口蓋裂外来
原則毎月第2木曜の午後に口蓋裂外来を設けております。当外来では、当科と協力して診療にあたってくれている外部の2名の矯正歯科医、当法人の言語聴覚士とともに、口蓋裂の専門診療を行っております。
口蓋裂は他にも口唇裂、顎裂を伴っていることもあり、口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)とも呼ばれます。それぞれに関して簡単にご紹介します。
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)とは、以下、3つの状態があり、それぞれ単独の場合や2つ、3つが組み合わさる場合があります。また、左右どちらかの片側の場合や、両側の場合もあります。
口唇裂
鼻から口唇までが完全に離開している完全唇裂、口唇の一部までが割れている不全唇裂、皮膚表面は連続性がある皮下唇裂などさまざまな程度があります。
顎 裂
歯茎の離開、骨部分の陥凹のみの場合もあります。
口蓋裂
口蓋垂から歯茎まで離開している完全口蓋裂、歯茎の内側の骨の部分まで離開している硬軟口蓋裂、主に骨のある部分より後方のみ離開している軟口蓋裂、粘膜表面は連続しているが粘膜下の筋組織の離開がある粘膜下口蓋裂などがあります。
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)をもって出生された場合
口蓋裂の全ての型に当てはまりますが、口蓋裂が判明した場合には、退院後、あるいは外来通院中の方は外来受診として口蓋裂外来を定期的に受診していただき、言語聴覚士からの今後の言語治療の説明、形成外科医師、矯正歯科医師による成長の確認やご相談などを行っていきます(口唇裂のみの場合は、通常の形成外科外来のみでの受診の場合もあります)。
口唇裂に対して
可及的早期より唇裂部を寄せるように医療用テープによるテーピングを実施していただきます。手術時期は3ヶ月頃を目安に口唇形成術を行います。
顎裂に対して
出生後早期の特別な処置、治療はありません。口蓋裂を伴っていることが多い(完全口蓋裂の場合)ので、その場合は口蓋床を早期に装着してもらいます。
口蓋裂に対して
硬軟口蓋裂、完全口蓋裂の場合は出生後、早期に口蓋床(口蓋部分を覆う樹脂製の装具)を装着していただきます。
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)の手術
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)について、何回かの段階的な手術を行っていくことになります。
口唇裂初回手術(3か月頃)
口唇裂に対して口唇形成術を行います。入院のうえ、全身麻酔での手術となります。入院期間は4日から10日ほどです。
口蓋裂初回手術(1歳半~2歳頃)
口蓋形成術は成長の過程にもよりますが、 1歳半頃から2歳頃に行うようになります。入院のうえ、全身麻酔下の手術を行い、入院期間は個人差も大きいですが4日から10日ほどが多いです。口の中の手術なので、なかなか飲水や摂食をしてくれないこともありますが、その間は点滴で補います。飲水、摂食に問題がなくなれば退院できます。口蓋形成術後に一部に穴が開いてしまう口蓋瘻孔が生じることもありますが、保存的に閉鎖せず、漏れにより支障が生じる場合は瘻孔閉鎖術が1、2年後に必要になることもあります。
初回手術から就学前の時期(4~6歳頃)
口唇や鼻の変形が大きい場合には軽めの追加手術を行うことがあります。また、口蓋裂の場合で、口蓋、咽頭の働きが悪く、言葉や経口摂取に支障のある場合は口蓋の再形成術や、咽頭弁手術といった、鼻咽腔閉鎖機能改善手術を行うこともあります。
小学生の時期
顎裂がある場合は歯牙の成長や歯科矯正の進み具合にもよりますが、顎裂部への腸骨移植手術を行います。この手術で口蓋前方部、口唇の裏側に鼻腔への交通が残っていたとしても全て閉鎖されることになります。
中学生の時期以降
唇裂の場合の鼻の形を整える最終手術は中学後半以降になります。同時に口唇の修正手術を行うことも多いです。
上顎、下顎の成長具合によっては噛み合わせや外観を改善するために、顎の骨切り手術を行うこともあります。上顎の骨切り手術が予定される場合には鼻の最終手術は骨切り手術が終了してからになります。
口蓋裂の言語治療
口蓋裂があると、鼻咽腔閉鎖機能不全のため、手術前には鼻から食物が漏れることがあります。手術後も、鼻から息が漏れる、通常とは異なった発音をするため発話が不明瞭になることがあります。そのため言語聴覚士が、下記の時期に応じた助言・指導、訓練を行います。
0~2歳頃(手術前)
運動発達や離乳食の状況を確認し、鼻咽腔閉鎖機能や食事に対する助言・指導を行います。必要であれば、Hotz床の作成を提案することもあります。
2歳(手術後)~4歳頃
言語発達や鼻咽腔閉鎖機能、構音(発音)を確認し、鼻咽腔閉鎖機能や構音に対する助言・指導を行います。必要であれば、口蓋閉鎖床の作成を提案することもあります。
4歳以降
言語発達や鼻咽腔閉鎖機能、構音(発音)を確認し、この時期でも鼻咽腔閉鎖機能不全や発音の不明瞭さが継続している場合、リハビリで言語治療(構音訓練)を行います。必要であれば、軟口蓋挙上装置(PLP)の作成や手術を提案することもあります。
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)の歯科治療
口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)では、鼻から息や食物が漏れる鼻咽腔閉鎖機能不全以外にも、永久歯の先天性欠如や歯列不正、上顎の劣成長による咬合異常を伴います。出生時の哺乳や手術の補助装置、幼少時の発音訓練装置の装着は歯科医師が担当します。また小児、思春期においても、歯並びや咬み合わせを良くしていくために、下記の時期に応じた歯科矯正治療を行います。
0~2歳頃
哺乳に必要なHotz床や初回手術前に使用するNAM等の装置の作製、装着を行います。
2歳(手術後)~5歳頃
鼻咽腔閉鎖機能や構音(発音)を確認し、必要であれば、口蓋閉鎖床や軟口蓋挙上装置(PLP)等を作製します。
5歳~小学生の時期
永久歯の欠如や顎裂の状況を把握し、歯並びや咬み合わせを改善していくために矯正治療を開始します。歯列の拡大や、必要に応じて顎裂部への骨移植を提案します。
中学生の時期以降
永久歯での歯並び、咬合を改善するための矯正治療を行います。手術を伴う外科矯正が必要な場合もあります。