心臓血管外科

診療内容

1. 虚血性心疾患の治療

最近7年間の待機的単独冠動脈バイパス術319例の手術死亡率は0.3%です。左右内胸動脈を用いたバイパスは全体の62%の患者に行っています。体外循環を使用しない心拍動下多枝冠動脈バイパス術(オフポンプ冠動脈バイパス術)を標準手技としており、待機単独手術の88%に行っています。従来手術合併症頻度の高かった、高齢者や腎不全患者、脳血管病変を有する患者に対しても、安全に手術が行われる様になりました。緊急冠動脈バイパス術の成績も近年良好で、過去5年間の単独冠動脈バイパス術は56例で死亡はゼロでした。緊急の場合は、安全優先のため75%を体外循環使用下で行っています。

2. 大動脈疾患

胸部大動脈瘤の手術の成績が良くなったため、非常に増加しています。2011年の症例数は130例でした。当院での最近5年間の待機的手術359例では手術死亡率は1.4%でした。80歳以上の患者さんにも勧める事ができるようになりました。胸部下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤に対してはステントグラフトを積極的に使用しています。5年間で128例に施行しています。急性大動脈解離も生命の危険が非常に高い病気ですが、ここ6年間で129例の緊急手術を施行し、手術死亡率は7.7%と本邦全体の成績(12%)より良好な成績でした。

腹部大動脈瘤では2011年には100例の手術がありました。ここ9年間の待機的手術は707例で死亡はゼロです。破裂した場合の死亡率が高いことより、80歳代でも日常生活を普通に営なまれている方には十分手術が可能です。ステントグラフトは、高齢者や開腹手術の既往がある場合などに行なっています。2011年までに112例に行っています。

3. 弁膜症

大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症が増加しており、2011年の弁膜症手術数は143例でした。可能な限り自己弁を温存した術式を選択する様にしています。僧帽弁形成術はこの5年間に276例施行しました。変性疾患では、弁形成術成功率は99%です。また大動脈弁形成術を行う病院は日本ではまだ少ないですが、当院では積極的に取り組んでいます。2000年以降に227例の大動脈弁閉鎖不全症に対する手術中、82例(36%)の症例で自己弁温存術式を行ないました。大動脈基部病変に対しては、バルサルバ洞形態を維持したグラフト(Valsalva graft)を用いてreimplantation法を36例に行なっています。特に若い患者さんでは可能な限り、自己弁を温存する術式を第一選択と考えています。

弁膜症手術の手術成績は良好で、単独弁膜症手術過去5年間420例の手術死亡率は1.9%です。手術成績の安定により、早期に手術を行えば心機能の悪化を防ぎ、通常人と変わらない寿命が期待できます。65歳以上の高齢者の弁置換術では原則としてワーファリンが不要となる生体弁を使用しています。

4. 末梢血管

閉塞性動脈硬化症に対する、主に人工血管を用いたバイパス術を2008年には53例行っています。糖尿病や慢性腎不全の患者さんで重症虚血肢が増加しており、血管性状不良のためバイパスしても足の一部切断が必要となる場合があります。症状が不顕性の場合がありますので、足の脈が触れにくい場合は下肢圧測定が必要です。

5. 内シャント

透析用の内シャント作成は、2011年は253例の手術を施行しました。 新規増設は155例で、感染のリスクを避けるためできるだけ自己静脈を用いるようにしており、人工血管の使用は12例です。

6. 左室形成術、心房細動手術

日本でも心臓移植が行われるようになりましたが、実施数は少なく、多くの高度心不全患者は移植の対象にすらなっていないのが現状です。左室形成術は、陳旧性心筋梗塞により左室が拡大した症例に著効することがあります。当院では76例に行っており手術死亡はありません。

また心房細動を持つ患者さんの生命予後が不良なことが知られています。各種の心房細動に対する手術が有効です。当院では2011年までに318例の手術を経験しています。

7. 高齢者手術

近年80歳代の患者さんの手術は年を追って増加傾向にあります。2011年は73例の予定心臓大血管手術が行われました。最近5年間では238例あり、待期手術の死亡率は2.1%です。高齢者といえども患者さんの活動能力、全身状態を考慮して手術適応を考えています。90歳以上の患者さんも過去25例あります。

8. 透析患者さんの手術

透析患者の開心術は従来成績不良でしたが、手術の低侵襲化、管理方法の確立により、安全に行えるようになりました。最近5年間の手術死亡率は、待機手術(53例)で5.7%、緊急手術(4例)で25%です。

9. 心臓の小切開手術:低侵襲心臓外科手術(MICS)

心臓の小切開手術は、低侵襲心臓外科手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery:MICS)ともよばれています。通常の心臓手術の切開より、半分以下の切開で心臓外科手術をおこなうことをいいます。通常の心臓手術は前胸部の真ん中を20cm程度切開しますが、若い女性など小さい傷を希望される場合は、右前胸部の小さな切開や、真ん中下方の小さな切開(10cm 未満)で手術を行ないます。当科ではすでに1998年より小切開手術に取り組んでおり現在までに153例の経験があります。心房中隔欠損症、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術などの治療実績があります。