呼吸器内科

間質性肺炎専門外来

間質性肺炎は呼吸器疾患の重要な分野の一つですが、疾患概念や呼称が認知されるようになったのは1960年台と新しく、近年になって社会的に注目されるようになってきた疾患群です。
診断は、専門的な診察、検査が必要で、日本呼吸器学会のガイドラインでは、間質性肺炎に精通した呼吸器内科医、放射線画像診断医、病理医等による集学的検討 (multidisciplinary discussion; MDD)による診断が推奨されています。また診断精度を高めることは、患者さん一人一人に合ったきめ細やかな個別化医療にも繋がると考えられます。
間質性肺炎の中には予後の悪い疾患も含まれるため、間質性肺炎が疑われた際は、できるだけ速やかに専門医に相談・紹介していただきたいと思いますが、一方で患者数の増加も予想され、診断、治療方針決定後の診療に関しては、地域の医療機関との連携も欠かせないと考えています。この地域に専門性の高い、包括的な間質性肺炎の診療体制を構築するために、ご協力いただけますと幸いです。

診療予定日 火曜日午後 木曜日午前
担当医

有田 真知子

有田 真知子、濱川 正光
(隔週で交代)

※セカンドオピニオンのご紹介も受けております。

間質性肺炎について

肺では、末梢の気道、終末細気管支から先の肺胞において、肺胞壁を通して酸素と二酸化炭素の交換が行われており、この肺胞壁を“間質”と呼びます。間質性肺炎は、この肺胞壁(間質)にさまざまな原因で非感染性の炎症や線維化が起こる疾患の総称です。
この肺胞壁が炎症や、続いて起こる線維化で肥厚し硬くなると、ガス交換ができなくなったり、また肺が膨らみにくくなり、肺の容積減少を来すようになります。

間質性肺炎の原因を大別すると

膠原病や血管炎に伴う間質性肺炎
  関節リウマチ、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎など 
環境や職業性間質性肺炎
  過敏性肺炎(ほこりやカビ・鳥の分泌物・羽毛などを慢性的に吸入することにより
  アレルギー反応が生じ引き起こされる)
  塵肺(アスベスト、シリカ、重金属の吸入など)
薬剤性間質性肺炎
  抗がん剤、漢方薬、抗菌薬、抗不整脈薬、抗リウマチ薬など
その他
  好酸球性肺炎、ほか
特発性(原因不明)
  特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、ほか
に分けられます。

原因が確定しない間質性肺炎を特発性間質性肺炎と総称していますが、最近では病態の解明が進んだ結果、疾患ごとの診断基準が整理され、また診断確定に必要な検査手法が充実し、原因が判明する症例が増えてきました。原因が分かれば、疾患ごとに,治療法(薬の種類,量,期間),生活上の注意点などが異なりますので,原因を特定することは非常に重要です。
また、特発性間質性肺炎の中には、発症していないが膠原病素因を持っていたり、環境曝露が疑われる等、原因が確定しないものの、診療において十分配慮する必要がある症例も多数含まれています。

また間質性肺炎は発症形式により
① 急性(1か月以内に発症)
② 亜急性(数か月以内に発症)
③ 慢性(年単位で進行)
④ 慢性間質性肺炎の急性増悪(1か月以内に発症)
と分けられ、急性発症や慢性間質性肺炎の急性増悪では迅速な診断・治療導入が必須であり、亜急性発症も診断確定のための精査を行った上で迅速な対応が必要です。慢性発症は、原因確定と病態把握の検査を行ったうえで、重症度や進行のスピードにより、経過観察が望ましい症例から治療導入が必要な症例までバリエーションがあります。

間質性肺炎を疑うポイント

症状としては乾性咳嗽、労作時(坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作時)の息切れ、身体所見では、両肺背側の聴診で吸気終末にfine crackles(捻髪音)を聴取することが、間質性肺炎を疑う重要なポイントです。また胸部レントゲンではびまん性に網状影やスリガラス影を認めたり、肺の容積減少を認めたりすることがあります。

当院における間質性肺炎の診断

問診

原因検索や、病歴把握のため、詳細な問診が必要で、当院では独自の問診表を作成し、患者さんに記入していただいています。

身体所見

肺野聴診の他、膠原病関連身体所見(皮膚、爪、関節、筋、神経病変)など全身を診察します。

画像検査

胸部レントゲン HRCT(高分解能CT) 過去の画像の取り寄せ

肺機能検査

FVC(努力性肺活量)、DLCO(拡散能)、FEV1(一秒量)等

6分間歩行検査

ルールに従い6分間歩行し、慢性間質性肺炎の運動負荷時のガス交換能の評価を行います。予後予測にも有用です。

血液検査

間質性肺炎のマーカー、膠原病の自己抗体、過敏性肺炎の抗原特定のための抗体検査等

心エコー、右心カテーテル

肺高血圧の評価(肺動脈性、間質性肺炎による肺血管床破壊)

動脈血ガス
気管支鏡検査

必要かつ適応ある症例には、気管支肺胞洗浄、肺生検(クライオ肺生検)を行います

胸腔鏡下肺生検

必要かつ適応ある症例に、全身麻酔下で行う肺生検です

その他の検査

膠原病、血管炎関連間質性肺炎が疑われる症例に、骨格筋MRI、皮膚生検、筋生検を行います。 
       
これらの病歴、身体所見、検査データ、画像、病理組織像を元に、多分野集学的検討(MDD)を呼吸器内科医、放射線画像診断医、病理医、(時にはリウマチ内科医も参加)にて行い、診断、治療方針を決定します。

間質性肺炎の治療

原因、発症の仕方、年齢、既往症などを考慮して治療法を決定します。また治療導入にあたり、リウマチ内科、血液内科とも連携しています。

経過観察

慢性発症の場合、自覚症状に乏しく、肺機能低下が軽微な場合、3-6か月ごとの無治療経過観察をまず選択します。3-6か月で努力性肺活量が低下すれば、薬物治療の適応と考えます。

薬物治療

① 抗炎症薬

ステロイドホルモン 免疫抑制剤(タクロリムス(プログラフ)、シクロスポリン(ネオーラル)、アザチオプリン(イムラン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)など) 
肺生検病理像でリンパ球などの炎症細胞浸潤の多い、気管支肺胞洗浄でリンパ球比率が高い疾患を中心に抗炎症薬の適応となります。
抗炎症薬はいずれも副作用が強いため、適応疾患を見極めることが重要です。また治療開始前、開始後も継続して副作用チェックを行い、対策します。

② 抗線維化薬

特発性間質性肺炎の中でも最も線維化が強く、抗炎症薬が推奨されていない特発性肺線維症の治療薬として登場した薬剤です。現在、ニンテダニブ(オフェブ)とピルフェニドン(ピレスパ)の2剤が上市されています。また、ニンテダニブは、抗炎症薬治療を行っても線維化が進行したり、抗炎症薬の適応のない進行性の線維性間質性肺炎に対し、有効性が示されています。抗線維化薬は抗炎症薬に比べれば、比較的副作用は少ないものの、治療前、治療後の副作用対策は必要です。

・その他の治療

血漿交換(血液内科施行)

皮膚筋炎合併急速進行性間質性肺炎や血管炎による肺胞出血など、重篤な疾患に対して行います。

呼吸リハビリテーション

特発性肺線維症を始めとする慢性間質性肺炎では下肢筋力低下が運動耐容能に関連していること、骨格筋量の減少が予後と関連することが知られており、下肢の運動療法を主体とする呼吸リハビリテーションが推奨されています。労作時呼吸困難や健康関連QOLも改善することが示されています。

在宅酸素療法

労作時の低酸素血症を示す、慢性間質性肺炎に対し在宅酸素療法が推奨されており、導入により健康QOLや運動耐用能の改善が期待されます。

予後

予後は疾患や、発症の仕方、また同一疾患でも実際に肺に起こっている病変によりさまざまです。また、年齢、既往症や合併疾患、治療の副作用などでも予後が左右されます。

当院の間質性肺炎診療

 

 

ご紹介いただくタイミングと地域連携

乾性咳嗽、労作時息切れ等の自覚症状のある患者さん、自覚症状がなくても胸部画像や聴診で間質性肺炎を疑う患者さんがいらっしゃれば、ご紹介ください。特に急速に症状や画像の進行を認める場合は、救急外来を含め早めのご紹介をお願いいたします。

ご紹介いただいた患者さんは、間質性肺炎の原因検索や重症度の把握、治療方針決定のため、短期間の入院を含め当院でしばらく診療をさせていただきます。その後、経過観察を選択したり、治療開始後安定した経過を維持できている患者さんは、地域のご施設に逆紹介やご紹介をさせていただき、連携して診療していきたいと考えています。間質性肺炎の地域連携にどうかご協力賜わりますようよろしくお願い申し上げます。

なお、セカンドオピニオンにも対応いたします。どうかお気軽にご紹介ください。

患者の皆さまへ

  • 間質性肺炎専門外来の受診をご希望の場合、かかりつけ医の先生を通じてご紹介していただくか、セカンドオピニオン外来の申込みをお願いします。
  • 2018年12月から間質性肺炎の患者会を半年に1回開催しておりましたが、コロナ禍で休会となっておりました。2023年6月頃に再開する予定です。詳細が決まり次第、ご案内させていただきます。