呼吸器外科
最新技術を用いた術前マーキング方法と精密肺縮小手術
ハイブリッド手術室で行うRFID、ICG-VAL-MAP


小さな病変を、確実に取る
① RFID(Radiofrequency identification)マーキングとは
RFID(無線周波数識別)マーキングとは、小さなICチップを気管支鏡で肺の病変近くに留置し、手術中に専用の探知機で位置を正確に把握する技術です。後述する色素を用いたマーキング方法では見つけにくかった小型肺癌やすりガラス陰影(GGO)などの病変でも、確実な切除が可能になります。

腫瘍近傍に留置されたRFIDマーカー

ハイブリッド手術室で行う気管支鏡風景
方法
患者さんの苦痛を軽減するために、全身麻酔がかかった直後、手術直前にマーキングを行うことが特徴です。
- 全身麻酔後に気管支鏡でマーカーを留置: 細いカメラ(気管支鏡)を使い、病変の近くに数mmのマイクロチップを配置します。
- CTで位置確認:マーカーと腫瘍の位置関係を三次元的に確認します。
- 手術中に専用プローブで検出:従来ICG-VAL-MAPでは困難とされてきた深い病変に対しても病変の正確な位置を同定します。
- 精密な範囲で肺を切除する:肺を温存しながら、安全に病変を切除します。
② VAL-MAP(Virtual Assisted Lung - Mapping)とは
肺をとる手術の前に気管支カメラ(気管支鏡)を使って肺に色素を注入し、手術の際の目印をつける方法です。2012年に日本で開発され、微小肺病変に対する術前マーキング法として2018年から保険収載されました。
なぜマーキングが必要なのか?
近年、がん検診や人間ドックの普及と、画像技術の発達により、以前は見つからなかった小さな病変も指摘できるようになりました(図1)。

図1 CT画像
もともと肺の標準的な術式といえば、肺葉切除(右肺は3つ、左肺は2つの大きな袋に分かれており、その袋ごととる手術)でしたが、小さな病変については縮小手術(肺の一部分のみ取る手術)でも根治を目指すことができると言われており、肺機能温存の観点から縮小手術を選択することがあります(図2)。

図2
縮小手術においては病変を確実に取ることが大事になりますが、小さな病変は手で触れたり表面から確認したりすることが難しいことも少なくありません。そこでマーキングを行うことで、小さな病変を逃さず、かつ正常肺を取りすぎず、適切な切除範囲を見定められるようになります。
改良されたマーキング方法(ICG-VAL-MAP)
手術の前日に行います。まずは喉にスプレーの麻酔をしたあと、眠たくなるお薬を使います。
胃カメラと似たような処置ですが、鎮静薬によって患者さんは処置のことを覚えていないことがほとんどで、苦痛も少なく受けることが可能です。
事前に撮影したCT写真から3D再構成した仮想気管支鏡画像(図3)をもとに、レントゲン透視も併用しながら、気管支鏡を使って2~4か所程度色素を注入します。処置は30分程度で終わります。

図3 仮想気管支鏡画像

図4 3DCT
その後CTを撮影し、実際の病変とマーキングの位置を確認します(図4)。手術映像においても、きれいにマーキングが確認できます(図5)。

図5 手術映像
現在保険診療で認められているのは「インジゴカルミン」という色素を用いた方法ですが、当院では視認性向上のため、造影剤や特殊な蛍光色素(インドシアニングリーン)を混ぜて使う方法も行っています。いずれも体内に注射する薬剤ですので、アレルギーがない方には安全に使用できると考えています。
以前はCT画像を見ながら肺表面に針を刺す方法(CTガイド下マーキング)も行っていましたが、空気塞栓や出血などの合併症の観点から、現在では気管支鏡下に行っています。また、患者さんの苦痛を軽減するため、全身麻酔がかかった後の手術直前に行うようにしています。
RFID、VAL-MAPの適応・合併症
良い適応と考えられているのは、
- 原発性肺癌が疑われる小さなすりガラス病変
- 小さな転移性肺腫瘍
- 複雑な区域切除
などです。
マーキング後の合併症として気胸などがありますが、通常ごく軽微なものであり、今までに治療が必要だったことはありません。






