内分泌代謝・リウマチ内科

内分泌代謝グループ

内分泌代謝・リウマチ内科
村部 浩之 主任部長

当院の内分泌診療は、1966年にRI検査とバセドウ病に対する放射性ヨウ素内用療法が実施可能となり、甲状腺疾患の専門診療が始まったことに遡ります。1994年には大量投与が可能なRI治療病室が完成し、甲状腺癌に対する放射性ヨウ素内用療法を開始しました。

その後の専門医スタッフ増加に伴い、甲状腺疾患のみならず、下垂体疾患、副腎疾患、副甲状腺疾患など内分泌疾患全般にわたり、最新の機能検査法、画像診断法、さまざまな治療法などを迅速に取り入れてきました。現在では、岡山県全域から広島県東部地区における内分泌疾患の地域医療に広く対応し、所属学会からも専門施設・専門医教育施設として認定されています。

施設認定:日本内分泌学会内分泌代謝科認定教育施設
     日本甲状腺学会認定専門施設

当院では、耳鼻咽喉科・頭頸部外科(甲状腺・副甲状腺疾患)、泌尿器科(副腎疾患)、脳神経外科(下垂体疾患)などの外科系診療科とも綿密な相互連絡を取り、十分な説明を行った上で適切な内科的あるいは外科的治療を提供する体制が整っています。

また、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肥満、さらにはメタボリック症候群など、成人での代謝性疾患も当科の診療領域であり、外来を中心に診療を行っています。

2021年4月からは糖尿病・内分泌代謝センターを立ち上げ、糖尿病内科や小児科と連携して専攻医が糖尿病を幅広く経験できる環境を整えました。

現在は、指導医スタッフ4名、内科専攻医3名、平日2診体制(火曜日を除く)の専門外来を担当するとともに、効率的な入院診療を心がけています。(2023年 入院数181例、平均在院日数7.79日)
なお、診療方針の決定、専門医育成、また他科との情報共有化のためにカンファレンスを定期的に開催しています。

カンファレンス 開催頻度
主任部長回診 週 1 回
診療カンファレンス 週 1 回
甲状腺超音波・細胞診カンファレンス 週 1 回
甲状腺カンファレンス(耳鼻咽喉科・頭頸部外科、病理科と合同) 月 1 回

診療内容

甲状腺疾患

  1. バセドウ病
    甲状腺機能、甲状腺自己抗体検査と超音波検査は受診当日に実施し、2~3時間後には結果が判明しますので、ご希望があれば受診日のうちに病状説明が可能です。バセドウ病の確定診断にはRI検査(甲状腺シンチグラフィと摂取率)が必要ですが、2~3日以内に実施し早急に治療を開始することができます。
    バセドウ病には、抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法(RI治療)、手術療法の3つの治療法があります。病状、年齢、女性の場合は妊娠希望などを考慮して、それぞれの利点、欠点について説明を行い、患者さんのご希望に沿った治療法を選択しています。
    抗甲状腺薬による内服治療は、外来で継続できる簡便な治療法で、長期的に理想的な治癒が期待できる点で優れています。妊娠・授乳に対しても、時期に応じた薬剤選択の配慮は必要ですが、基本的に対応可能です。欠点として薬剤の様々な副作用に留意する必要があります。
    また、抗甲状腺薬の副作用が出現した症例や難治性の症例には、放射性ヨウ素内用療法、あるいは手術のいずれかを勧めています。2023年には、放射性ヨウ素内用療法 32例、手術12例を当院で施行しました。
    手術は身体的負担が大きいことが欠点であり、早期妊娠希望の女性、悪性結節を合併した症例などに適応が限られます。当院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科などに紹介し、術前管理と術後のフォローアップは当科で行っています。
    一方、放射性ヨウ素内用療法は、長期的には甲状腺機能低下症に移行するため、甲状腺ホルモン補充がいずれ必要となること、甲状腺眼症(眼球突出、眼球運動障害)合併者や喫煙者では治療後に眼症増悪のリスクがあること、などをご理解いただいた上での治療適応となりますが、身体的負担は少なく、安全かつ早期にバセドウ病を治癒させることができます。甲状腺機能が安定すれば、紹介先あるいはお近くの医療施設に甲状腺ホルモン補充療法を含めた継続治療をお願いしています。
  2. 橋本病(慢性甲状腺炎)・甲状腺機能低下症
    橋本病(慢性甲状腺炎)は、日本人女性にきわめて高頻度に合併する自己免疫性甲状腺疾患であり、健診などで指摘されることが多い日常疾患です。
    近年、甲状腺刺激ホルモン(TSH)のみ上昇する潜在性甲状腺機能低下症が、動脈硬化との関連で注目されており、ヨウ素制限でも改善しないもの、脂質代謝異常を伴うもの、甲状腺腫が大きいものなどについては、甲状腺ホルモン補充療法を開始しています。
    また、妊娠中は母親から十分な甲状腺ホルモンが供給されることが胎児の発育成長にとってきわめて重要であり、妊娠時、あるいは計画妊娠の際には必ず甲状腺ホルモン測定を行うことが大切です。診療ガイドラインに従い、TSH 2.5μU/ml以上であれば直ちに甲状腺ホルモン補充を開始しています。
  3. 結節性甲状腺腫
    CT、MRI、頸動脈超音波検査などの際に偶然に指摘されることが多く、紹介患者を中心に2023年には当院で1,645件の甲状腺超音波検査を実施しました。超音波診断は当科で実施していますが、基本的に10mm以上の充実性結節については、良性・悪性を鑑別するために穿刺吸引細胞診(FNA)を勧めています。
    腺腫様甲状腺腫やバセドウ病、慢性甲状腺炎などに伴う良性結節が約90%を占めますが、2023年の当院検査では496例中47例(FNA全体の9.4%)に悪性、あるいは悪性の疑いの診断がつきました。
  4. 甲状腺癌
    甲状腺悪性腫瘍のほとんどは甲状腺乳頭癌です。乳頭癌と濾胞癌では、早期であれば手術のみで予後は良好であり、転移を合併する進行例でも、甲状腺全摘後に放射性ヨウ素内用治療を追加実施することで、長期の治療成績は決して悪くはありません。甲状腺癌に対する放射性ヨウ素内用療法は、2023年には10例、過去30年間(1994年~2023年)で累計516例に実施しました。
    2011年5月にRI治療関連の改築・改装を行い、以前に比べてより快適なRI治療室となりました。現在は年間20例程度実施可能です。
  5. 甲状腺眼症
    バセドウ病の一部の症例で、眼球突出、角膜充血、眼球運動制限による複視などの眼症状が出現することがあります。眼科医による臨床活動指数(CAS)評価とともに、眼窩MRIでの外眼筋肥厚やT2WI高信号の有無を参考に治療適応を考えています。ステロイドパルス療法と眼窩放射線照射の併用が有効なことが多く、眼科、放射線科と相談しながら適応症例には入院治療を行っています。副作用に留意しながらステロイド薬の点滴や内服が必要ですので、約1か月間の入院期間となります。

副腎疾患

  1. 副腎偶発腫瘍
    近年、腹部超音波検査、CT、MRIなどの画像検査が普及した結果、副腎腫瘍は高頻度に発見されています。当科では、副腎機能スクリーニング検査と画像検査を外来で行い、副腎機能異常が疑われる症例、3cm以上の副腎腫瘍の症例を中心に精査入院を勧めています。
  2. 褐色細胞腫
    褐色細胞腫の副腎腫瘍は3cm以上のことが多く、重度の高血圧や糖尿病を来たすことから、放置すれば予後は不良です。確定診断が得られれば手術適応となります。術中の血圧の変動を最小限にするためにα遮断薬での術前管理は当科で行い、泌尿器科で手術を受けた後の経過観察も当科で行います。
  3. クッシング症候群・サブクリニカルクッシング症候群
    クッシング症候群の領域では、軽症例であるサブクリニカルクッシング症候群の頻度が高いことが示されています。副腎機能異常の評価とともに、耐糖能異常、脂質代謝異常、骨粗鬆症の有無など、総合的な評価を行った上で個々の手術適応を検討しています。
    中心性肥満、耐糖能異常、高血圧症など多彩な症状を伴うクッシング症候群は、確定診断が得られれば泌尿器科に紹介しています。術後、症状は急速に改善しますが、しばらく副腎皮質ホルモンの補充が必要です。
  4. 原発性アルドステロン症
    原発性アルドステロン症は、日本人の高血圧症で5~6%を占める頻度の高い疾患です。内分泌スクリーニング検査(ARR:アルドステロン/レニン活性比>200)で疑うことができますが、副腎機能検査(内分泌負荷試験)を実施することで正確な診断が得られます。さらに、副腎静脈サンプリング検査でアルドステロン分泌の左右差が明らかになれば、内視鏡下片側副腎切除術で高血圧の治癒が期待できます。また、手術適応のない症例でも、抗アルドステロン薬(アルダクトン® 、セララ®、ミネブロ®)を選択することで適切な降圧療法が実施できます。2023年に副腎静脈サンプリングを施行しました11例のうち6例が泌尿器科で内視鏡手術を受けられました。術後は無投薬で血圧が正常化、あるいは軽症化しています。
  5. 手術適応(泌尿器科での内視鏡手術)
    副腎の手術は、以前は大きな切開を伴う開腹術が必要でしたが、当院泌尿器科は内視鏡手術(主に後腹膜アプローチ)に優れた治療成績を示しています。密に連携を取りながら手術適応を相談していますので、最善の治療法を提供できるものと考えています。診断と術前管理、さらに術後の経過観察は当科で行います。

下垂体疾患

  1. 下垂体腫瘍
    CT、MRIなどの頭部画像検査で偶然見つかる症例が多くなりました。下垂体造影MRIと下垂体機能検査でスクリーニングを行いますが、正確な評価、治療方針の決定のために短期精査入院を勧めています。
  2. 先端巨大症
    下垂体腺腫による成長ホルモン(GH)過剰分泌のため、手足の肥大、顔貌の変化とともに糖尿病、高血圧を合併することが多く、心血管疾患の合併率が高いことが知られています。大腸癌、甲状腺癌、乳癌など悪性腫瘍の合併にも注意が必要です。安静下の血中GH、IGF-1が高いことで疑うことができます。手術に加えて、サンドスタチンLAR®、ソマバート®などの薬物療法で良好なコントロールができますので、個別の病状とご希望に応じた最善の治療法を提供しています。
  3. プロラクチノーマ
    プロラクチン(PRL)を過剰に分泌する下垂体腺腫により、女性の場合には無月経と乳汁分泌、男性では性欲低下などの症状が生じます。婦人科で発見されることの多い疾患です。この下垂体腺腫の場合は、薬物療法(パーロデル®、カバサール®)の有効性が確立されており、大部分の症例では手術を受けずに内科的治療でのコントロールが可能です。
  4. 下垂体機能低下症
    下垂体疾患により続発性副腎不全を生じると、体重減少、食思不振とともに低ナトリウム血症、低血糖などが出現することがあります。診断が確定すれば、副腎皮質ホルモン補充で劇的な症状の改善が得られます。また、成人GH分泌不全症に対するGH注射補充療法についても入院検査で適応を判定し、希望者には対応しています。
  5. 中枢性尿崩症
    糖尿病や高カルシウム血症もないのに多尿、多飲を訴える場合には、この疾患を疑います。心因性多尿との鑑別には短期入院精査が必要ですが、診断が確定すれば経口薬(ミニリンメルト®)や点鼻薬(デスモプレシン®)により症状が改善します。

副甲状腺疾患・カルシウム代謝異常

  1. 原発性副甲状腺機能亢進症
    血清カルシウムが一般採血検査で測定されるようになり、この疾患も高頻度で発見されるようになりました。軽症例では無症状ですが、進行すると骨粗鬆症、尿路結石、さらには腎機能低下、精神症状、意識障害まで出現することがあります。短期入院の上、各種画像検査での局在診断、NIH カンファレンス(米国2013年)の手術適応基準を判定し、適応例には耳鼻咽喉科・頭頸部外科での手術を勧めています。2023年に診断しました28例のうち20例が手術を受けられました。
  2. その他の高カルシウム血症
    他の高カルシウム血症の原因としては、骨粗鬆症治療に用いられる活性型ビタミンD、カルシウム剤の過剰投与、さらに悪性腫瘍に伴うものが比較的多く、その鑑別診断と迅速な治療が重要です。

糖尿病・代謝性疾患

  1. 糖尿病、糖質異常症、高尿酸血症
    いずれも食事療法と運動療法を中心した生活習慣の改善が大切な疾患ですが、それぞれに有効な薬物療法がありますので、適応を判断しながら治療に当たっています。
  2. メタボリック症候群
    内臓脂肪などの増加により糖尿病、高血圧、糖質異常症などを合併する症候群で、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な血管障害の発症が懸念される病態です。
    全身的な動脈硬化の評価も含めて検査を実施し、診療ガイドラインに沿って血管障害の予防を目的にそれぞれに有効な薬物療法を行います。
    ただし、肥満治療に著効を示す薬物療法は現在のところありません。基本的には食事療法と運動療法による理想体重に近づける減量が重要です。