整形外科

人工関節・関節機能再建センター

概要

股関節や膝関節の痛みのため立ち上がりや階段の上り下り、歩行などがしにくくなることがあります。関節の加齢により軟骨や骨の摩耗をおこしてこのような症状になることが多く、変形性股関節症や変形性膝関節症の患者数は人口の高齢化により増加しています。このような変形性関節症のほか外傷性関節症、関節リウマチ、骨壊死などによる下肢関節障害では、人工関節置換術を行うことにより歩行が容易になって日常生活動作が大幅に改善します。

以前は、人工関節自体の耐久性や骨の中でのゆるみの問題などにより10〜20年で再手術を要する可能性があるため、60歳以上が手術対象となっていました。しかし近年は、生活の質などの価値観の変化や人工関節の改良もあり、50歳以下で手術をすることも増えてきています。また併存症のある患者でも各科との連携で手術可能となることも多くなり、90歳代で人工関節置換術を行うこともあります。当科では平成11年の人工股関節置換術46件、人工膝関節置換術55件だったのが、平成21年はそれぞれ107件、148件と2倍以上に増加しました。このような症例数の増加に対し、より専門的に充実した医療を行う目的で、平成22年4月、人工関節センターが開設されました。

各関節の人工関節の進歩により、現在では、肩関節、肘関節、足関節、手関節においても人工関節手術が行われています。それぞれの関節で対象疾患や治療選択肢に違いはあるものの、手術適応を厳密にして、正確な手術と丁寧な術後リハビリテーションを行えば、いずれの関節の人工関節においても良好な結果を得ることができるようになっています。

対象疾患

股関節 変形性股関節症、外傷性股関節症、急速破壊型股関節症、大腿骨頭壊死、関節リウマチ、臼蓋形成不全症など
膝関節 変形性膝関節症、外傷性膝関節症、大腿骨顆部骨壊死、関節リウマチ、複合靭帯損傷など
肩関節 変形性肩関節症、外傷性肩関節症、上腕骨頭壊死、関節リウマチ、腱板断裂性肩関節症など
肘関節 関節リウマチ、変形性肘関節症、重度の肘関節内骨折など
足関節 変形性足関節症、関節リウマチ、重度の成人扁平足、外反母趾など
手関節 関節リウマチ、変形性手関節・手指関節症など

診療圏

おもに岡山県西部を中心にしていますが、兵庫県から広島県、山陰から四国にまで及んでいます。

診療内容

股関節は伊藤宣・河本聡、膝関節は伊藤宣、肩関節は高山和政、肘関節は伊藤宣・津村卓哉、足関節は伊藤宣、手関節や手指関節は津村卓哉が担当します。まず、外来で手術適応と認められれば、術前検査を行い、検査結果や併存症などをチェックしたのち、入院日、手術日を決定し、入院までにリハビリ受診、必要なら自己血貯血などを行います。当院では心疾患、腎疾患、糖尿病など併存症がある場合でも、各専門科でチェックした上で手術可能とされれば手術を行っています。手術は低侵襲手術を基本とし、手術翌々日から起立開始、一般的な人工関節置換術であれば術後約3週間で退院となります。

股関節は3次元術前計画ソフトウェアを用いて術前計画を行い、当科で開発した骨盤ガイド計を使用することで人工関節の設置、脚長に正確を期すようにしています。主にセメントを使用しない(セメントレス)人工関節を用いていますが、高齢、関節リウマチ、骨粗鬆症など骨質が不良の場合はセメント固定を行います。手術の展開方法も、患者さんのニーズに応じて術後の合併症が少なくなるような方法を選択して行っています。一方、膝関節では原則的にセメント使用の人工関節を用いています。また内側のみの変形の方には、可能な限り単顆型人工関節を使用しています。単顆型人工関節の場合、傷が小さく、回復が早く、関節の動きもよい傾向があります。また、膝関節では神経ブロックや局所麻酔を併用して術後の痛みの軽減につとめ、早期可動域訓練を行っています。肩関節では10cm程度の皮膚切開で手術を行っています。骨質や対象疾患に応じてセメントを用いることもあります。術後は装具による固定を行い、早期からリハビリテーションを行います。手術は通常、全身麻酔で行いますが、全身麻酔に懸念のある方に対しては伝達麻酔(肩のみ麻酔を行う)でも手術は可能です。

一般的には人工関節置換術を行えば術前の痛みは軽減して短期的な効果が出ますが、問題はこの状態が長期的に維持できるかどうかです。長期的に摩耗、ゆるみ、破損、脱臼、感染などの問題がなく経過するためには、手術機種選択を含めた計画、手術手技、周術期の管理、後療法などが重要で、経験を持ったスタッフが専門的にチーム医療を行う必要があります。人工関節センターとして対応することで、今後さらに長期成績の向上を目指したいと思います。

股関節について

股関節は3次元術前計画ソフトウェアを用いて術前計画を行い、スマートフォンを利用した簡便で正確な骨盤ガイド計を使用することで人工関節の設置、脚長に正確を期すようにしています。主にセメントを使用しない(セメントレス)人工関節を用いていますが、高齢、関節リウマチ、骨粗鬆症など骨質が不良の場合はセメント固定を行います。手術の展開方法も、患者さんのニーズに応じて術後の合併症が少なくなるような方法を選択して行っています。近年では、社会の高齢化におうじて高齢者の変形性股関節症患者さんが増加しています。また以前はステロイドという薬によってのみおこっていた大腿骨頭壊死が、薬を飲んだことのない方にも起こるようになっています。そのような場合にも、人工股関節全置換術は大変有用です。また若くてまだ人工関節は受けたくない、という方には、少し時間はかかりますが、骨切り術などによって対応することも可能です。

膝関節について

膝関節に変形があって痛みがある方には、人工膝関節全置換術を第一選択としています。人工膝関節全置換術の術後成績は、非常に安定していて、多くの方が20年以上再手術なしで過ごしておられます。また内側のみの変形の方には、可能な限り単顆型人工関節を使用しています。単顆型人工関節の場合、傷が小さく、回復が早く、関節の動きもよい傾向があります。また、人工関節で術後膝の曲がりが制限されるのでは、という心配をお持ちの方、あるいはまだ若くて人工関節は先延ばしにしたいという希望をお持ちの方には、脛骨で骨切りを行い、O脚を矯正することで痛みをとる手術も積極的に行っています。骨切り術は人工骨やプレートの進歩により、以前よりかなり短い入院期間で済むようになっています。膝関節では神経ブロックや局所麻酔を併用して術後の痛みの軽減につとめ、早期可動域訓練を行っています。

一般的には人工関節置換術を行えば術前の痛みは軽減して短期的な効果が出ますが、問題はこの状態が長期的に維持できるかどうかです。長期的に摩耗、ゆるみ、破損、脱臼、感染などの問題がなく経過するためには、手術機種選択を含めた計画、手術手技、周術期の管理、後療法などが重要で、経験を持ったスタッフが専門的にチーム医療を行う必要があります。人工関節センターとして対応することで、今後さらに長期成績の向上を目指したいと思います。

肩関節について

2012年から当院でも、積極的に人工肩関節置換術行って参りました。股関節、膝関節と同様に、関節軟骨が磨り減った、いわゆる変形性関節症の患者さんを対象に治療を行っております。現在の医学では摩耗した軟骨を増やす方法はいま確立されておりませんので、軟骨が磨り減ったことにより肩関節を動かした際に痛みが生じたり、可動域に制限が生じている場合には、人工関節に置換する本法は、最も有効な手段の一つといえます。術後は早期から痛みが取れ、またリハビリを行えば関節の可動範囲も広がるのが特徴と言えます。

肩関節について 図1,2

2014年4月からは本邦でもリバース型人工肩関節置換術が使用可能となり、有効な治療オプションになりつつあります。通常の人工肩関節との適応の違いは、「腱板機能が残存しているかどうか」に依ります。以前では、腱板が機能していない患者さんに対する有効な治療法は確立されていませんでした。しかし、リバース型人工肩関節を行えば、たとえ腱板が高度に欠損、萎縮していても、肩の機能を改善する事が可能です。しかし本法は解剖学的な肩関節を再建しているとはいえず、適応には慎重を要します。そのため肩関節学会の承認を受けた施設、医師のみが手術を行う事が可能です。

肩関節について 図3

人工股関節や人工膝関節に比べ、人工肩関節はまだまだ認知されておりませんが、股、膝関節と同様に、適切な手術と適切なリハビリテーションを行えば大変良好な結果が得られます。手術とリハビリテーションが治療の両輪であり、両者が同じ方向を向いていなければ、良好な結果を出すことはできません。チームが一丸となって治療にあたる当院の人工関節センターに是非ご相談ください。

肘関節について

肘関節はやや特殊な関節で、手術が必要なほど変形が強くなることはそれほど多くありません。しかし疼痛が強くなり、関節の動きが悪くなると、食事をする、服を着替えるなどの日常生活に大きな支障がでるようになります。このような場合に人工肘関節が適応になることがあります。人工肘関節は、痛みをとる力が強く、可動域も改善できるため、患者さんに非常に喜ばれる手術の一つです。ただし人工肘関節は手術件数が少ないことから、どの施設でもできる手術ではありません。適切な手術手技を行い、術後も丁寧なリハビリテーションを行わないと、術中術後に合併症が起こる可能性が高くなります。当院には非常に経験の豊富な術者がいますので、安心して手術を受けていただくことが可能です。肘関節の慢性的な痛み、不安定性、動きの悪さでお困りの方は、ぜひご相談ください。

足関節について

高齢者が増えたことから、わが国においても変形性足関節症の患者さんが増えています。このような場合、これまでは足関節を固定するしかすべがありませんでした。しかし新しい人工関節の登場や、どのような手術方法をすべきか、術後どのようなリハビリテーションをしたらいいのかわかってきたことで、以前にはあまりよい結果が得られなかった人工足関節によって、良好な成績が得られるようになってきました。ただしどのような方にも手術ができるわけではなく、専門的な判断が必要です。場合によって、固定術のほうが適切と考えられる場合もあります。また変形が軽くて痛みが強い方の場合は、脛骨の骨切りを行って体重がかかる方向を変えて痛みをとる方法もあります。これらの手術は、いずれも比較的難易度の高い手術になります。当院には豊富な手術経験をもつ術者がいますので、ぜひご相談ください。また足部は、非常に多くの骨と関節がある部分で、外反母趾や扁平足を初めとして、多くの疾患があります。外反母趾の原因が扁平足であることもあります。足部に痛みのある方は、ご遠慮なく受診してください。

手関節、指関節について

これらの人工関節置換術は、主にリウマチ関連疾患の患者さんが対象になりますが、外傷後あるいは変形性関節症に対しても患者さんの状態に適合した人工関節置換術を実施しています。また部分的な関節固定術や、靭帯機能を代用する人工材料などを用いることで、これまでより多くの症状、年齢層でさまざまな手術を受けることが可能になり、手術の選択肢も増え、術後のリハビリテーション期間も短くなっています。これらの部位の痛みやお悩みのある患者さんは一度、手外科専門医にご相談ください。
(※手関節の人工手関節置換術に関しては2017年11月から可能です。日本手外科学会が作成した適正使用指針を遵守し、手外科専門医の講習受講が義務づけられています。)

2021年の手術件数

 

術式

件数

股関節

人工股関節全置換術

92

人工股関節再置換術(周囲骨折手術を含める)

9

人工骨頭置換術

82

股関節周囲骨切り術

0

膝関節

人工膝関節全置換術

82

人工膝関節再置換術(周囲骨折手術を含める)

0

人工膝関節単果置換術

6

膝関節周囲骨切り術(高位脛骨骨切り術を含む)

1

靭帯再建術

12

半月板手術

28

膝蓋骨亜脱臼手術(内側膝蓋大腿靭帯再建術を含む)

2

肩関節

人工肩関節置換術

5

リバース型人工肩関節置換術

7

腱板再建術

220

脱臼再建術(病名が脱臼であるもの)

11

肘関節

人工肘関節全置換術

0

靭帯再建術

1

足関節

足関節固定術

7

人工足関節全置換術

2

人工距骨置換術

1

靭帯再建術

2

足関節周囲骨切り術

0

手関節

手関節部分固定術

6

TFCC手術

5

人工手関節置換術

0

指関節

人工指関節置換術(人)

3

人工指関節置換術(指)

3