Knews No.47 HEALTHY LIVING
「潰瘍性大腸炎」のはなし
消化器内科 部長
兼 内視鏡センター センター長
松枝 和宏
●日本内科学会総合内科専門医、指導医●日本消化器内視鏡学会専門医、指導医●日本消化器病学会専門医、指導医●日本肝臓学会専門医●日本消化器がん検診学会認定医●日本ヘリコバクター学会認定医
潰瘍性大腸炎はどんな病気?
潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が起きることによって、慢性的に大腸の粘膜にびらん(粘膜のただれ)や潰瘍(粘膜のはがれ)を生じる病気です。原因は正確には分かっていませんが、遺伝的な要因に腸内細菌や食生活といったさまざまな要因が重なり大腸粘膜で免疫異常をきたすことで生じていると考えられています。病態は解明されつつありますが原因が明らかでないため日本では「特定疾患」いわゆる「難病」に指定されています。
私たちの身体には免疫系という防御システムがあり、ウイルスや細菌などの異物を察知すると体内から追い出そうとします。このときに腫れや痛み、発熱などの炎症が起こります。炎症は体にとって大切なものですが、過剰に起こると身体を傷つけることになります。炎症が消化管に起こる病気を「炎症性腸疾患」といいます。
患者さんの傾向
元々、欧米諸国に多い疾患ですが、日本でも増加傾向の一途をたどり現在では20万人を超え、米国に次いで世界第2位の患者数となっています。今後も食生活の欧米化によりさらに増加すると予測されます。発症年齢のピークは20歳代の若年者ですが最近は50歳代以上の中高年からの発症も増加しています。
どんな症状がありますか
初期は腹痛や下痢、血便が出るようになります。炎症が強いと1日に10回以上のベタベタした粘液に血液が混ざった状態の便が出るようになり、重症になると発熱や貧血を伴ってきます。これらの症状が良くなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すことが特徴です。また腸管の狭窄、大腸がんなどの「腸管合併症」や、腸管以外に起こる虹彩炎、胆管炎、関節炎、壊疽性膿皮症(皮膚のただれ)などの「腸管外合併症」を生じる場合があります。特に発症してから10年以上経過すると大腸がんの発生が一般の人と比べ多いことが知られていますので定期的な大腸内視鏡検査をお勧めします。
潰瘍性大腸炎の治療
治療は薬物療法を中心に食事療法、生活療法を行います。基本的に食事は下痢を起こしやすい脂肪の多いものや消化されにくい食品を避けた方が良いでしょう。しかし寛解期では強い食事制限は不要でバランスの取れた食事であれば問題ありません。また、再燃や悪化の誘因になる精神的身体的なストレスを避けることも重要です。その上で炎症の範囲や重症度から薬物療法を行います。原則として「寛解導入療法(病気を落ち着かせる)」と「寛解維持療法(良い状態を続ける)」があり、どちらもアミノサリチル酸(5-ASA製剤)の内服が基本となります。しかし5-ASA製剤の効かない中等症から重症の患者さんにはステロイド剤あるいは血球成分除去療法や免疫調節剤の組み合わせで治療を行います。
さらに、これらの治療で病気のコントロールがうまくいかない患者さんには新たに開発された分子標的治療薬などの免疫統御療法(異常となった免疫を抑え込む)が行われます。これら薬物治療は経口剤、局所製剤(坐薬・注腸剤)、点滴、皮下注射などから個々の患者さんの年齢、利便性、安全性を考慮した上で治療法を選択します。薬物治療が効かない患者さんや大腸がんを発症した患者さんは大腸全摘術(外科手術)が行われます。
患者さんへメッセージ
患者さんは診断を受けるとき、ご自分が「難病」と伝えられることに戸惑われるかもしれません。しかし、現在ではしっかり治療を継続すれば患者さんも健康な人と同様の生活を送ることが可能です。深刻になることなく気長に気楽に治療を継続することが大切です。私たちは患者さんが病気と向き合っていけるよう、一人ひとりとじっくりお話ししながら丁寧に診療することを心掛けています。もし疑問に思うことがあればお気軽にご相談下さい。