Knews No.37 HEALTHY LIVING

手外科のはなし

松本 泰一
整形外科 部長

手外科ではどのような診療を行うのですか?

 手外科は、肘から手指までの上肢に何らかの変形や機能障害などの症状のある、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い患者さんが対象となります。具体的には、指の切断や靱帯損傷、腱断裂や腱鞘炎、リウマチによる手の障害など(表1)が対象で、手外科ではこれらの疾患の診断・治療にあたっています。

表1 手外科の主な疾患
外傷
(急性期)
骨折、腱損傷、血管損傷、神経損傷、切断指肢、軟部組織欠損など 指、手関節(手首のことです)や肘の骨折、捻挫など“けが”に起因した上肢の症状。疼痛やしびれ、指や腕が動きにくいといった運動障害です。
外傷後遺症
(慢性期)
手指欠損、骨折変形治癒/偽関節 けがの後、ある程度良くなったが、疼痛やしびれが続く、手指・手関節・肘関節が動きにくい、動かすと痛みが出るなどの症状です。指欠損、舟状骨骨折偽関節など。
慢性疾患 リウマチ関連疾患、手/肘/指変形性関節症、TFCC損傷、キーンベック病、手根管症候群など 指関節痛/拘縮、手関節痛、肘関節痛あるいはリウマチ疾患による手の障害(伸筋腱断裂、肘/手関節/手指変形など)。
スポーツ障害 野球肘、靱帯損傷、TFCC損傷など 保存的治療、手術的治療の両方を患者さんのコンディションとあわせ、よく検討して方針を決定します。
上肢先天異常 母指多指症、ぶらぶら母指、内反手、先天性橈尺骨癒合症など

生まれつき手指や腕といった上肢に先天的な障害がある赤ちゃんや子供さんの治療などを行います。機能的(つかむ、握るなどの機能)にも、外観や整容的にも配慮をして治療にあたります。

ほかにも、手のひらから指にかけてしこりができて徐々に指が伸ばしにくくなるデュピュイトラン拘縮や、感染性偽関節や慢性骨髄炎の治療として、イリザロフ創外固定器やマイクロサージャリー技術を駆使した血管柄付組織移植(皮膚、筋肉、骨)を用いて治療しています。手外科の代表的な疾患はたくさんありますので、日本手外科学会ホームページ(http://www.jssh.or.jp/)“一般の皆様”“代表的な手外科疾患”を参照していただければと思います(http://www.jssh.or.jp/ippan/sikkan/index.html)。

診断や治療の方法は?

 レントゲンやCT、MRIなどのさまざまな検査機器を駆使し、手外科専門医が症状のあるところを触診し、問題となっている原因が関節にあるのか、筋肉や腱にあるのか、筋肉を動かす神経にあるのかを診断します。1.5テスラ四肢専用MRIは、通常のレントゲン検査では見つけにくい骨折などの疾患の診断に効果を発揮します。
 治療ですが、手の構造は非常に微細で、またその機能は繊細ですので、手術には手術用顕微鏡や拡大鏡を用いた大変細かい手術技術(マイクロサージャリーといいます)を用います。切断された指肢を再接着したり、無くなってしまった体の部分を他の体の場所から移植して再建したりします。つかむ、握るなどの機能にも、外観や整容的にも心配りをしながら治療しています。患者さんが困っておられる症状をお聞きして、たとえ元通りにはならなくても、どうすれば使いやすい手になるのか、じっくりと話し合って治療方針を決めるようにしています。

リハビリも大切だと聞いたことがあります

 手術とリハビリは手外科の両輪で、どちらがうまくいかなくても治療成績は満足いくものとなりません。どちらも大変重要です。当院では整形外科専従の作業療法士が6人在籍しており、手外科の術後リハビリを担当しています。毎週金曜日はハンドセラピー実施時に手外科専門医とハンドセラピストが話し合いながら治療しています。リハビリ期間は最低でも約3か月で、手指の再建など大きな手術後は1~2年かかることもあります。
 入院期間ですが、小さな手術は日帰り手術や一泊入院で手術しますが、長期のリハビリや数回にわたる手術を要する場合は長期入院が必要です。

関節リウマチの分野で国産初の手首の人工関節が導入されたと聞きました

 関節リウマチは関節の滑膜の炎症をきっかけとして、軟骨や骨、靱帯、腱などを破壊・侵攻して手や肘などの関節や手指の変形が進む病気です。手関節のリウマチ関節は特有の変形があり、食事や整容、トイレ動作が障害されます。そのため手関節滑膜切除や手関節固定術などの治療・手術が行われていますが、手関節の可動性がなくなるなど、障害が残ります。
 痛みがなく、安定していて、かつ動かすことができるような手関節を再建する方法は、人工手関節置換術です。これまで日本では使用が認められていませんでしたが、このたび、日本で「DARTS人工手関節」が開発されました。厚労省の指導のもとで人工手関節が限定的ではありますが使用可能となり、当院も実施施設に登録されました。適応基準があり、原則として保存的治療に抵抗する関節リウマチまたはその類縁疾患手関節であることや、50歳以上であることなどが定められています。手関節痛でお困りの方がいらっしゃいましたら、整形外科にご相談ください。

DARTS人工手関節(帝人ナカシマメディカル)

埋植されたイメージ (医薬・生活衛生局 医療機器審査管理課 審議結果報告書より)