呼吸器外科
単孔式胸腔鏡手術の導入
より低侵襲な胸腔鏡手術(reduced port VATS)を目指して
単孔式胸腔鏡手術とは
これまで、当院では肺癌を中心とした胸腔鏡下手術(多孔式VATS)において、胸に3-4cm 程度の穴、及び1cm と1.5 cm の穴の計3 か所を開けて、胸腔鏡というカメラで画面を見ながらすべての手術操作を標準術式として行ってきました。
近年、アジアを中心に行われていた胸腔鏡下手術の中で、小さな傷口1 ヶ所のみで手術を完了することができる単孔式VATSが多く行われるようになりました。文字通り3-4cm の傷1 カ所のみで行うため、傷が小さな手術方法です。
単孔式胸腔鏡手術のメリット
傷口が少ないことの、患者さんの一番のメリットとして術後の痛み軽減が挙げられます。当院で行われた研究では単孔式VATSと多孔式VATSを比較すると、単孔式VATSのほうが術後疼痛は少なく短い結果を得ました。これはポート孔と言われる傷口が減った影響が考えられます。
また、特に若年者の患者さんでは傷口が一つのみであり、整容面でも手術を受けやすくなるメリットがあります。
当院の単孔式胸腔鏡手術
当院では2021 年9 月より自然気胸の手術に単孔式VATSを導入し、2021 年11 月から肺癌(臨床病期I 期)を中心に転移性肺腫瘍、炎症性肺疾患に対し手術を行っています。傷口は、肺葉切除や肺区域切除であれば3.5-4cm、肺部分切除では2.5-3cm、自然気胸であれば1.8-2cm の孔ですべての手術操作を行っています。
一つの孔での手術は手技の難易度の上昇が伴います。ゆえに様々な術中操作の工夫や単孔式VATS に対応した手術器具を使用すること、術前CT 画像から対象箇所の肺の血管や気管支などの構造物を3D 画像として作成し、手術時における必要な解剖を術前に十分に把握することが、スムーズな手術を行うためにも重要になってきます。これによって当院では従来の多孔式胸腔鏡手術と遜色ない手術の質を担保することが可能となりました。
一方で、単孔式VATSは歴史が浅いため、今後短期・長期的な治療成績・合併症などを見ていく必要があります。また、単孔式VATS自体は、すべての患者さんや疾患に対して行える手術ではありません。患者さんごとの病状、進行度合い、持病の有無などによって最適な外科治療をいかに提供していくか、主治医チームが判断いたします。
当院では呼吸器外科疾患に対する低侵襲手術として単孔式VATS、多孔式VATS、ロボット手術のいずれでも提供できる強みがあります。この選択肢の幅を生かしながら、個々の患者さんに適した外科治療を提供し、最小限の侵襲で最大限のメリットを提供できるよう、日々手術成績の向上に努めています。