当院の No‑touch 法―血管を守り、未来へつなぐ治療

倉敷中央病院心臓血管外科では、冠動脈バイパス術に用いる大伏在静脈グラフトを、できるだけ良い状態で移植するために、“血管を丁寧に扱う” という理念を大切にしています。

その一環として、海外でも報告されている No-touch(ノータッチ)法 を 2013 年から取り入れ、長年にわたり技術の向上と知見の蓄積に取り組んできました。

当院の「No-touch法」のこだわり

バイパス手術では、足の静脈(大伏在静脈)を採取して心臓に移植します。 従来の一般的な方法では、血管を周囲の組織からきれいに剥がして採取し、強い圧力をかけて膨らませていました。しかし、この方法では血管の細胞を傷つけ、将来的にバイパスが詰まる原因となる可能性がありました。

当院の「No-touch法」では、以下の点を重視しています。

大伏在静脈を周囲脂肪組織と一緒に採取する

血管だけではなく、血管保護物質が分泌されているとの報告もある周りの脂肪組織ごと採取することで、血管へのダメージを抑えます。さらに周囲の脂肪組織により、血管がねじれたり、折れたりすることを防ぎます。

血管に無理な圧をかけない

無理に圧力をかけて膨らませないことで、血管が血液と触れる部分を傷つけることなく、バイパスが詰まる原因となる血栓や動脈硬化を防ぎます。

学会発表実績

当院では2013年から「No-touch法」を導入し、国内での心臓血管外科の関連学会での報告に加え、2010年から2023年までの約1,000名の患者さんのデータを解析した内容を、2025年に米国で開催された胸部外科学会(AATS 105th Annual Meeting)でも紹介しました。

以下のグラフは、当院で 2010〜2023 年に冠動脈バイパス術を受けられた約1,000名の患者さんのデータを解析し、No-touch 法(NT)と従来法(CON)のSVG(大伏在静脈グラフト)関連イベントが発生していない割合の推移を示したものです。

当院での解析では、術後 5 年時点の生存率は、No-touch 法で 約 89.8%、従来法で 約 79.5% という結果が得られました。

術後の心筋梗塞や再カテーテル治療など、SVG 関連イベントの発生状況を経年的に評価しました。NT 群と CON 群のイベント発生の推移には一定の違いが確認され、本結果は学会発表の一部として報告しています。

※本データは当院の観察研究に基づくものであり、治療結果は患者さんそれぞれの病状や背景により異なります。
※本結果は特定の治療法の優劣を示すものではなく、学術情報として公開しています。

術後 CT 画像を用いた大伏在静脈グラフト(SVG)の形態評価

当院では、冠動脈バイパス術後の大伏在静脈グラフト(SVG)の状態を把握するため、術後 CT などの画像検査を用いて、血管の形態を継続的に観察しています。以下の図は、No‑touch 法(上段)と従来法(下段)により採取された大伏在静脈グラフトの術直後および術後5年の CT 画像を示したものです。

CT 画像の観察では、

  • 血管の太さの変化
  • 血管内腔の状態
  • 周囲組織の影響
  • 経時的な形態の違い

などを確認し、移植された血管が術後どのように変化していくかを丁寧に評価しています。
こうした画像評価から得られた所見は、術後フォローの方針や、採取手技の改善に生かすためのフィードバックとして活用しています。

※掲載している画像は当院で実施した観察研究に基づくものであり、すべての患者さんに同様の所見が得られることを示すものではありません。
※特定の治療法の優劣を示す目的ではなく、学術的情報として公開しています。

私たちの想い

手術は「行って終わり」ではありません。私たちは、患者さんが術後の生活を安心して続けられるよう、術前から術後まで丁寧に寄り添いながら、一つひとつの血管を大切に扱う姿勢を大切にしています。

治療内容について気になる点があれば、どうぞ外来でお気軽にご相談ください。