心臓血管外科
低侵襲手術
小切開手術(低侵襲手術)
小切開手術とは、心臓や大動脈瘤の治療を行う際、身体を切開する範囲を最小限にとどめ手術を行うことをいいます。
切開の範囲が狭いため肋骨の切断も一部分ですみ、患者さんの身体への負担は大幅に軽減されます。また小切開手術は、治療後回復するまでの時間も短く、手術跡の大きな傷を好まれない女性をはじめ、男性にも希望される患者さんが多いです。
小切開手術の種類
心臓の小切開手術:低侵襲心臓外科手術(MICS)
心臓の小切開手術は、低侵襲心臓外科手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery:MICS)ともよばれています。通常の心臓手術の切開より、半分以下の切開で心臓外科手術をおこなうことをいいます。通常の心臓手術は、前胸部の真ん中を20cm程度切開しますが、若い女性など小さい傷を希望される場合は、右前胸部の小さな切開や、真ん中下方の小さな切開(10cm 未満)で手術を行ないます。
当科ではすでに1998年より小切開手術に取り組んでおり現在までに153例の経験があります。心房中隔欠損症、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術などの治療実績があります。
3D内視鏡を用いた小切開僧帽弁手術
当院では、以前より右肋間小開胸での僧帽弁手術(通称MICS:minimally invasive cardiac surgery)を行っていました。切開長は6cmで、切開部から覗き込むような形での直視下での手術です。切開部から大動脈遮断鉗子、左房展開鈎などが入り、手術操作の為の持針器、鑷子がさらに入ると、術者以外には誰も見えなくなるのが難点でした。さらに僧帽弁を介して左室内の操作を行うのが非常に難しく、MICS手術は形成が容易な症例に限定していました。既存の内視鏡を試験的に使いましたが、僧帽弁の手術では腱索長さの判定などの距離感覚が重要であり、限界がありました。
そこで、2017年の秋に待望の3D内視鏡を導入しました。内視鏡のシャフトは10mmで、先端に2個のレンズとCMOS撮影素子が並んでいます。左右のCMOSからの信号は3D用液晶モニターに左右ずれた画像として表示され、偏光眼鏡をかけることで立体画像を得ることができるようになっています。CMOSの位置から分かるように、内視鏡の先端を僧帽弁に近づけていくと、あたかも小人になって胸腔の中に入っていくようなイメージが得られます。直視手術では拡大鏡を使用して弁を観察していますが、内視鏡画像はさらに拡大され、よりくっきりと病変部位を観察することができます。
実際に使用して、2D内視鏡では難しかった術野での運針が容易になったことが分かりました。僧帽弁の手術では縫合を多く使用するため、3Dで針の位置や向きを確認できることが大きな強みです。正確な手技を行わないと、術後の逆流再発リスクが高まります。僧帽弁逆流の手術では、形成のクオリティが患者さんの長期予後に直結します。このため、今まではMICSの適応を絞っていました。2008年10月からの僧帽弁形成術600例中の60例ですが、2015年以降は187例中34例と比率が高くなっています。MICSの利点は、傷が目立たないという美容的な側面が強調されますが、最大の利点は骨をまったく切っていないことです。このため、術後の疼痛が少なく、職場復帰までの期間が短いことが利点です。まだ技術的には克服しなければならない点が多数ありますが、今後はさらに小さな手術創でできるようにしたいと考えています。
腹部大動脈瘤の小切開手術
腹部大動脈瘤の治療は、これまで20-30センチほど腹部を切開して瘤を人工血管に置換することが唯一の治療でした。近年より、低侵襲のステントグラフトによる治療が保険認可され広がりをみせています。それにともなって当院では、従来の外科治療も小切開の低侵襲手術を基本方針としています。
小切開手術のメリット
創部が小さいことで、これまでの通常の開腹手術に比べ、
- 手術のあとに残るキズが小さい
- 術後の痛みが軽い
- 手術後の回復が早い
など、大きなメリットがあります。さらに術後早期より積極的にリハビリを行うことで、さらに早い回復が期待できます。
当院では、腹部大動脈瘤に対して開腹手術を行う場合にも、できるだけ小さい創部で手術を行い患者さんの負担を軽減することを目指しております。