肝胆膵外科が担当する主な病気

当院肝胆膵外科の特徴

私たちは地域がん診療連携拠点病院であるとともに、膵臓手術を年間50例以上、肝臓手術を年間100例以上行い、全国有数の経験を有しています。
また、肝胆膵高度技能医の指導の下、適切な手術選択を行うとともに、安全な手術を行っています。さらに、多数の内視鏡技術認定医が在籍し、一部のがんや膵腫瘍、さらに肝腫瘍のほとんどに対して、体の負担の少ない、腹腔鏡手術を積極的に行っています。
このような体制のもと、膵臓手術において、術後入院期間の平均は10.7日、肝臓手術では、平均8.2日で、多くの患者さんが2週間以内に退院しています。
また、消化器内科と定期的なカンファレンスとして消化器キャンサーボードを行い、手術治療、進行癌に対する術前の化学療法、放射線療法を行い、治癒を目指した治療に努めています。
放射線治療では、精度の高い放射線治療システムである強度変調放射線治療(IMRT)を導入し、良好な局所制御効果を得ることに成功しています。
化学療法(抗がん剤治療)では、腫瘍内科(リンク)と協力し、エビデンスに基づいて種々の抗がん剤を用いた全身化学療法を行うとともに、がんクリニカルシーケンス検査を利用したゲノム医療も実施しています。

腹腔鏡下手術

2012年より保険で膵臓領域、2016年からは肝臓領域で腹腔鏡下手術が可能となりました。
腹腔鏡下手術はお腹に小さい穴をあけてトロッカーという筒状の器具をいれ、カメラを見ながら手術を行います。
特に膵頭部の腫瘍、大きく肝臓を切る手術では腹腔鏡下手術を行うにあたり厳しい施設認定があることから、施行できる病院は限られています。倉敷中央病院では内視鏡技術認定医が多数在籍し施設認定されており、膵頭部、膵体尾部、肝臓のいずれの病気に対しても積極的に腹腔鏡下手術を行う体制を整え、積極的に腹腔鏡による治療を行っています。
これにより患者さんの体への負担を減らし、早期退院を可能としています。

膵臓の腫瘍

膵臓は
1)消化液を分泌する外分泌組織
2)インスリンなどを分泌する内分泌組織
から成っており、それぞれ悪性腫瘍ができます。
1)膵がんは消化液を分泌する外分泌組織から発生する癌です。
2)膵内分泌腫瘍(NET/NEN)はホルモンを分泌する内分泌組織から発生する癌です。
3)由来がはっきりしない腫瘍としてSPNや、SCNおよびMCNといったのう胞性疾患(粘液など液体のたまった袋状のもの)があります。

1)膵癌(膵がん)
1)どんな病気でしょうか?

膵臓は、胃の裏側にある長さ約20cmの細長い臓器です。「膵がん」とは、膵臓から発生した悪性の腫瘍のことを指します。近年、膵がんと診断される人は増加傾向にあり、2021年の全国統計では膵がんは、肺がん、大腸がん、胃がんに次いでがんによる死亡数が4番目に多いがんでした。
腹痛・背部痛、食欲の低下、黄疸(皮膚や尿が黄色、橙色になります)、体重の減少、糖尿病の発症や悪化などをきっかけにエコーやCTなどで見つかることが多く、内視鏡的逆行性膵管造影検査 (ERCP) や超音波内視鏡 (EUS) による細胞診・組織診で診断が確定します。他のがんと同様、早期発見が大事ですが、膵がん発見に有効な検診は今のところありません。
家族に膵がん患者がいる人(家族性膵癌など)、稀な遺伝性疾患を有する人(遺伝性膵炎、Peutz-Jeghers症候群、遺伝性非ポリポーシス大腸癌など)、また糖尿病、肥満、慢性膵炎、喫煙、アルコール摂取などとの関連が報告されています。ほかに、膵臓にのう胞がある人や膵管に拡張が見られる人に膵がんの発生が多いことが知られており、慎重な経過観察が必要な場合があります。上記に該当する方はお気軽に当院にご相談下さい。

(表)

2)どんな治療が行われるのでしょうか?

膵がんの治療法は、「手術」とそれ以外の「非手術治療」に大きく分けられます。非手術治療には、化学療法(抗がん剤による治療)と放射線療法、などがあります。放射線療法には通常抗癌剤が併用されます。
また治療は、根治(完治)を目指したもののほか、がんに伴う症状や、精神・心理的苦痛、治療によって起こる副作用に対して、予防や症状の緩和、軽減を目的として行う治療(支持療法と呼ばれます)があり、必要に応じて両者は並行して行うことが多いです。

(図)

近年、膵がん治療にも大きな進歩がみられますが、根治を目指した治療法の中心は手術です。膵がんの治療法は、がんの進行の程度(ステージや病期)、患者さんの年齢や併存疾患、身体的な状態、症状の有無・程度などをもとに、そして患者さん、ご家族の希望に基づいて決めていきます。
がんの進行の程度は、CT、MRI、内視鏡下エコーなどの画像検査によって、がんの大きさ、周囲の血管や臓器との関係、他の臓器やリンパ節への転移の有無・程度など評価します。
膵がんに対する手術法は、膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘術などがありますが、いずれも高度な技術を要するもので手術時間も5~10時間程度かかります。私たちは、手術前に撮影するCT画像から3D画像を作成し、手術前にシミュレーションをしっかり行うことで、難度の高い手術をより安全に行えるように努めています。

(動画)

がんの病状から手術が難しい場合や患者さんの希望により化学療法(抗癌剤治療)や放射線療法を選択いたします。また、これらの治療法を組み合わせる方法(集学的治療といいます)を行っています。
倉敷中央病院では、手術は私たち外科の医師が担当しますが、すべての手術症例について消化器キャンサーボードにて、速やかに治療方針を決定するとともに集学的治療を円滑に進め、それぞれの患者さんにとって最適な治療選択肢を決定します。

2)神経内分泌腫瘍(NET/NEN)

倉敷中央病院では、NET外来を開設し、NET/NENに特化した診療を開始いたしました。
腫瘍内科、外科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科など多数の科の専門医師があつまり、NET/NENの患者さんの診断、治療法を検討するオンコロジーボード(リンク)を開催しており、それぞれの患者さんに適した総合的な治療法を提供しています。また、京都大学、関西電力病院、国立がん研究センターをはじめとして全国の専門病院と連携して積極的な情報交換を行っています。

1)どんな病気でしょうか?

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor/neoplasm: NET/NEN)はホルモンを分泌する全身の内分泌組織から発生し、増殖する腫瘍です。
一番多い発生部位は肺で、次いで直腸、膵臓、十二指腸です。日本では10万人あたり3.5人の発生率で、消化器癌の発生率の約1/20です。
一般的に良性と思われがちですが、基本的には転移をする悪性腫瘍で、悪性の度合いが良いものから悪いものまで幅広いという特徴があります。

NENの悪性度は、増殖力マーカーであるKi67と分化度で分類され、生存率と関係します。(WHO分類2019)

NET/NENの90%以上は単発で遺伝的背景がなく発生し、どの様な人に発生しやすいか現在のところ分かっていません。
一方、5-10%の人には遺伝子疾患の背景があり、NETの診断から見つかることもあります。その場合には治療方針も通常と異なり、遺伝性疾患の治療も必要となることがあります。MEN1(多発性内分泌腫瘍症1型)、VHL(フォンヒッペルリンドウ病)が代表的ですが、内分泌内科、消化器内科など多くの科にわたる診療が必要です。
倉敷中央病院ではオンコロジーボード(リンク)を定期的に開催し、オクトレオスキャンなどNET特有の画像診断も駆使しながら、幅広い視点から連係のとれた診療を行っています。

2)どんな治療が行われるのでしょうか?

外科治療・局所治療、薬物療法、放射線療法のそれぞれを組み合わせる集学的治療が重要です。

外科治療・局所治療
NEN/NET治療の第一選択は切除(内視鏡下切除、外科切除)で、腫瘍を全て取りきれる場合には最も効果の高い治療です。肝転移と言った遠隔転移を有する場合でも腫瘍の進行度、腫瘍の性格を考慮して切除を行うことがあります。外科切除で腫瘍を取りきることが難しい場合でも可能な限り切除を行ういわゆる減量手術を行うことで機能性症状の緩和や生命予後の延長を図ることがあります。
また、NET/NENでは80%以上が肝臓に再発あるいは転移します。外科切除により全て取り切ることができない場合、カテーテルを用いて兵糧攻めを行う塞栓療法(TACE)、直接針を刺して腫瘍を高温で焼くラジオ波焼灼術(RFA)などの局所療法を行います。

薬物療法
近年、膵・消化管原発の神経内分泌腫瘍を中心に新たな治療薬を用いることができるようになり、これまで治療が難しかった患者さんにも以下のような効果のある治療法が出てきました。
 ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド)
 エベロリムス
 スニチニブ(膵臓)
 ストレプトゾシン

放射線療法:ペプチド受容体核医学内用療法(PRRT)
PRRTとは、NETの受容体によく結合する物質に放射性物質(ラジオアイソトープ)を結びつけた薬剤を患者さんに注射し、体内に集まった放射性物質で治療する方法です。
2022年3月から倉敷中央病院でも治療を行っています。

現在、遠隔転移のNET/NENに対して、外科治療・局所治療、薬物療法、放射線療法の使い分け、順序に明確な基準はありません。その原因として、NET/NENはゆっくり進行する患者さんから急速に進行する患者さんまで様々で、さらに遺伝子疾患の背景がある患者さんとそうでない患者さんでも治療方針が異なると言った病気の幅広さがあります。
従って、それぞれの患者さんで適切な治療を選択する必要があり、また、治療選択肢が多いことから様々な治療法に精通したオンコロジーボードによる治療を行うことが非常に重要です。
倉敷中央病院では腫瘍内科を中心としてオンコロジーボードを開催し、症例にあった適切な治療の選択を行っています。

3)膵嚢胞性腫瘍
1) どんな病気でしょうか?

粘液など液体のたまった袋状の形をとる病気で、代表的な膵のう胞性腫瘍には膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)、mucinous cyst neoplasm (粘液嚢胞性腫瘍:MCN)、serous cyst neoplasm (漿液嚢胞性腫瘍:SCN)、solid pseudopapillary neoplasm (SPN)などがあります。また、 前述の膵神経内分泌腫瘍や特殊な膵癌なども液体のたまりを作り、膵のう胞性腫瘍と診断されることがあります。のう胞性腫瘍の悪性度は様々ですので、適切な治療を行うためには、できる限り正確な診断が必要です。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は嚢胞性腫瘍の中では、最も多くみつかります。比較的高齢の方に多く、症状がないことが多いです。そのため、しばしば健診や他の病気のために撮影されたエコーやCTなどで発見されます。
粘液嚢胞性腫瘍(MCN)は IPMNに次いで頻度の高い、粘液産生性ののう胞性腫瘍です。40‐60代女性の膵体尾部に好発します。
漿液膿胞性腫瘍(SCN)は、膵嚢胞性病変の約10-16%を占める良性腫瘍です。多くが無症状で、検診や他疾患の精査中などに診断されることが多い腫瘍で、良性腫瘍ですが、悪性腫瘍との見分けがつきにくい場合には手術の適応となります。
充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)は、膵悪性腫瘍の0.2-2.7%のみを占める比較的稀な膵腫瘍です。20-30代の女性の割合が87.8%を占めます。約6割が腹痛を機に発見されます。

2)どんな治療が行われるのでしょうか?

SCNの典型例や後述するIPMNで悪性のリスクの少ないもの以外の腫瘍は原則的に外科手術が推奨されています。一般的に嚢胞性膵腫瘍は悪性であっても、膵がんと比べると悪性の程度が低いことが多く、倉敷中央病院では積極的に腹腔鏡下手術を行い、患者さんの負担ができるだけ少ない手術を行っています。

膵臓手術の種類

倉敷中央病院で行っている膵臓手術は、切除する部位別に膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘術があり、開腹手術と腹腔鏡下手術があります。
患者さんひとりひとりの病状や全身の状態により、手術の術式を細かく調節し、患者さんのお考えやご希望を考慮した治療を選択することを心がけています。

膵頭十二指腸切除術

腫瘍が、膵臓の頭の部分(膵頭部)にできている場合に実施する手術です。胃全体と幽門(十二指腸につながる胃の出口)を残す幽門輪温存膵頭十二指腸切除術と呼ばれる手術、あるいは胃の大部分を残す亜全胃温存膵頭十二指腸切除術と呼ばれる手術を行っています。
がんは、まわりの組織に転移しやすいため、転移する可能性のある領域リンパ節と呼ばれるリンパ節も併せて切除します。肝臓につながる太い血管(門脈)にがんが浸潤している場合は、門脈もあわせて切除します。倉敷中央病院では腫瘍の悪性度を基準に、腹腔鏡による手術を行っています。

膵体尾部切除術

腫瘍が、膵臓の体部・尾部の部分(膵体尾部)にある場合に切除する手術です。膵がんのまわりのリンパ節を切除するため、脾臓も同時に摘出します。腫瘍ができている場所や大きさなどによって、左の副腎やその他の臓器を切除する場合もあります。
悪性度の低い腫瘍の場合は、脾臓を温存したり、切除を膵臓の一部にとどめることもあります。いずれの場合でも倉敷中央病院では腹腔鏡による切除を第一選択としています。