呼吸器外科

主な対象疾患

原発性肺がんや転移性肺腫瘍などの肺悪性腫瘍、縦隔腫瘍、肺嚢胞症・気胸などの嚢胞性肺疾患、肺真菌症・肺抗酸菌症・膿胸・縦隔炎等の炎症性疾患、胸部外傷、手掌多汗症など多岐にわたる手術を実施しています。また小児外科と共同で肺分画症、先天性嚢胞状腺腫様奇形(CCAM)などの小児先天性肺疾患も手がけています。

肺がん治療

現状

現在、日本における癌死亡者数のうち肺がんが約5分の1を占め、癌の臓器別死亡者数では第1位となっています。早期肺がんは症状がほとんど無く発見されにくいことが挙げられます。実際、自覚症状が出現してから受診される患者さんの割合はいまだ多く、この段階になると手術単独では根治が難しい場合がほとんどです。一方検診などで自覚症状なく偶然発見された場合などは、手術により根治が得られる可能性が十分にあります。

治療内容

当科での肺がん手術数(Fig.1)、高齢者の手術数(Fig.2)、5年生存率(Fig.3)。
病期に応じて治療方針を検討しますが、原則として病巣を含む肺葉切除およびリンパ節郭清を行います。

fig.1:当科での肺がん手術数

fig.1:当科での肺がん手術数

fig.2:高齢者の手術数

fig.2:高齢者の手術数

fig.3:肺癌切除症例術後生存率(2003~2007年)725例

ステージ 1年 2年 3年 4年 5年
ⅠA(n=382) 97.6 96.3 94.6 91.3 89.6
ⅠB(n=133) 94.7 87.0 79.9 77.5 72.6
ⅡA(n=23) 91.3 82.6 82.6 78.0
ⅡB(n=58) 81.0 60.3 53.2 47.7 45.7
ⅢA(n=76) 78.3 68.7 63.1 54.4 50.0
ⅢB(n=41) 87.2 82.1 79.5 76.8 68.6
Ⅳ(n=12) 83.3 75.0 66.7 58.3 50.0
全体(n=725) 92.7 87.2 83.6 79.8 76.6

肺癌 Stage 別生存率 2003-2007

肺癌 Stage 別生存率 2003-2007

fig.4 完全胸腔鏡手術の皮膚切開

fig.4 完全胸腔鏡手術の皮膚切開

ステージⅠ期(リンパ節転移のない4cm以下)の肺がんに対しては完全胸腔鏡下手術を施行しています。当科では腋窩に3cmの皮膚切開と他に1~2cm程度の皮膚切開を2か所おいて内視鏡視野で手術を施行します(Fig.4)。ただし、術中所見(癒着や高度の分葉不全、術中迅速診断でリンパ節転移が確認された場合など)によっては皮膚切開を延長する可能性もあります。術後創部痛は標準開胸と比較して軽く、手術侵襲も小さく、術後4~5日程度で退院可能となっています。

近年、内視鏡手術での事故例が報告され安全性が問題となっていますが、当科では適応に関して慎重に検討するとともに、経験豊富な専門医が術者として手術を施行しています。

いわゆる開胸術は当科では胸筋の温存を考慮し、15cm程度の皮膚切開で前方腋窩切開(腋窩より前下方へ切開)による開胸を基本としています。これ以外に後側方切開や胸骨正中切開によるアプローチもあります。
切除が一見困難な進行癌においては呼吸器内科や放射線治療科と合同カンファレンスを行い、術前に導入療法(化学療法や放射線療法)を施行し、病変の縮小を図って手術を施行します。また他科と協力の上周辺臓器などの合併切除を含む拡大手術や気管支形成術、肺動脈形成術などを施行する事もあります。また病巣の大きさ、リンパ節転移の有無、肺機能などを考慮して区域切除、部分切除などの縮小手術も行っています。

またここ数年は高齢化が進み、80歳代の手術も増加しています。術前の評価を慎重に行い、術前よりリハビリテーション、口腔ケア、栄養療法を開始します。術後もこれらを継続することにより術後合併症を減らし元気に退院していただくことを目標に周術期管理を行っています。

肺がんの術式について

fig.5

fig.5
肺がんの手術は切除範囲の広い方から順に
① 一側肺全摘術、
② 肺葉を切除する肺葉切除術、
③ 肺葉内のいくつかの区域を切除する区域切除術、
④ 肺の外側の小範囲を部分的に切除する楔状切除術(部分切除術)
の4種類があります。

肺がん標準術式:肺葉切除+リンパ節郭清(Fig.5-②)
肺がん診療ガイドラインにおける、根治手術可能な原発性肺がんに対する基本術式です。完全切除に必要な場合は二葉切除や一側肺全摘(Fig.5-①)を施行する場合もあります。当科ではおよそ75%を完全胸腔鏡下で行っています。

拡大手術
局所進行がん(肺がんや転移したリンパ節が隣接臓器に浸潤している場合)には、浸潤隣接臓器を合併切除する拡大手術を行う場合もあります。術前導入療法を加えて病変の縮小を図り、胸壁、横隔膜、上大静脈や心嚢、左房などの合併切除を行う場合もあります。

縮小手術:区域切除(Fig.5-③)、楔状切除(Fig.5-④)
現在2cm以下の小型肺がんに対する積極的縮小手術として肺区域切除術(Fig.5-③)を行っています。CT上で肺がんの陰影がスリガラス影を50%以上含むこと、腫瘍の位置などの条件にもよりますので、術前にカンファレンスで慎重に適応を検討して行います。また従来ならば肺葉切除(Fig.5-②)が必要ですが、高齢、低肺機能などで肺葉切除を行うことにより術後ADL低下をまねく可能性がある患者様に対しても、消極的縮小手術として行う場合があります。また、これらの区域切除を行う際、当院では近年後述のICG蛍光法 Navigation Surgeryを用いた3次元肺区域切除同定法を使用しています。

転移性肺腫瘍や多発小型肺癌、複数回の肺手術後の方、高齢・低肺機能の方には楔状切除(fig5-④)を行います。また当院では後述するCTガイド下マーキングなども行ってなるべく創部を小さくする工夫もしています。

当院で行っている胸腔鏡手術にむけての工夫

なるべく完全胸腔鏡手術を行うために、当院ではいくつか工夫している手技があります。

1. ICG蛍光法Navigation Surgery を用いた3次元肺区域切除同定法

当院では新しい胸腔鏡システムを導入し、上記の区域切除(Fig.5-③)を行う際に、区域切除線を正確に描出できるようにしています。まず術前に造影CTを撮像し、3D-CTを再構成し腫瘍と血管、気管支の走行の位置を確認します(Fig.6)。術中に切除予定区域に流入する血管、気管支を処理した後に色素(ICG:インドシアニングリーン)を静脈注射し、特殊な胸腔鏡で肺に赤外線を照射するとLED励起された色素が螢光を発します。蛍光を発しない部分が血管・気管支が処理されている切除予定の区域です(Fig.7)。この手技により以前はわかりづらかった区域切離線ですが、正確なラインを同定することができるようになりました。

fig.6

fig.6
3D-CTを用いた腫瘍(ピンク色)と 血管(赤:肺動脈、青:肺静脈)および 気管支(緑)走行の位置関係。
濃い緑は切除予定区域です。

fig.7

fig.7
ICG蛍光法。
緑色の蛍光部分が残すべき肺、蛍光されて いない部分が切除する予定の区域(濃い緑色の部分)です。

2. CTガイド下マーキング

先述の肺の部分切除を完全胸腔鏡下で行うために、術前にCTガイド下に肺表面に色素(ICG)を注入し印をつけます。これによって直接肺に触れなくとも部分切除が可能となり、小さい傷のみで手術が可能です。

術後在院日数

胸腔鏡手術が増えてきたことにより、術後創部痛が軽微で術後肺機能低下も少なく、術後QOLが良好であるため、通常は術後5-7日間という短期間で退院されております。近年当科では高齢者肺癌の割合が高くなってきており、また心疾患などの併存症をお持ちの方も術前からリハビリや周術期合併症の管理を十分に行い、極力短期入院期間となるように努めています。(Fig8)

fig.8:術後在院日数(肺癌)

fig.8:術後在院日数(肺癌)

診療内容

気胸

肺は肋骨や横隔膜に囲まれた胸腔の中にあります。このため何らかの原因で肺に穴があくと、肺から空気が漏れ出し胸腔内にたまり肺を圧迫します。この状態を気胸といいます。

肺の圧迫が強い場合、胸腔ドレーンという管を体内に留置する胸腔ドレナージを行い漏れた空気を外に排出します。しかし空気漏れの量が多い時や気胸を繰り返す場合は、手術を行い空気漏れの原因となっている嚢胞を切除します。手術は美容面を考慮し、原則は直径3mmの胸腔鏡を用い、3mmの皮膚切開を2つと1.5cmの皮膚切開1つの3つの切開で手術を行います。手術時間は1時間程度で、術後は通常3-4日で退院いたします。

縦隔腫瘍

左右の肺に挟まれた、心臓や大血管の周囲を縦隔(じゅうかく)とよびます。
この縦隔にもさまざまな腫瘍が発生し、原則切除を行います。
疾患としては胸腺腫、胸腺癌、胚細胞腫瘍(成熟型奇形腫、未熟型奇形腫、絨毛癌など)、神経原性腫瘍、気管支原性のう胞などがあります。手術方法としては悪性の疾患を疑う場合や腫瘍が大きい場合は、前胸部の胸骨を縦に切開する胸骨正中切開で行います。

また腫瘍が片側に存在している場合は胸腔鏡を用い行います。原則腫瘍から十分離れた場所で切除を行いますが、重症筋無力症を合併した胸腺腫の場合は、広範囲の胸腺をすべて切除する拡大胸腺摘出術を行います。縦隔腫瘍は局在が様々ですので、部位、腫瘍の種類によって手術アプローチを決定しています。

感染症

肺や、胸腔にはさまざまな感染症がおこります。基本的には呼吸器内科で化学療法を行いますが、薬剤の効果が乏しい場合や病変が残存する場合などは手術を行います。 対象疾患は非結核性抗酸菌症、肺真菌症、肺膿瘍、膿胸などです。 肺の中に病変がある場合は、病変部をすべて取りきるよう肺葉切除もしくは区域切除を行います。膿胸に対しては、急性期~亜急性期には胸腔鏡による膿胸郭清を行いますが、慢性期には膿胸郭清術の他に開窓術、大網充填術などを行います。

先天性疾患

手術対象になる先天性疾患としては、肺分画症や先天性のう胞性腺腫様奇形などがあります。肺分画症は通常検診で発見されることが多く、肺がんと同様の胸腔鏡での肺切除を行います。これらは最近では胎児健診で発見されることも多く、可能であれば出生後に児の成長をまち、2-3歳ごろに小児外科医と協力して手術を行っています。近年胸腔鏡の導入により、小児に対しても安全で美容面でも優れた手術が行えるようになりました。