原因別 治療方針
J プレコン(pre-conception care)高血圧や高血糖など妊娠前のご相談
A 排卵に問題がある場合
排卵障害の原因の多くは次の3つです。多い順に書きました。
1. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS; polycystic ovary syndrome)
最も多いものです。原因不明のかたが多いですが、肥満やインスリン抵抗性(糖尿病予備軍)などが原因となっていることもあります。アジア人では原因不明のかたが多いです。肥満やインスリン抵抗性が原因の場合、ダイエットで改善することもあります。一般的には排卵誘発を勧めます。
2. 中枢性排卵障害
精神的ストレス、体重減少などが原因となります。体重減少の場合には体重を増やすことで改善することがあります。一般的には排卵誘発をしますが、内服薬で効果がみられず、注射が必要となるケースが多いです。
3. 早発卵巣機能不全(POI; premature ovarian insufficiency)
卵巣に残っている卵子の減少によるものです。原因不明の場合が多いです。内服・注射の排卵誘発、あるいは卵胞刺激ホルモン(FSH)を低下させることで排卵される場合もありますが、妊娠・出産に至りにくいのが実情です。2026年4月現在、日本では認可されていませんが卵子提供による妊娠も選択肢のひとつです。くわしくは医師にご相談ください。
内服での排卵誘発
クロミフェン、レトロゾールなどがよく使われます。基本は1日1錠5日間内服です。
排卵日は個人差がありますが、内服開始から1~2週間で排卵になるのが一般的です。
排卵日予測と、何個の卵胞が育っているかを診るために、1~数回の通院が必要です。
注射での排卵誘発
卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤を使います。体外受精でない場合には、当院ではゴナールエフを採用しています。
タイミング法や人工授精で注射薬を使う場合、多数の排卵にならないよう、少量を1~3週間毎日注射します。自宅で注射できるよう、自己注射をしてもらいます。
排卵日予測と、何個の卵胞が育っているかを診るために、数回の通院が必要です。
排卵誘発と多胎妊娠-安全な妊娠のために
20代の女性の場合、1個の排卵での妊娠率が約20%です。
単純に計算しますと、
| 2個排卵した場合 | 双子(双胎)率 | 4% |
|---|---|---|
| ひとり(単胎)率 | 32% | |
| 妊娠されない率 | 64% | |
| 3個排卵した場合 | 三つ子(品胎)率 | 0.8% |
| 双子(双胎)率 | 9.6% | |
| ひとり(単胎)率 | 38.4% | |
| 妊娠されない率 | 51.2% |
多胎妊娠では早産で未熟児で生まれる率が高くなります。育児も大変です。 当院では直径14mm以上の卵胞が4個以上見られた周期には、妊娠を控えていただくようにしています。日本全国で一般的な方針です。排卵誘発中に卵胞数を確認しているのは、このためです。
また内服で排卵せず、注射で3個以内の排卵を起こすことがむずかしいかたもおられます。その場合は体外受精を勧めております。体外受精では多数の排卵が生じても、胚移植を1個(~2個)にするので、多胎妊娠が起こりにくくなるからです。(1個胚移植でも一卵性双胎が起こることが2%程度あるので多胎妊娠率はゼロにはなりません)。
B 精液所見に問題がある場合
妊娠に必要な運動精子数は以下の運動精子が必要です。
| タイミング法 | 数千万 |
|---|---|
| 人工授精 | 100万以上、理想的には500万以上 |
| 体外受精 | 1個の卵に10万以上 |
| 顕微授精 | 1個の卵に1個 |
※2026年4月時点
精液所見によって、治療方針を提案しております。なお精液検査は一人の男性でも日によってい良い時、悪い時とばらつきがあります。精液所見が良くない場合にはまずは再検査をしてください。
精液所見が良くない場合には、男性を当院泌尿器科にご紹介しております。内服薬、精巣静脈瘤の手術などで精液所見の改善が期待されます。改善には数か月かかることが多いので、女性が若い場合には改善を待つことができますが、女性年齢が高い場合には泌尿器科治療と同時進行で人工授精や体外受精・顕微授精に進むことが多いです。
当院泌尿器科ではMD-TESE(顕微鏡下に精巣から精子を採取する手術)を含め高度な医療が可能です。
C 卵管に問題がある場合
左右どちらかの卵管閉塞は自然妊娠が可能ですので、ただちに体外受精を勧めることはありません。ただし女性年齢が高い場合には早めの体外受精を勧めることがあります。
左右両側の卵管閉塞では体外受精を勧めます。閉塞した卵管にバルーンを通して開通させる手術(FTカテーテル)も以前行っていましたが、体外受精のほうが妊娠率が高いので、現在当院では行っておりません。
D 性交困難のある場合
女性側に性交痛がある、男性側に勃起しにくい(ED)・膣内で射精しにくい(EjD)、などを性交困難と呼んでおります。夫婦ともにストレスを感じられます。
女性側の性交痛では
- 子宮内膜症が原因になっていることがあります。その場合、ホルモン療法がありますが、排卵を抑えるために妊娠できなくなります。妊娠を希望される場合は早めの人工授精(子宮内精子注入)をお勧めしています。
- 会陰(えいん)切開などの手術も検討されます。くわしくは医師にご相談ください。
男性側の性交困難では泌尿器科からお薬の処方をしてもらうことも可能ですが、女性年齢なども考慮して、泌尿器科治療と同時進行で早めの人工授精(子宮内精子注入)をお勧めしています。
性交困難やセックスレスは、ご夫婦・カップルが恥ずかしがって初診時に言われないことがよくあります。意外と多くのかたが問題をかかえておられます。恥ずかしがらずに初診時にお伝えくださるようお願いします。
別居・単身赴任・夜勤がある、などで機会の少ないかたでは、凍結精子を用いた人工授精・体外受精・顕微授精などを提案しております。くわしくは医師にご相談ください。
E 卵巣嚢腫がある場合
不妊治療中のかたに卵巣嚢腫がみられた場合、手術(卵巣嚢腫を切除して正常な卵巣は残す)を行うことがあります。
手術を勧めるのは以下のようなものです。
- 大きさが5-6cm以上あり、卵巣捻転が起こる可能性があるもの。
- MRI検査で悪性、境界悪性の可能性があるもの。この場合は片方の卵巣切除を行う可能性があります。
チョコレート嚢腫(子宮内膜症性嚢胞)の場合には、判断が個別になります。くわしくは医師にご相談ください。
F 子宮筋腫がある場合
子宮筋腫は、
- 漿膜下(子宮の外側)
- 筋層内
- 粘膜下(子宮の内側)
に分類されます。
妊娠しにくくなるのは子宮内腔に大きな変形を起こしているものです。特に子宮底部(子宮の上側)に変形があると受精卵が着床しにくくなります。一方、小さな筋腫で子宮内腔に変形を起こしていないものは手術をお勧めしません。
子宮筋腫の大きさや場所をエコーやMRI検査で調べ、手術をしたほうがよいか検討します。当院では負担の小さい腹腔鏡下筋腫核出術、子宮鏡下筋腫核出術が受けられます。
G 子宮腺筋症がある場合
子宮腺筋症は、限局性とびまん性に分類されます。
限局性の場合には不妊の原因となる可能性が低く、当院では手術をお勧めしていません。
びまん性の場合には不妊の原因となる可能性があります。
詳しくは医師にご相談ください。
H 原因不明不妊症(基本的検査で異常のないかた)
みなさん意外に思われるかもしれませんが、基本検査で異常のない、いわゆる「原因不明不妊症」のカップルが実は一番多いです。
治療の進め方は、
タイミング法→人工授精→ART(体外受精・顕微授精)
と、ご夫婦と相談しながらステップアップしていきます。
| 1周期の通院回数 | 1周期の費用 | 妊娠率(タイミング法を1として) | |
|---|---|---|---|
| タイミング法 | 1回以上 | 2000円~ | 1 |
| 人工授精 | 2回以上 | 8000円~ | タイミング法の約2倍 |
| ART (体外受精・顕微授精) | 月経開始から採卵までの約2週間で、少なくとも4回 | 排卵誘発方法・採卵数・凍結胚数などで変化。高額の場合、25万円程度。高額療養費制度・助成金などの制度もあります。 | タイミング法の約8倍 |
※2026年4月時点
I 女性年齢と治療の進め方
女性年齢が高くなると、受精卵の染色体異常が増えるため、妊娠率・出産率は低下します。いわゆる「卵子の老化」と呼ばれる現象によるものです。当科では原因不明不妊症のカップルの場合、女性年齢によって下記のながれで治療を進めています。
| 34歳以下 | 人工授精は3~6回→ART |
|---|---|
| 35~39歳 | 人工授精は1~3回→ART |
| 40~42歳 | 早めのARTを勧めております。 |
| 43~44歳 | ARTでも妊娠率は低く、「卵の質が良いときに」妊娠・出産されますので、ARTは特に勧めておりません。当科の経験ですが、ARTを20回以上受けられ妊娠されず、タイミング法・人工授精にステップダウンされ、無事に健康なお子さんを出産されたケースがあります。 |
45歳以上の方につきましては、当科では生殖医療(不妊治療)をお断りしております。
J Pre-conception Care(妊娠前のケア)
男女ともに適切な体重管理、栄養管理は重要です。
女性では以下のような場合に妊娠を待ってもらうことがあります。
- 高血圧:一般に血圧は140/90以下が望ましいですが、妊娠を考える場合はより低めが望ましいです。
- 高血糖:HbA1c 6.5%以下が妊娠のためには望ましいです。 HbA1cが高値であるほど赤ちゃんに奇形が起こる率が高くなります。
高血圧や高血糖がひっかかるのは年齢の高い女性に多くみられます。この場合、体外受精で先に採卵して受精卵を凍結保存しておき、体調を整えてから胚移植を行うという治療を提案することがあります。
赤ちゃんの中枢神経系奇形を予防するために妊娠前から葉酸(サプリメントで大丈夫です)を飲まれることをお勧めします。
その他、心臓、腎臓、膠原病(自己免疫疾患)などの疾患をお持ちの方は、ぜひ妊娠前に当科にご相談ください。清川 晶、田中 優がこの分野に明るいです。






