歯科

当科の特色

歯科 水川展吉主任部長

がんや血液疾患・心臓疾患の治療に伴う口腔管理や入院患者さんの口腔ケアに注力しており、対象症例の効率的な診察および処置を目的として周術期口腔ケア外来の運用を行っています。口腔外科あるいは口腔内科的領域としては、口腔外科外来において埋伏歯・外傷・口腔領域感染症・薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)・嚢胞・腫瘍・口腔粘膜疾患・顎関節症・顎欠損等に対する治療を行っています。さらに、インプラント治療、歯科ペインクリニック、睡眠時無呼吸症候群に対する歯科的対応を行なう目的で専門外来も設けています。

診療圏 岡山県西部を中心として県北、広島県東部、四国にまで及んでいます。
スタッフ 常勤歯科医師6名が、歯科衛生士18名、歯科技工士5名とともにチーム医療を推進しています。
患者数 総数23,595名、初診患者6,263名(2022年)

診療内容

有病者の治療

全身疾患を有する患者さんに対して抜歯などの観血的処置を行う場合、できるだけ安全に処置が行えるよう当院各科との連携により対応しています。

対象:虚血性心疾患や脳卒中(脳梗塞)により抗血栓療法(ワーファリン、パナルジン、バイアスピリン服用)を受けている、先天性心疾患・心臓弁膜症のため感染性心内膜炎の予防が必要、腎不全により透析治療を受けている、ステロイド剤・免疫抑制剤・骨吸収抑制剤(ビスフォスフォネート製剤、デノスマブ)等による治療を受けている、白血病・多発性骨髄腫・再生不良性貧血などの血液疾患、糖尿病の患者さんです。

全身疾患やその治療に関連して発生する口腔症状の診断や歯科的対応も行っています。例えば、骨吸収抑制剤は骨粗鬆症、固形癌の骨転移や多発性骨髄腫に対して有用性が高く投与患者は多いのですが、難治性の顎骨壊死(MRONJ)発症が問題となっており、その場合、全身麻酔下での外科的治療を行うこともあります。2007年-2022年の間に同薬剤投与に関連して約5,170名の患者さんが当科を受診されています。その他、糖尿病教室、顎変形症、顎骨骨折など、病院内におけるチーム医療に積極的に参加しています。

周術期口腔管理

対象:全身麻酔下での悪性腫瘍の手術、心臓血管外科手術、臓器移植手術(骨髄移植)、整形外科手術、悪性腫瘍に対する化学療法・頭頸部放射線治療を受けられる患者さんです。

目的:1)術後誤嚥性肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、口腔・咽頭・食道手術における術後合併症(呼吸器合併症、SSI)、心臓血管外科手術における感染性心内膜炎等のリスク軽減、2)気管内挿管時における口腔損傷(歯牙破折・脱落)の防止、3)がん治療に伴う副作用の軽減・易感染状態による合併症の予防

内容:当院の術前外来(周術期管理チーム:PMT)や関係診療科と密接な連携を図りながら、手術前あるいは化学療法・頭頸部放射線治療開始前から口腔内評価、口腔衛生指導、歯科衛生士による専門的口腔ケア、動揺歯への対応(プロテクター作製・抜歯)、歯科的応急処置、放射線治療補助装置(37件/2022年)の作製等を行います。手術後も早期から口腔ケアを再開して積極的に合併症のリスク軽減に努めています(周術期口腔ケア外来)。また、化学療法や幹細胞移植、頭頸部放射線治療においては、口腔感染源のスクリーニングとともに感染源除去のための治療介入も行っています。

口腔ケア

急性期病院においては、ICU・EICU・SCU・HCUといった病床の重症入院患者さんや周術期の患者さんの全身管理、早期回復がとても重要になってきます。一方、1990年代に国内で誤嚥性肺炎の予防に関する口腔ケアの効果が実証され、2000年代前半からは感染対策の一つとして位置づけられています。そこで当科でも、自力でのブラッシングが困難な重症入院患者さんに対して、誤嚥性肺炎の発症予防のため専属の歯科衛生士が口腔ケアを行い急性期のチーム医療に参加しています。2020年からはCOVID-19新型コロナウイルス感染症患者さんの口腔ケアにも介入しております。また、口腔疾患の予防やQOL向上の目的で、外来通院が可能な障害者の方にも定期的にケアを実施しています。

口腔外科

初診患者さんを近隣の医療機関から紹介いただき、口腔粘膜病変、前癌病変、口腔腫瘍の診断治療を含め、専門的治療を行っています。悪性腫瘍は、頭頸部外科と密接に連携して治療にあたり、口腔腫瘍手術後に生じた顎骨欠損に対しては、顎骨再建やインプラントによる咀嚼機能回復に積極的に取り組んでいます。また、埋伏歯の開窓や顎変形症の治療にも対応しております。2022年の手術件数は、局所麻酔705件、静脈鎮静36件、全身麻酔81件でした。

対象:1)歯と歯周組織の疾患:抜歯(難易度の高いもの)・根面被覆・歯周再生治療、2)埋伏歯:抜歯・萌出困難歯の開窓など、3)炎症(顎口腔領域の重度感染症)、4)口腔腫瘍(口腔領域に発生する腫瘍)、5)顎変形症(顎骨の変形による咬合のゆがみ)、6)嚢胞(顎骨や口腔軟組織にできる嚢胞)、7)外傷(顎骨の骨折、歯の外傷、顔面部や口腔軟組織の外傷)、8)唾液腺疾患(唾石、粘液嚢胞、がま腫など)、9)口腔粘膜疾患(白板症、扁平苔癬など)、10)顎関節疾患(顎関節脱臼、顎関節症)、11)薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎、12)外傷性三叉神経障害、13)歯性上顎洞炎、14) インプラント(顎骨の状態が悪く一般の歯科医院で施術困難なもの)

歯科インプラント

現在、アストラテックインプラントシステムを用いており、過去29年間(1993年〜2022年)のインプラント埋入患者さんは延べ208名、埋入本数は611本に達しています。治療に際しては術前診断が重要であり、顎骨のCT画像をコンピューター上で分析して骨質や骨量の評価、埋入手術のシミュレーションを行うSimplantシステムを導入しています※。これにより、適切な適応症の選択が可能であり、インプラント治療の安全性や確実性の面でも高いレベルを維持できています。昨年より、腫瘍、顎骨骨髄炎、外傷等によって広範囲な顎骨欠損若しくは歯槽骨欠損を生じ、従来のブリッジや義歯では咀嚼機能の回復が困難な症例に対してインプラントを適用する広範囲顎骨支持型装置に対応できる体制も整えています。近年、国内でインプラント治療に伴う偶発症や事故などのトラブルが多く発生し問題となっています。当科では、治療内容・方法だけでなく、治療の難易度・治療に伴うリスク・長期的な予後についても説明を十分行い、希望があればセカンド・オピニオンにも対応しています。

※地域医療機関からのCT撮影/画像分析のみの患者さん紹介にも対応しています。

スリープスプリント(sleep splint)

いびきや睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の治療に用いられる口腔内装置で、下顎を前に引き出すことにより気道を確保することができます。この装置を装着して就寝することで、いびきや睡眠時無呼吸症候群の状態を改善することが可能となります。当科では2022年に9件に対してスリープスプリントを製作しており高い評価を得ています。医科からの紹介があれば保険が適用されます。

マウスガード(マウスピース、マウスプロテクター)

スポーツを行う際の歯や顎、口の周囲の怪我を予防するための口腔内装置です。動きの早いスポーツや接触の多いスポーツでは、顔面領域に怪我をすることがあります。マウスガードの装着によって歯や顎の怪我が防止できるだけでなく、スポーツ能力が向上する場合もあります。

歯科ペインクリニック

当科では、口腔顎顔面領域における痛み・知覚異常を有する患者さんに対してペインクリニックを行っています。口腔顎顔面には歯だけでなく骨(関節)、筋肉、神経、血管など様々な組織が狭い範囲に集中しており、痛みの原因が複雑であったり、症状が不明瞭であったりして、診断や治療が困難な場合が少なくありません。こうした難治性の痛み・知覚異常のある患者さんに対して、薬物療法やスプリント療法、生活指導等、多角的なアプローチから治療に取り組んでいます。