疹)などを特徴とする、自己免疫疾患で膠原病の代表疾患です。発熱や内臓障害を呈して入院加療を要することが多い疾患でもあります。内臓障害として頻度が多いのは「腎炎:ループス腎炎」ですが、その他、肺、胸膜、腹膜、腸、膀胱、心臓、脳、神経など多彩な病変を呈することがあります。治療の基本はヒドロキシクロロキンとステロイド薬ですが、その投与量の決定には疾患の病勢や内臓障害の種類と程度などの詳細な評価の上決定しています。また、ステロイド薬で治療が困難な場合には、「免疫抑制剤」を併用することを積極的に行っています。また2017年には全身性エリテマトーデスに対する初めての生物学的製剤である「ベリムマブ」が登場しました。従来の治療効果が不十分な全身性エリテマトーデスに対して、効果が期待されます。さらに、治療による合併症をさけることを最も重要なこととして、適宜検査・予防治療を行っております。

3. 多発性筋炎・皮膚筋炎

多発性筋炎は体幹・四肢の近位筋(二の腕、太もも、首など)の進行性の筋力低下をきたす疾患であり、皮膚筋炎はそれに加えて特徴的な皮疹呈する疾患です。上記の全身性エリテマトーデスと同様に、原因の一部は自己免疫であると考えられており、治療の基本はステロイド薬です。本疾患における重要なことは以下の3点です

1. 進行性の筋力低下: 高度な場合は、床からの起き上がりすら困難になります。また、呼吸するための筋肉や食べ物を飲み込むための筋肉が障害されると、より重症です。

2. 間質性肺炎の合併: 急速に呼吸困難が進行するタイプの間質性肺炎を合併することがあり、早期に治療が奏功しなければ救命できないことがあります。

3. 悪性腫瘍の合併: 特に皮膚筋炎には悪性腫瘍を合併していることがあり(腫瘍関連筋炎)、悪性腫瘍の早期の診断・治療を優先することがあります。また、悪性腫瘍合併例においては、通常の筋炎の治療がうまくいかないことがありえます。

特に間質性肺炎の治療については、当院呼吸器内科と連携をとりながら、積極的な治療に取り組んでいます。

4. 強皮症(全身性硬化症)

強皮症は、皮膚の線維性硬化と血管障害および自己免疫を特徴とする疾患です。皮膚のみならず肺、心臓、消化管、腎臓など多臓器に硬化性病変をもたらします。確実に奏功する治療法があまりないのが現状ですが、具体的な治療法は、以下のようなものがあります。

1. ステロイド薬: 皮膚硬化が急速に進行する病初期に限り、ステロイド治療を行うことがあります。長期に漫然と使用することは避けます(基本的には未使用)。

2. 重要臓器障害に対する治療: 「強皮症腎」に対するACE阻害薬など、「肺高血圧」に対する血管拡張療法、進行する間質性肺炎に対する免疫抑制療法や抗線維化薬(ニンテダニブ)など。

3. 末梢循環改善、消化管運動機能改善などの対症療法的な治療。

急速に全身の皮膚が硬化するタイプの患者さんには、より強力な治療が可能な施設に紹介することもあり得ます。

5. 混合性結合組織病

混合性結合組織病は、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎・皮膚筋炎、強皮症の臨床像が同時あるいは経過中に出現する重複症候群の一種です。比較的軽症例が多く中等量以下のステロイド薬にて寛解する場合が多いですが、注意すべきは肺高血圧症、無菌性髄膜炎の合併です。

6. 血管炎症候群

血管炎症候群とは、血管の炎症を主体とした多彩な病態を呈する疾患群の総称です。高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧名:ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧名:アレルギー性肉芽腫性血管炎)、顕微鏡的多発血管炎などの疾患が含まれます。治療はステロイド薬と免疫抑制薬が主体ですが、血漿交換療法、抗凝固療法などそれぞれの疾患、病態に応じた適切な治療が必要となります。いまだに診断が難しい疾患群であり、発症頻度が低い割に当科入院患者の多くを占めています。 なかでも重要な疾患は、若年者の不明熱の原因疾患としての高安動脈炎(大動脈炎)と高齢者の不明熱の原因疾患としての顕微鏡的多発血管炎です。いずれも、治療困難な病態があり得ますが、種々の方法を駆使して治療しています。血管炎症候群でも生物学的製剤を用いて治療することが多くなってきています。特に高安動脈炎や巨細胞性動脈炎では、トシリズマブを併用し、寛解を目指しています。顕微鏡的多発血管炎や多発血管炎性肉芽腫症ではリツキシマブ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症ではメポリズマブを併用することがあります。

地域連携の試み

膠原病は頻度の低い疾患と思われてきましたが、関節リウマチは決して稀な疾患ではありません(本邦で70万~100万人といわれています)。内分泌代謝・リウマチ内科-リウマチ・膠原病グループの初診患者数は2016年716件、2017年769件、2018年828件、2019年715件、2020年716件、2021年773件、2022年640件でした。

そこで、地域の診療所・病院と連携をとりながら、診断・治療を協同で行うことが重要です。定期的に地域連携を主題とした会合を開催し、連携を深める試みをしております。

連携の成果の一部として、当院初診(多くが紹介)患者さんのうち、関節リウマチと診断して治療した方々の治療法の内訳を紹介します。

生物学的製剤 JAK阻害剤表

対象期間 2022年
患者数 458名 477件(重複使用あり)

薬品名 使用件数(重複あり)
アクテムラ 132
オレンシア 75
エンブレル  58
ヒュミラ 50
シンポニー 42
レミケード 39
ゼルヤンツ 20
リンヴォック 19
シムジア 16
オルミエント 14
ケブザラ 11
ジセレカ 1
総計 477