腎臓内科
腹膜透析(PD)
腹膜透析(PD)の選択状況
超高齢社会となり、高齢の透析導入患者は増加しています。一般社団法人日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)」では、透析導入のピークは75−80歳と示されています。高齢者の腹膜透析はバック交換回数、透析液量も少なく、医療費もHDと比べて負担が少ないとされており、「現在の生活を変えたくない」と腹膜透析を選択する方は少しずつ増えてきています。
2023年度透析導入 124名
(うち血液透析100名、腹膜透析24名;腹膜透析選択率19.4%)
血液透析は医療機関で行うのに対し、腹膜透析は自宅で行うことが中心です。腹膜透析は入院で導入し、安定すれば月1~2回外来受診としています。腹膜透析は緩やかな治療で残存腎機能を長く保ちやすく、ライフスタイルが大きく変わらないメリットがあります。
| 高齢患者さんにとっての腹膜透析の利点、欠点 | |
|---|---|
| 利点 | 欠点 |
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腎代替療法選択外来-患者さんの意思決定に寄り添う
「腎代替療法選択外来」とは、慢性腎臓病(CKD)が進行し、近い将来に腎代替療法(RRT: Renal Replacement Therapy)―透析療法(血液透析・腹膜透析)または腎移植―の導入が必要になる患者に対して、最適な治療法を選択するために行う専門外来のことです。当院でも2020年より腎代替療法選択外来を立ち上げました。開始から2023年12月までSDM(Shared Decision Making)面談を177例行っています。
| 面談結果 | |
|---|---|
| 血液透析を選択 | 95例(53.6%) |
| 腹膜透析を選択 | 44例(24.8%) |
| 腎移植 | 3例(1.6%) |
| CKM(保存的腎臓療法) | 3例(1.6%) |
| 決定できない | 32例(18%) |
腹膜透析を選択した理由として「通院回数が少ないから」「通院できないから」「今の生活を続けたい」といった声が多く上がっています。
腹膜透析の手術
導入にあたり、腹膜透析テンコフカテーテル留置術を行います。腹膜透析(PD)を始めるために、透析液を出し入れするための管(テンコフカテーテル)を腹腔内に埋め込む手術です。この手術により、腹膜を介して老廃物や水分を排出する腹膜透析療法が可能になります。

腹膜透析導入方法
①段階的腹膜透析導入法:SMAP法(Stepwise initiation of PD using Moncrief and Popovich’s technique)
SMAP法とは、腹膜透析を段階的に進める方法で、腎臓の働きに余力がある時期にカテーテルを皮下に埋め込む手術です。透析が必要になるとカテーテルの出口部を作製し、外に取り出す手術をして透析を開始します。SMAP後の期間に教育を行える、トンネル感染を減少、リークを減少させる等のメリットがあります。 手術が2回となるデメリットもあるものの、それを凌駕する効果が期待できます。
②SPIED法 ( Short Term PD Induction and Education )
テンコフカテーテル留置後1週間程度 保存的に創傷が治癒するのを待ち1週間後より貯留を開始する方法。従来の方法に比べ、入院期間を短縮できる、手術は1回ですむなどのメリットがあります。
腹膜透析継続に向けた院内サポート
外来・病棟で切れ目のない継続介入
外部との円滑な連携を図るために、MSW・外来看護師・病棟看護師が患者指導内容を共有しチェックリストやフェイスシートの見直しを行いました。これらの取り組みは、当院における腹膜透析看護の質向上にもつながっています。さらに、連携医療機関の看護師から要望があれば、実践見学やレクチャーの機会を設け、情報共有と技術支援にも努めています。

RRT(腎代替療法)時から多職種で介入
- 1職種で解決困難な場合は早めに他職種へ相談
- 時には一緒に診察に入ってもらい、職種を組み合わせて面談
職種の強みを生かした介入

医師、看護師、臨床工学技士、MSWが参加するPDチームでカンファレンスを行っています。課題が生じた時、どの職種に相談するか明確になっており、課題の早期解決につながっています。
腹膜透析治療を、地域の医療機関とともに
当科では2017年から腹膜透析における地域連携強化を進め、当院だけで完結する医療から地域の訪問看護ステーション、医療機関、介護施設と連携しながら管理する医療への転換を目指してきました。腹膜透析が選ばれる治療となるよう、またより安心して継続いただける治療となるよう、当科では自宅でのケアと当院での治療を円滑に進めるために地域連携を推進しており、2025年4月時点での連携先は89にのぼります。
院内から地域へつなぐ
RRTの段階から医療保険、介護保険をはじめさまざまな制度活用の必要性を判断するため、MSWと連携しています。PD導入前より早期退院支援を開始し、PDを開始した場合に必要となる医療資源を確保するとともに、PD導入後はADLの低下、家族の疲労などを外来で早期に察知しPDチームで共有しています。
IoT(Internet of Things)遠隔モニタリングの腹膜透析
遠隔モニタリングを導入により、当科で腹膜透析メニューの変更が行えます。全身状態はかかりつけ医、訪問診療医に診察していただきながら、患者家族が安心できる連携した腹膜透析を行う体制が整っています。
Western Okayama PD Link
2025年4月には
- 地域の医療機関が統一した指導のもと腹膜透析の管理を行い、患者が安心して治療継続できること
- 岡山県南西部地域の医療機関が連携し、腹膜透析患者の在宅支援を行うこと
を目的に、岡山県南西部の6医療機関とともに「Western Okayama PD Link」を立ち上げました。

を目的に、地域で同じ水準の腹膜透析治療を提供できる体制づくりを進めています。腹膜透析患者の医療で何を大切にしたいか、連携の方法、共通した指導内容を共有するとともに、患者さんお一人おひとりの情報をMicrosoft Teamsで共有し、連携の輪の中心に患者さんがいる体制を整えています。

2025年7月現在の連携医療機関
倉敷中央病院、しげい病院、重井医学研究所附属病院、水島協同病院、玉島協同病院、杉本クリニック、笠岡第一病院、まび記念病院






